第20話 時計。
「え、と…ルシア?このままいたいんだけど、僕、もう無理みたいだから…その…降りてくれる?」
何度かの口づけの後…恥ずかしそうにアルがそう言った。
ふと我に返ると…なんてこと!淑女にあるまじき行為!!アルが身動き取れないように馬乗りだし…そういえばさっきから、何か当たるし……
そそくさとアルから降りて、ベッドの端に腰かける。頭に来たとはいえ…王族を襲ってしまった…自分の耳まで熱を持っているのがわかる。今になって恥ずかしさが押し寄せてきた。乱れた髪や、ドレスの裾を大急ぎで直す。
起き上がったアルが、私と並んで座る。
ごそごそと、上着のポケットを探っている。シルクのハンカチに包まれたものを取り出す。
「ルシア、手を出して。」
「え?」
そっと掌に載せられたのは、懐中時計?ブドウの蔓と実が丁寧に彫られている。
「ブラウ国に行ったときにね、職人街に寄ったんだ。僕とね、お揃い。」
アルが自分の上着の内ポケットから、金鎖につながれたブドウの彫刻が入った懐中時計を取り出して見せる。
「ブドウの蔓にはね、お互いに支えあう、って意味があるんだって。ルシアに渡せてよかった。」
ほっとしたような顔で、アルが微笑む。
この人から、お土産を、それもお揃いのものを貰う日が来るなんて…ついさっき、この人は婚約を破棄しようとしてたのに。アルがどんな顔でこれを買ったのか…そんなことをふと考えて、うれしくて笑ってしまう。
これからも一緒に、同じ時を刻むんだ。
「じゃあ、僕はこれから陛下のところに行ってくる。」
「私も行くわ。そうね、早い方がいいわ。私用のドレスだの宝石だのキャンセルできるかしら?もったいないわよね。」
座っていたベッドから、浮かしかけた腰をもう一度下ろして、アルが戸惑った顔で私を見る。
「…でもね…ルシア、もし…」
「?」
「もし、王命でこの婚約を解約することになったら…」
「あら。そしたら、おじさまの船を一艘盗んで、二人で国外に逃亡してもいいじゃない?うふふっ。ケセラセラ、よ。」
そう言うと、アルが驚いた顔で私を見てから…笑った。
二人でドアを開けて、歩いて行く。




