九話 ふさわしい一人の人間になりたい
知らせの内容通り、お偉いさんが偵察に来た。全員緊張する中、なぜか灯にばかり目を配り他のメンバーには目もくれない大人たち。伶奈の口から事情が語られる。
朝食を摂り終え、レッスン開始まで残り数分となった頃、なにやらリムジン?のような偉そうで強そうな車でエンジン音をけたたましく立てて宿泊施設裏に止まった。お偉いさんたち来たのかな、とりあえず急いで全員に集合をかけ車の元に向かった。
「おはようございます!シャインエール・プロダクション、Dreaming Makerのメンバーのマネージャーを担当しております、菅井世奈と申します!本日はよろしくお願い…」と言ってお辞儀をしようとしたところ、目の前をスルーされた。え?と後ろを向くと、
「じいちゃん!やっぱり来たんだ!」「灯ちゃん大きくなったねぇ〜」「可愛い娘さんだこと〜」お偉いさんたちが皆して灯ちゃんに群がっていた。伶奈ちゃんは少し距離をとっていた。
「あの、うちのメンバーの紹介も…」「ああそれは資料とかもらってるから大丈夫。さ、レッスンを始めてくれ。」「はぁ…」私の呼びかけには顔を向けずずっと灯ちゃんの相手をしている。とりあえず気を取り直して始めるしかない。
それからレッスンが始まった。が…
「灯ちゃんはやはり筋があっていいなぁ」「え、えぇそうですね。」お偉いさんは灯ちゃんの前から動こうとしない。他のメンバーなど目もくれずに。「…伶奈ちゃんも頑張っていますよね。」と私が言うと、なぜか白々しい目でこちらを見られた。「まぁ、灯ちゃんの踏み台ではありますかねぇ。」鼻で笑い、そう言った。思わず言葉を失ってしまった。伶奈ちゃんに目をやったが、やはり目を合わせてくれなかった。
「じいちゃんったらあたしのこと褒めすぎなんだよなー!!」今日分のレッスンを全て終え、灯ちゃんのおじいさんたちが帰ってから。夕食をかきこむ灯ちゃんだけがカラカラと笑っていた。…今日は伶奈ちゃんに話聞こうかな。
「俺たちには全く目もくれず、なんだか自信がなくなりました。」遠山くんがそう言ってため息をついた。「俺、いっつも偉いねって褒めてもらえるのに、今日はなにも言われなかった…ツタ兄もなにも言われなかったでしょ?」「うん、そうだな…」皆流石にしゅんとしていた。「伶奈ちゃん、あとでお話聞いても大丈夫ですか?」「…ええ。」今日初めて目を合わせてくれた。
また昨日と同じ屋上。今日はなんだか一段と風が冷たかった。ブランケットを膝にかけ、澄んだ星空の下問いかける。
「灯ちゃんのおじいさんってどんな方なのか分かりますか?」「…とにかく灯が大好きで、灯に優しいおじいさんです。…でも私のことはおまけ程度に思っているんです。」「いや、そんなことは…」流石にそれはないと思って否定しようとしたが、伶奈ちゃんは首を振った。
「結成当初に私一人だけ、呼び出されたことがあるんです。灯のおじいさんに。そこで『灯を引き立ててあげて、灯を映し出す空になってください』って言われたんです。その言葉を聞いて、支え合ってくださいって意味なのかなとか、星も空も一人では輝けないから、二人ずっと一緒にいてくださいって意味なのかなって思ったんです。」「違うの?」「それから、その言葉の本当の意味を知ったんです。私が想像した、そんな綺麗事なんかじゃなくて、ただ単に灯の邪魔をしない程度に灯を支えるだけ支えて、影の存在であれって意味だって…だんだん相手の思惑が分かってきました。灯はバカだから。おじいさんのその考えには気づいていません。そして灯はいい子だから、それが分かれば拳を振るって激怒するでしょう。そんな顔を見たくはないから、このままでいいんです。」本当に灯ちゃんのことを信頼してて、大好きなんだなぁって伝わってきた。灯ちゃんの方も、きっと伶奈ちゃんが大好きなんだろう。悲しい悲しい言葉のはずなのに、なぜか感じる暖かさは、『信頼』という言葉をを具現化したようなものだと思った。
「まぁ、二人が出会ったのはついこの間ですよね。これからもっと、二人じゃなきゃ意味がないってことを皆に伝えられるといいですね。」「…はい、もっとアイドルとして以前に、友達として灯に近づきたい!バカで素直で優しい灯にふさわしい一人の人間になりたいんです!」伶奈ちゃんは立ち上がった。その澄んだ瞳に星の輝きを反射させた。ライバルだってことは忘れてはいない。でも、アイドルとしてじゃなく、人間として応援したくなった。




