19.ロードの場合③
「ロード!ロード!」
リゼットの声が聞こえる。
昔はこの甲高い声を毎日聞くのが鬱陶しかったのだが、今は愛おしくさえ感じる。
「ロード!!起きなさいってば!!!」
「?!」
頰に痺れるほどの衝撃を受けて、ロードは飛び起きた。
「ロード!!やっと起きたーー!!!」
頰を叩かれ頭がクラクラしてるところにまた腹部に新たなる衝撃が加わる。
見覚えのある栗毛がロードの視界を埋めた。
「………、リゼット?」
「ロードぉおーー!ロードーー!!」
リゼットが泣きじゃくりながらロードに抱きついていた。
リゼットを反射的に抱きしめ返しながらロードは周りを見渡すと、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたり微笑んだり、怒りを顔に露わにしたりしている見慣れた人々がいた。随分久しぶりに見た顔たちな気がする。ロードのいた施設の職員たちや子供たちだ。
「いやー、お熱いですなぁ」
「若いっていいですなぁ」
「感動の再会ってこういうことね〜素敵!」
「ロード兄ちゃんいいなー」
「仲良しだね!いい事だね!」
「くそ!早く離れろよロード!!」
ロードが最後に見た時には血まみれだった人もいた。しかしその光景は幻だったのかというくらいに特に傷は見当たらず、微笑みながらロードとリゼットを見ている。
「………、みんな、無事なの…?」
「無事ではないなぁ。死にかけた!」
「俺もまじで死んだと思った!あんな激痛はもう懲り懲り」
「わたしも怖っ…怖かったよお」
ロードが恐る恐る声をかけると、臨死体験をしたんだ、死ぬほど怖い思いをしたんだと皆それぞれが声をあげた。しかしロードが見る限り、全員そんな大怪我を負っている風には見えなかった。
「…なんだ、みんな元気そうだね」
ついそんな言葉がロードの口から漏れた。
「まぁな!これも、あのお嬢ちゃんのおかげだぜ」
「お嬢ちゃん?」
「ロードもお嬢ちゃんに連れてきてもらったんだろ?金髪の長い髪の女の子さ。チャイニーズ顔の青い目の」
「…みんなも?」
あの少女が?
「そうさ。死にかけてたところで、お嬢ちゃんに助けられて、この世界に連れてきてもらったんだ。全員の命の恩人さ。」
ロードは少女を嫌いだと思った事を少し反省した。それでも、まだ信用した訳ではないが。
「その命の恩人はどこいったの?」
「ロードを連れてきたあと、目がさめるまで見ててくれーつってどこかに行ったよ」
「はぁ…。あの子、一体なんなの?」
「何も知らずに連れてこられたのか?彼女は魔女で、この世界を創ったカミサマさ」
「…………はあぁあ?」
世界を創る魔法。幻の魔法とも呼ばれるが、確かに存在する魔法だ。数百年前にその魔法で魔法界は作られたのだと、ロードは魔法界の学校で教わった。
確かに存在するのに何故幻と言われるのかというと、その魔法を使うことやその魔法について調べる事自体を魔法界の政府が全面的に禁止にしているからだ。
もし調べようとしている事が見つかればそれだけで刑罰が与えられる。そんな禁断の魔法だった。
そうしてロードは少女の言葉を思い出す。
---私も結構危ない橋を渡ってるの---
あれはそういう意味だったのだろうか。
『世界を創る魔法』で創った世界がここなのだとしたら、少女は魔法界に於いてれっきとした重犯罪者の魔女だ。
…まぁ、実際創った世界に住んでしまえば法律など関係がないのだろうが。
「まぁ、でも魔法界でも人間世界でもないこの世界に連れて来られて、俺は良かったな」
「私もそう思うわ。あの世界居心地悪かったし。この世界が居心地良いかっていうと、まだわからないけれど。」
ロードが考えている間にも皆は話を続ける。
ロードは知らなかった事なのだが、ロードのいた施設の職員や子供達の大半はロードと似たような境遇だった。ロードはてっきり、皆人間だと思っていた。
「え?皆は皆がそうだって知っていたよ?ロードは何で知らないの?」
「え…」
「ほら、ロードあんまり皆に興味なさそうだったから」
「あ〜、まぁ聞かれなきゃ言わなかったかも。」
「ロードも自分の事話さなかったしね」
「……。」
確かに、気になったとしても口に出して聞いたりする事はなかったような気がする。
ロードは自分だけ蚊帳の外だったのかとこうべを垂れた。
聞いてみれば施設の職員、子供たちは全員ロードのような魔法使いと人間の混血だったり、ヴァンパイアなどの亜種の血が混ざっていたり、人間なのに魔力が強かったりなどだった。
確かにおかしいと思う事もよくあったとロードは思い出す。
7歳のマリアは、人に噛み付く癖があった。それはマリアの種族の習性でありマリア自身も制御ができないようで、人に噛み付いて血を流させては自分が泣いていた。
職員であるアルドはひょろひょろした背の高い男で筋肉もありそうにないのだが見た目に反して力持ちだ。一度出先でガス欠した車を1人でガソリンスタンドまで押して行った。本人にとっては何でもない事だったようだが、周りから驚かれひどい騒ぎになった。
ロードより1つ年上のカトリーヌとは、リゼットと同じくロードが施設に来た時からの付き合いになる。最近はカトリーヌも大人になり落ち着いて来たので感情的になる事さえ減ったのだが、昔はよくカトリーヌが泣き叫んだり怒ったりすると窓ガラスに一斉にヒビがいったり割れたりした。学校でカトリーヌは『悪魔憑き』と言われていた。
魔法界にいた頃はそういった、それぞれに特有な力や悩みがあることは特に珍しくなかったのでロードはあまり気にしてこなかった。
しかし人間世界の人間たちは気にせずにはいられないようでたちまち噂になり、その噂が魔女狩りの団体に目をつけられるきっかけになったようだ。
「ロード、私たちの家に案内するね!カミサマ達が私たちのために作ってくれたの!」
マリアがはしゃいで言うので、泣き疲れてうとうとと眠そうにし出すリゼットの手を引き皆で移動する事にした。
こちらと人間世界の時間の進み方は違うらしく、マリアたちはこちらの世界に来てもうすでに4日経ち、家もあるらしい。ロードが来た時はちょうど、皆傷が癒えて一息ついたところだったようだ。どうやら、この世界の物を口に含むと人間世界での傷は治るらしい。皆は感激したと目を輝かせて話すが、それは何か、食べる事によって別の『なにか』になりつつあるようで恐ろしい事だとロードは思った。
しかし皆はカミサマに良くしてもらっているらしいのでとりあえずは良しとしようと、ロードは押し寄せる不安を一生懸命もみ消したのだった。
「ここ!これなの!」
ロードが目覚めたのはピンクの花をつけた木のふもとだった。そこから休憩しながら野原を歩き続け、やっと辿り着いたところには集落があった。
高い白い塔がすぐに目に入り、その手前にある、数えるほどしかない家たち。そしてマリアが指差した先はどの家よりも大きな屋敷だった。隣に教会もある。
ロードたちが暮らしていた施設に良くにていた。
「カミサマたちにね、こーゆーのって絵に描いたらつくってくれたの。ちょっとなんか違うし大きいけど、そっくりでしょう?中は全然違うの!」
「すごい…な…。そんな数日で簡単につくれるものなの?」
「魔力で何でも創れるみたいよ」
ロードの疑問にカトリーヌが答えてくれた。
「カミサマ達の特権みたいだけどね。」
「へぇ…」
魔力で何でも創れる?こんな大きな建物も?
この世界について疑問は尽きないが、先程から気になる事がロードはあった。
「カミサマってあの金髪のロングヘアーの子のことだよね?複数いるの?」
「そうよ。その金髪の子はアクアっていうの。その子を含めて6人だか7人だかいるわよ、カミサマは。」
「…6、7人で創った世界ってことか」
「私たちはそう聞いているわよ」
屋敷の中に入ると、マリアが言った通り中は元いた施設と全く違う作りになっていた。
前は部屋数が少なく、食堂とリビングの他の部屋は女子部屋と男子部屋に分かれているだけだった。それが各部屋に分かれている。数人が自分の部屋が欲しいと主張した結果らしい。
「ロードの部屋はここ」
屋敷に入ったあと、リゼットやカトリーヌ達とは「また後で」と言葉を交わして別れたが、マリアだけはロードを部屋の前まで案内した。
「ありがとう、マリア」
「うふふっ」
ロードがお礼をいうと、マリアは嬉しそうに笑って廊下を駆けて行った。
久しぶりに世界を移動したロードの疲労はすでに限界だった。リゼットたちと再会も出来て心に余裕ができた事もあり、ロードは魔法界を出て以来、初めての自分だけの部屋で休む事にした。
---少し休んでから、アクアに色々と問い詰めよう。
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