青春する?しない?
木々に囲まれ、どこか神聖な気配を感じる鳥居の向こうには石造りの階段が広がり、上の方に微かに本殿と思われる建物の屋根がちらりと見える。夕方という事もあり、どこかこの世のものとは思えない独特な雰囲気を感じる。
「ここが月詠神社か。でかいな」
「当夜、この神社大きいから今日はここまでにして、休みの日にきちんと参拝に来ないか」
純は空の色と腕時計の時間を確認しながら言う。すでに空は茜色に染まりかけている。あと1時間程で夕食の時間になる。夕食時に食堂にいなかったら寮長である和希から雷が落ちる事は明白。最悪夕食抜きを言い出されかねない。
「えー、でもそうか。時間がたっぷりあったほうが探索にはいいもんな!」
どこか見当違いな事を言いながら当夜は納得したように頷く。そんな当夜に純は呆れたように息を吐く。
「まぁ、納得してくれたならいいか」
そう呟きながら、現在地から寮までの道を純は頭の中で思い出す。そして、帰る気になってくれた当夜に声をかけて、寮への道をくだらない話をしながら歩いていく。
そんな2人の後ろを吹き抜けるように風が吹いた。
♢♢♢♢
月詠神社の奥にある社から紅の袴を羽織った詩織が出てくる。
「お役目、お疲れ様」
社から出てきた詩織に近くの木にもたれかかっていた瑞稀が声をかける。月詠神社の奥の社の前で詩織のお役目が終わるのを本を片手に待っていた。日はもうすぐ落ちそうで、あたりは赤く染まっている。
「瑞稀、来てたの?」
瑞稀の姿を確認し、詩織は驚いたように目を見開く。
「最近何かと物騒だしな。それに奏さんが特対に呼び出されたって事は能力者関連で何かあったんだろうし、用心に越した事はないからさ」
軽快な笑みを浮かべながら瑞稀は詩織に近づく。そして詩織の頭をポンポンと優しく叩く。
「とりあえず、着替えてこい。今日は高校登校初日だったし疲れただろ? 早く帰ろうぜ」
「そうだね、学校自体はそこまでだったけど、その後のカフェで疲れたよ。九条さんが凄すぎて……」
放課後の出来事を思い出すように詩織は遠い目をした。それを見て「あぁ……」と瑞稀も顔から表情が消える。
しかしすぐに笑顔を作り、詩織と向き直る。
「まぁ変わった子達だったけど、仲良くなれるといいな。唯華っていう共通の知人がいるから、今までよりも足がかりはあるだろ」
「別に友達が欲しくて学校に行ってるわけじゃない」
「いや、それは知ってるけど、友達いたほうが学校生活楽しいぞ? 3年なんてあっという間って言うし、お役目以外にも目を向けろよ。青春しなよ」
詩織は興味なさそうに言うが、瑞稀は食い下がる。少しでも人生を楽しいと思って欲しい、それは瑞稀の偽りのない本心だった。しかし、親の心子知らずというように詩織には全く通じない。
「確かに瑞稀は青春してるよね。1回あったけど、如月さん強烈だったし、そういう人が好きなの?」
友人だと家に遊びに来た和希の事を思い出しながら詩織は聞く。すると瑞稀はいやいやいやと首を横に振る。
「和希は女だけどどっちかって言うと男友達のノリなんだって! あいつを女だって思ってる奴ら友人にはいないぞ!?」
和希が聞いたら怒りそうな事を平然と言う。そこからは信頼を感じる。詩織は「そうなんだ」と興味なさげに伝える。
そして話しながら社の近くにある納屋に着くと瑞稀に一言伝えて中に入り、服を着替える。
服を着替え終えると待っていた瑞稀と合流して、受付の売り子に納屋の鍵を託す。
大鳥居を潜り、その先に続く石造の階段を瑞稀とたわいない話をしながら、降りる。階段を半分ほど降りたところで、詩織は何かを気になったように足を止める。
「? どうした?」
突然足を止めた詩織を不思議そうに瑞稀は見る。しかし詩織な気にしていないように振り返り、本殿の奥を見る
「……なんでもない。何か声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいだと思う。それより、奏さんから何か連絡あった?」
「そうか。まぁ何かあったら教えろよ」
詩織にそういうと瑞稀は携帯を取り出し、メッセージの確認を行う。
「特対の呼び出しの件で続報が入ってる。」
「なんて?」
「なんか、能力者を狙った連続誘拐事件が起きてるらしい。犯人も能力者の可能性が高いって」
「そう、そのまま能力者同士で潰しあってくれればいいのに……」
詩織は独り言のように小さく呟く。詩織の両親は能力者の暴走に巻き込まれ亡くなった。だから詩織は月詠の巫女のお役目として島の秩序を望んでいると同時に能力者を憎んでいた。それを知っている瑞稀は詩織の呟きを聞かないことにして、努めて明るい声を出す。
「とりあえず、俺らの目的はこの事件の裏を知ることだな」
詩織の頭に優しく右手を置いて安心させるように瑞稀は笑う。その様子に詩織は無意識に入っていた体の力を抜いた。それに気付き瑞稀は小さく息を吐く。
「まずは、明日奏さんと合流して情報収集だな。今日はもう遅いし、多分連絡あってもメッセージで直接会うのは遠慮しそうだからな、緊急事態じゃなければさ」
瑞稀の意見に詩織も頷く。そして、また階段を降り始める。
階段を1番下まで降り終え、階段の終わりにある鳥居を潜ると、先ほどの違和感に後ろ髪を引かれて神社の方を振り向く。しかしその正体に気づけないまま、2人は家路についた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。




