特殊能力者対策部署
「あっ、中原さんちーす」
御影署の特殊能力者対策部署ーー通称特対部に割り振られた部屋に入ってきたオッドアイの男は中原の姿を確認するとチャラさを隠さずに挨拶をする。
「風見……。お前、人の連絡無視してどこに行っていた」
「かったいなぁ」
風見は笑いながら自分の席に着く。
「それよりも2日のシージャックは"サーカス"で確定なんすか? なんか今までと違う感じがしたっすけど」
椅子の背もたれの後ろに腕を回しながら風見は少し前に起こった事件に関しての疑問を口にする。
「それに関しては私から説明するよ、風見くん」
向かいの机に座っていた奏が風見の方を見る。
「あれ、天宮ちゃんいたの?」
奏をみて風見は驚いた顔をする。それに奏は呆れる。
「先にいたからね。それで"サーカス"の話だけど、情報提供があったの。どうやら"サーカス"創始者が上手くまとめられていないみたいで内部分裂が起きていたみたい。今回はその離反組が起こしたから、一般人にも被害が出てるんだと思う」
奏の言葉に、ふーんと興味なさそうに風見は答える。
「なるほどねー、まぁ高尚な考えを持ってるやつは少ないって事っすねー」
一般人を巻き込まないようにしていた"サーカス"の考えを風見は高尚だと思っていた。なんなら少し"サーカス"には同情していた。自分達は数ヶ月に1回だが、出ようと思えばいつでもこの島から出られる。しかし、能力者にとってこの島は監獄だ。来たくて来たわけでもない人も多いはず。そんな被害者のはずの彼らがまるで犯罪者のように扱われているというのは思うところがあった。その点は中原と風見は共通認識だ。
しかし奏は違う。恩人が能力者の事故に巻き込まれて亡くなったこともあり、能力者は全て悪だと考えている。この特対部は主にこの3人が主軸として動いているが、すでに能力者への考え方で相違が起こっていた。
中原と風見は奏のスタンスを知っているから、お互いに思うことはあれど奏の前では能力者に対して友好的な発言はしないようにしている。そして風見は中原が必要悪と言い、能力者の協力者がいる事も知っていたが、天宮が知れば怒りそうという感想以外何もない。
風見のスタンスは最小限の被害で済むのなら、能力者が協力してようがどちらでもいいと思っていた。犯罪を犯すのは能力者だけではない。この島の人口と犯罪数を比較すると能力者よりも普通の人たちの方が犯罪数は多いぐらいだ。だからこそ能力者というだけで差別するこの島の上層部の考えは理解できなかった。
「でも、"サーカス"が内部分裂してるってのはやべぇんじゃないっすか? 今後、一般人にも危害が加えられる可能性があるっつー事っすよね? 派手に動かれると能力者の存在を隠さないといけない俺らにとっては動きを制限される」
風見は中原を見ながら真剣に言う。中原もそれに頷き、近くにあるホワイトボードに今わかっている情報を記載していく。
「天宮の話だと、"サーカス"内にも能力者の自由や権利を認めてもらう為に抗議をしている集団と、島から出る事だけを考えている集団、少なくともこの2つがあるわけか」
「そうですね、特に後者がこれから私達が取り締まりを強化しないといけないですかね」
「そうっすねー。でも目的が島からの脱出ならしばらくは大人しいんじゃないっすか? 元々、連絡船に乗れたの自体不思議なんですし」
風見はそう言い、この島の港の警備を思い出す。乗船場はアーチ型の看板があり、船に乗る為には必ずそこを通らないといけない。そして、島から能力者が出ようとすると特対部や島の上層部に連絡が入り、すぐに出動する仕組みになっている。
船から下船した際は御影島にいてもらわないと困る為、反応しない。これは能力者研究機関の天才科学者が発明した物の一つで、それまでは能力者の名簿と見比べて人力で島から出るのを阻止していた。一時期、能力者には発信機をつけるべきだと議論されたことがあるが、流石に能力者にも人権がある。島にいる犯罪者にさえやっていない事をやるべきではないとまともな考えを持った人がいたようで、その計画は白紙になった。
代わりに天才科学者が登場し、能力を無効化する腕輪など様々なものを発明しこの島の能力者管理に役立てていた。
「風見の言う事も一理あるな。とりあえず、俺らの仕事はどうしても先読みできない。後手に回ってしまう分、日頃から備えるぞ」
中原の言葉に2人は頷く。そして、能力者関連の情報共有をしていくのだった。
♢♢♢♢
「遅かったね」
唯華はリビングで椅子に座り、コーヒーを飲みながら帰ってきた詩織達に告げる。
「ただいま、唯華。入学式どうだった?」
「特に変わりない。そうだ詩織、クラス同じだったよ」
唯華はそっけなく答える。しかし詩織は嬉しそうだ。
「ほんと? 唯華とは初めて同じクラスになるね」
「そうだね、で苗字が同じだとややこしいから私は山吹がいいから他の呼ばれ方してね、詩織」
唯華は言いたかった事だけ言うと飲みかけのコーヒーを持ち、立ち上がる。
そしてリビングから出ていこうとして、何かを思い出したように立ち止まる。
「今日の入学式は休んでたけど、明日は来るの?」
その問いに詩織は笑顔で頷く。そうっと伝えると唯華は今度こそリビングを出て行った。
「唯華は本当に相変わらずだなぁ」
詩織と一緒に帰ってきた瑞稀は苦笑する。そして詩織に向き直る。
「でも、本当に今日の入学式出なくてよかったのか?」
「うん。奏さんとの対能力者への検討の方が大事だったから」
そう言って詩織は瑞稀を安心させるように笑う。
「明日が私の初の高校登校になるから、支度するね」
そして瑞稀を残して詩織も部屋に向かうのだった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は明日、火曜日の20時に更新予定です。
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本作は、私が高校生の頃に授業中に書いていた書きかけの小説を発掘し、十数年越しの供養をかねて執筆を再開した物語です。
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