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【フム】  作者: ガイア
23/30

衝撃の真実

今回で物語がぐっと動きます

「ふむ....これからどうするか」


牢屋の中で僕達はただただ立ち尽くしていた。


「ボク達はマルカに騙されていたという事かな?」


レイミーは、呆然と鉄格子を見つめて呟いた。


「そういう事だな。マルカは最初から僕達をここに連れてくるつもりだったのだろう」


「そもそもレイミーが自分でランコの事をボクの妹とか言っていたのが悪いんじゃないの?」


フムがレイミーを無表情で見るが、レイミーはキョトンとしている。


「ん?妹?そんな事言った覚えはないが」


「言ってたよ。ボクの妹を誘拐した奴を許せないーって」


「えぇ!?いつだ!?」


「ちょっと前。レストランで」


「何で教えてくれなかったんだ!?」


レイミーが、がしっとフムの肩を掴む。


「もう口に出しちゃってたからフムにもどうしようもできなかったの!」


フムは肩を掴んだレイミーの手を掴んだ。


「まぁまぁ二人共落ち着いてくれ。とりあえずランコを起こそう」


眠っているランコを揺すってみる。

が、起きない。

ランコは、白いタンクトップに黒い丈の短いズボンといういつもの白い女の子らしいワンピースとは全く印象の違うアクティブな格好をしていた。


「ランコ、起きてランコ」


声をかけてみる。

が、起きない。

さて、どうしたものか。


「ランコ!起きろ!ランコ!」


レイミーが首元をひっつかみランコの耳元で叫んでみる。

鼓膜が破れないかというくらい大音量で。


「ひゃあ!」


ランコは思わず高い声を上げて飛び起きた。


「大丈夫か!?ランコどうした!?」


レイミーがランコの肩に手を添え声をかける。


「いや、あんたの声でびっくりして飛び起きたんでしょ」


フムがそれにツッコみをいれ、僕達はランコを囲むように座る。


「大丈夫か?ランコ」


「....アーサー。うん、大丈夫」


最初は、虚ろな表情だったランコからどんどん目に光が戻っていく。


「何ここ....私、何でこんな所にいるの?皆も」


目が覚めたら自分は薄暗い牢屋の中。

そりゃ驚くだろう。

僕は、ランコを落ち着かせるように目線を合わせ、自分は、冷静を装う。

僕が冷静で落ちついていれば、ランコも混乱する事は少ないはずだ。


「説明は後だ。何があったんだ?ゆっくりでいいから話してくれ」


「.....えっと.....ね」


ランコは、すぅと息を吐き僕達とはぐれた時の事を語り出す。


「私は、いい匂いのする方向にいったら皆とはぐれてしまって。どうしようかと途方にくれていたの。そんな時ぶつかったのが、マルカっていう私そっくりの女の子だった」


「マルカ....」


「知ってるの?」


僕がぽつりと呟くとランコが反応して、僕を上目遣いで見る。


「あぁ、いや、続けてくれ」


「えっと...それでね。あまりにも私に似ているから驚いて、その時マルカに突然手を握られて「助けて!追われてるの!」って、言われたの」


「......ふむ、成る程それで?」


マルカは、ランコを連れてくる為に芝居をしたということか。


「二人で走って狭い路地に隠れた。マルカに話を聞くとマルカは大きな屋敷のお嬢様で、執事達の厳しい指導に耐えかねて屋敷から逃げ出してきたらしくて。屋敷に毎日閉じ込められて勉強の日々がどうしても嫌で、誕生日の今日だけでも地上に出て普通の女の子として生活したいって」


「今こう聞くと嘘くささ100パーセントの話だな」


フムが大きく頷いた。

無駄に長いし壮大だし、いやでも自分と全く同じ顔の人がいて、そんな話をされたら信じてしまうものなのか?



「マルカに私には連れがいるって話をしたら、特徴だけ教えてくれれば街の役場に大きな掲示板があって、そこに書いておくって。そしたら必ず知り合いとも会えるって。会ったら私が偽物という事を伝えておくから皆で次の日屋敷に迎えにいくって言われたの」


「成る程。僕達とも会えるってマルカは言ったんだな」


多分僕達と会う気なんてさらさらなかったんだろうなぁ。

その役場ってのもあるのかどうか。


「一日だけならって。話を聞いていたらなんだか可哀想になってしまって。屋敷に閉じ込められて籠の中の鳥みたいで。マルカは、明日絶対皆で屋敷に迎えにいくって言ってくれたから....シト兄さんもなかなか見つからなさそうだったし....誕生日くらいはって事で」


「入れ替わったのか」


「そう。服も交換したの」


成る程。

完全に信じてしまったんだな。

同じ顔の男の子が追われている助けてくれ。なんて言ってきたら自分はなんて答えるだろうか。


「服を着替えた後、私が代わりに執事さんに捕まった。車に乗った時に突然ハンカチで薬を嗅がされて....気がついたらここに」


「ふむ.....成る程。それで」


僕の言葉を遮りギィという音と共に重い扉が開いた。

背の高い、白髪で髪の長いやせ細った男がするりと入ってきた。

後ろにはマルカが付き添う形で。


「ほう」


白髪の男は顎を触りながら僕達をじろりと見る。品定めをしているように、じろじろと。

正直気持ち悪い。


「まさか...貴方がマーチス・イアンビリーさん?」


手に汗を握るレイミーが平静を装い男を見据える。

僕も正直この奇妙な男を見ていると胸が押しつぶされたような気持ちになる。


「あぁ、いかにも。私がマーチス・イアンビリーだ」


こいつが....イアンビリー家を恨んでいるランコやレイミー、シトさんの父親ルーカス・イアンビリーの弟。

マーチス・イアンビリー。

マルカを改造した話は本当なのだろうか?

だが、殺人鬼の子供達を作り出したのはこの男なのだろう。


「む」


マーチスは、僕を見て目を見開いた。

骨と皮しかないようなやせ細った骸骨のような顔で、眼球だけ大きい不気味な顔。


「なんだよ」


「........おぉ。おぉ....大きくなったな」


マーチスの大きな瞳から涙が一筋頬をつたう。


「........どういう事だ」


なんだ。嫌な予感がする。

気持ちが悪い。なんだこの気持ちは。なんだこの胸のざわめきは。

ぐるぐるとした毒が回ったような。そんな嫌な感じが僕の体を駆け巡る。


「あぁ.....あぁ、あぁ、私と彼女の遺伝子が、まだこうして生きているなんてな」


どういう事だ?遺伝子?は?は?は?彼女?こいつは何を言っている?嫌だ。聞きたくない。なんだか、なんとなく僕はこいつの言いたい事がわかる気がするから。


「お前は私とフィーネの子供だ」


「フィーネ.....?」


「........フィーネ、お母様?」


ランコが、呆然とした表情でマーチスを見た後大きく目を見開きゆっくり僕を見る。


「そうだ。ランコ、レイミーお前達の母親もフィーネだな。そうだな。お前達は、必要ない。私と愛する息子、アルト。お前さえいればいい」


何を言っているんだ?

わからない。

なんで今僕を見て僕に手を差し伸べているんだ?

何でそんなに僕を愛おしそうに見ているんだ?


「僕は、アーサーだ。アルトというのは、誰だ?なんで僕を見る?」


「もうわかっていることだろう?お前の父親は私。母親はフィーネ。こちらに来て全て話そう。家族がやっと揃ったんだ」


ギィと牢屋の扉が開き、マーチスが僕ににっこり笑いかける。


「........マスター」


フムが無表情だが、とても心配そうに僕を見た。


「フム......僕は」


僕は........マーチスの話を聞いて聞きたい事、知りたい事が山程ある。

不安な事も多いし、何より当然出て来た男に父親だ、なんて言われて冷静になれるわけがない。

今自分がどういう表情をしているのかもわからない。

だが、僕は知る為に来たんだ。この街に。

自分の事を。

シトさんの居場所も聞きたい。


「僕は、彼に話を聞くことにするよ」


心配そうなフムと、震えているランコといつも頼りがいのあるレイミーが不安げな表情を見せている。


「大丈夫。シトさんの居場所も聞いてくる。ちょっとまってて」


僕は、まっすぐマーチスを見据えた。


「僕は貴方と話をする。だが、彼女達の解放を約束したら、だ」


「そうだな。構わない」


マーチスはすんなり応じた。

だがそれも嘘かもしれない。


「今すぐ牢屋から彼女達を解放するのが条件だ」


「あぁ、そうかい。だが、逃したすぐ後に君も一緒に逃げてしまうかもしれないだろう?話をしている間に私としても一人だけはこちらで保険が欲しい」


「....マスター」


フムが、僕とルーカスの会話を遮り僕の目を見つめる。


「フムは残るよ。マスターがここにいるならフムもここに残る。解放されたって出て行かない」


「フム!」


「私も、こんな危なそうな所にアーサーだけを残して自分は逃げるなんて、そんな事できないよ。何があるか、わからないんだよ」


ランコは、今にも泣き出しそうだった。


「ボクも賛成だ。君をこんな所に残して解放されてもストレスで胃に穴が開くだけだ。それに、何点かそちらのルーカスさんに話を聞きたい事もあるし」


レイミーは腕を組んでちらりとマーチスを見た。


「はぁ....何言ってんだよ皆」


「そういう事なら、早く私の部屋に来て話そう。アルト」


マーチスは、優しい笑顔で扉を指し示しながら僕に話しかける。

心底嫌な気持ちになる。

自分には名前があるのに、自分じゃない人の名前で呼ばれて、でもそれが自分の名前なのか、それさえもわからない。

変な感じがする。


「僕はアルトじゃない」


僕は、ゆっくり立ち上がり一歩一歩マーチスに近づいていく。


「........大丈夫だ。話をすれば分かり合えるさ」


マーチスは、僕の肩に優しく手を添え扉へと誘導した。


「待て。アーサーに貴方が何かするかもしれない可能性は....!」


レイミーがハッとして叫ぶが、


「大切な我が子に何かするわけがないじゃないか。マルカ見張っていなさい」


「はい」


さっきまで一言も言葉を発していなかったマルカが、ロボットのように返事をし、ランコ達のいる牢屋の前に立つ。

そして薄暗い部屋の重い扉はゆっくり閉ざされ、僕はその後衝撃の真実をマーチスの口から聞かされる事になるのだ。

本日も読んでくださりありがとうございました。

種明かし編は書いていて止まりませんね。

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