マルカの叫び
久々に更新です。
これからペースを崩さず毎日更新したいものです。
「殺されてる....って?」
震えながらマルカを見る。
確かに目の前のマルカはそう言った。
ランコは殺されているかもしれないと。
これは復讐なのだと。
「どういう事なんだ?それは」
「.....だから、これは復讐なんだって。イアンビリー家同士で強い因縁があって。あんた達みたいにイアンビリー家に関係ない人達はわかんないかもだけどさ」
「.......」
マルカは僕達をランコの友達だと思っている。
レイミーがランコの姉という事を知らないというのは少し違和感に感じるが。
「ねぇ、あんた。イアンビリー家の次女を連れてくるように言われたのよね?」
フムが、俯いて低い声で問いかける。
怒っている。
フムは、とても怒っていた。
ゆっくり顔を上げると皿の上に乗ったナイフをひっ掴みマルカの目に突きつけた。
「それで殺されてるかもしれないって?ふざけんじゃないわ。あんたのせいであの子が危険な目にあってるって事でしょ?」
フムは無表情に、だが確かな怒りを込めマルカにナイフを突きつけていた。
「そうだよ」
マルカは全く動じなかった。
自身の目にナイフを突きつけられているにも関わらず少し前かがみになったら刺さってしまいそうな距離にナイフの切っ先があるというのに。
マルカは微笑み、そうだよ。と答えた。
分かっているんだマルカにとってそんな事は。
「仕方ないじゃん。だって父さんの念願の夢なんだもん」
だが目は全く笑っていなかった。
マルカは口だけ歪ませさっきの明るい様子とは少し違う異様な雰囲気を醸し出していた。
本当にマルカなのか?
さっきまでの子供のように無邪気な雰囲気は取り払われなんだか人間じゃない生き物との会話を見ているような気持ちになる。
「夢ってなに」
「父さんは、ルーカス・イアンビリーを恨んでいた。ルーカスの奴は父さんを苦しめた。父さんの人生はあいつのせいで狂ったそうだ。娘のあたしも復讐に協力する事になった。仕方ないよ。仕方ないんだ」
「ランコが死ぬかもしれないのも仕方ないっていうの?あの子は何も悪くないじゃない」
フムはナイフを持つ手に力を込めた。
「だから仕方ないんだって。あいつの娘に生まれたんだから」
「仕方ない仕方ないって。君は関係ない人を殺す事になるかもしれないのに。君はその"娘"と面識もないじゃないか。何も罪悪感とかは感じないのかい?」
レイミーがついに口を挟んだ。
先程のマルカに向けていた優しい笑顔は消えていた。
「罪悪感?何で?あたしがこんな顔になったのだって、そのイアンビリー家の娘を殺す為なんだよ?そんな事までされてなんであたしが今更罪悪感なんて感じるのさ」
何を言っているんだ....?
マルカは明らかに様子がおかしい。
目を見開き、興奮気味にガタリと立ち上がった。
「関係ない?関係あるに決まってんじゃん?何言ってんの?あたしはイアンビリー家に復讐する為に顔までその娘の顔になった。体も所々いじられたんだ。ほら、ナイフだって全然怖くない。ふふ...でもついにこの日が来たんだ!父さんは毎日復讐とイアンビリー家の恨みの話しかしなかった。あたしはその道具なんだ。あたしは人間じゃない。父さんの復讐を遂行するロボットなんだ。父さんを狂わせたあたしの人生を狂わせたイアンビリー家を許さない!」
何を言っているんだ....。
マルカは、立ち上がり叫び、顔をかきむしり────そして涙を流していた。
マルカが、フムの向けていたナイフを右手で握るとナイフは粘土のようにふにゃりと曲がった。
「なんだよそれ」
マルカは、イアンビリー家の復讐の為に父親から顔をいじられ変えられ、体も改造され....人間的な扱いをされていなかったのか。
マルカは涙を流しながら悲痛な表情をしていた。
ずっと心のうちに隠していた闇を僕達にぶちまけているようだった。
改造....あの殺人鬼の子供達の事がちらりと頭に浮かんだ。
「マルカ」
僕は、立ち上がりマルカを見た。
「なに」
マルカは涙を拭いながら僕を見た。
「マルカは道具じゃないよ」
「うるさい。お前になにがわかる」
「だって────」
「うっうっマルカ!マルカ!」
「うわっ!何!?突然抱きついてきて!」
僕の言葉を遮り、レイミーが大粒の涙を流しながらマルカに抱きついた。
「......マルカ!マルカ!ボクは君を憎まないといけない、怒らないといけない立場だというのに、なんだか話を聞いているうちに....その思いはあるのに、君を根本から悪い風に見えないんだ。さっきの君を見ていても涙が、涙が止まらないんだ」
レイミーは泣きながらマルカを強く抱きしめた。
「何だよ!突然抱きついてくんなよ!やめろよ」
「マルカ可哀想」
フムもマルカに近寄り頭をぐっしゃぐしゃに撫でた。
「やめろー!!やめろー!!!」
僕は、暴れるマルカが少し微笑みながら涙を流しているのを見てマルカの涙を袖で拭った。
「やっぱり。マルカは道具やロボットなんかじゃないよ」
「なんだよお前まで」
「ロボットや道具だったらそんな優しい表情しないよ。それにさっきみたいに悲痛な表情迷ったような表情するはずがない」
「...........」
「頼むよ、マルカ。僕達と一緒にランコを助ける手助けをして欲しいんだ」
「..........父さんを裏切るなんてできない」
「馬鹿か君は!」
レイミーがマルカに叱咤する。
「君は洗脳じみた事をされている。君の父さんは君を娘だと思っていない。ボクは君に酷い事をした、君を利用してボクの妹を誘拐したその男を許せないよ」
「.........でも」
「大丈夫だ。ボクが君をその父さんから解放してあげよう。全くイアンビリー家の父親にはろくな奴がいないようだな」
呆れたようにレイミーがため息を吐く。
マルカは、深呼吸し、落ち着いたようでにっこり笑った。
「ありがとう。お姉さん。二人もありがとう.....あたし、人間扱いされたの初めてだ。優しくされたのも、初めてだ。あたしの為に泣いてくれてありがとう。あんた達の友達、助けに行こう」
マルカは、頼もしく言って、また涙を流した。今度は暖かい涙だった。
「あぁ、ありがとう。案内してくれ」
マルカが席を立ち、レイミーがそれに続く。
「行こう。マスターランコを助けに」
「あぁ」
***
上手く騙せたかな?ひひっひひひ、父さん、"姉"を見つけたよ。
今さっき口を滑らせたんだ。
こいつで最後だ。
父さんの復讐は、もう直ぐ終わるよ。
連れて行くから待っててね────父さん。
本日も読んでくださりありがとうございます。
キャラはざっくり決めて会話させながら肉付けをして行く派です。




