お姉さんレイミー
昨日は更新できず申し訳ないです....今全く書かないジャンルの、ギャグ小説を書いている所なので書けたらまたあげようと思っています。
「フムちゃんの体は、今フムちゃんの家にいるのか...フードの男、それは間違いなくお兄さ...兄貴だな」
レイミーは、昔からずっとシトの事を尊敬し、お兄様と呼んでいたがいつのまにか引きこもりになり何もせずイアンビリー家の案件を何も言わず自分に丸投げして部屋に引きこもりだした彼の事を兄貴と呼ぶようになっていた。
何故か発明の依頼は全く来なくなったが。
レイミーは発明でなくコンピューターやプログラムで機械を動かす方が得意なのでそちらの仕事を受け持ち、イアンビリー家で唯一外に出てクライアントから仕事を得たり挨拶回りをしたりし、よく家を空けていた。
「そろそろ君のマスターを呼んでこようか」
レイミーはファゾラとフムのマスターであるアーサーを呼びに行った。
一方その少し前──。
僕は、ファゾラが実はランコだという事実や、フムがファゾラの家に来てファゾラとどんな話をしたかなどの話を聞いた。
ランコとファゾラが同一人物という事は驚いたが、二人とも僕の大切な友達という事には変わりない。
「そうか、だからファゾラといたら安心したんだな」
「嘘をつくつもりはなかったんだけれど状況が状況だったからあぁいうしかなかったの」
ランコ、いや今はファゾラが、申し訳なさそうに俯いた。
「いや、ありがとう。僕の為に動いてくれていたんだな。本当に僕はいい友達を持ったよ....ところで僕はこれから君をなんて呼べばいいだろう?」
積極的で頼り甲斐のあるファゾラと、面白くて変わり者でずっと前から仲良しだったかのように接する事ができるランコ。
「そ、そうね.....その、アーサーは、ファゾラの時の私と、ランコの時の私、どっちが好き?」
両手の人差し指と人差し指をツンツン付き合わせ口を尖らせる彼女に、僕は迷わず答えた。
「どっちも君なら好きに決まってるけど」
「いや、その....そ、そっか。そうか。ど、どうしようかなあはは....実はどっちで呼んでもらうかっていうのは最初から決めてたの」
彼女は、太ももに握りしめた拳をおいて力なく笑った。
そして、僕の目を見てはっきりと言った。
「ランコって呼んで。フムちゃんは私じゃなくてランコに頼んだの。アーサーを助けてって。アーサーの友達であり、フムちゃんのライバルでもある、ランコに。だからフムちゃんを助けるまでは、ランコって呼んで」
「あぁ、わかった...ランコ。いやなんか違う顔の人にランコって呼ぶのちょっと変な感じだな」
「あはは、私もこの格好でランコって呼ばれるのは変な感じがするよ」
へへへ、と青い髪のランコは頰をぽりぽりとかいた。
「ところでライバルって何のことだ?」
「こ、こっちの話だから!」
ランコは、フムがアーサーに恋愛感情を抱いている事実は隠し、フムがアーサーと離れ離れになる予感がしていたから、もしそうなったらランコにアーサーを頼むという事を告げられたと話した。
それはフムが体を取り戻した時に直接アーサーに伝える事なのだから。
その時、突然扉が開きレイミーが顔を出した。
「ちょっと下に来て!フムちゃんと話せるぞ!」
僕とランコは、顔を見合わせレイミーに小走りでついていく。
「フム.....!」
「マスター!」
画面に手をついて二人は再会を果たした。
僕は、画面越しのフムを見て涙が出そうになった。
「よかった....!!フム!」
「マスターも本当に無事でよかった...」
「感動の再会のところ悪いんだけど。そう喜んでもいられないんだよ」
二人の感動の再会の空気をぶった斬ったレイミーは、人差し指を立て、説明する。
「まず、フムちゃんはそこのクソ野郎のせいで脳と体に分けられて、脳がデリートされかけてしまったわけだけれどその脳の部分は今ボクが再生させたんだ」
腰に手を当てて親指で自分を示すレイミー。
「だが、再生させたのはいいがボクは一時的に消えかけているフムちゃんを応急処置的に再生させたに過ぎない。実はフムちゃんの脳はずっとこの電脳空間に居られるわけじゃないんだ。元々外からきたものだからね」
レイミーは、アーサーの方を向いてはっきりと言う。
「だから、早々に体を見つけてまた脳と体を一体化させないといけない。じゃないとまた本当にフムちゃんは消えてしまう」
「フムが消える....」
僕は、また胸が苦しくなり右胸をぎゅっと握りしめた。
「そして残念ながら体の方はボクの兄貴であるシトという男が持ち去っている」
「何であんたの兄貴はフムの体を持ち去ったんだ?」
「それがボクにもわからない。おい、ハゲ何故かわからないか?」
全員がおっさんに集中する。
「そ、それが...よく分からないんだ。最初は、少女を連れてきた事さえ忘れかけていたんだが、しばらくした後に突然ハッと思い出したと思うと誰かに盗まれた!!犯人は誰だ!?きっと持ち主のガキだ!と...」
頭を抑えながら話すおっさんに、他の白衣の男達もウンウンと頷いた。
「それで血相を変えて地下室を飛び出しているところにたまたまボクが居合わせ、どうしたのか聞くと研究の為に借りてきたロボットが何者かに盗まれたっていうから、家にある監視カメラ巻き戻して見て見たら兄貴がフムちゃんそっくりな少女と手を繋いで出てくるところを見た」
「手を繋いで出てくる?脳と体が別れたら体の方はどうなるんだ?」
僕は当然フムを脳と体に分裂させた事はないので、フムの脳と体を分裂させたら脳は残ってこうして話ができる事はわかったが、体の方はどうなるかまではわからない...。
「手を繋いで出て行った所を見るともしかしたら体の方に別の意思ができてしまっているのかもしれない」
レイミーが腕を組んで答えた。
「体の方は全くフムちゃんと別人って事?」
ランコが話に入る。
「そういう事になるな。歩いているわけだし。ところでハゲはお前はフムちゃんを盗んで来た時の事をどこまで覚えているんだ?」
レイミーは、またおっさんに話を振る。
「....フムちゃんを連れてきた事実だけは思い出した、だからそこから何者かに盗まれた事も認識があった。だがその過程などは覚えてない。あくまで事実だけだ」
他の白衣の男達もウンウンと頷く。
「成る程。兄貴が何かしたのかもしれないな」
おっさんは、目を見開いて慌てたように、
「な、何をされたんだあいつに、私達は!?」
とポニーテールの女に詰め寄った。
「知らん、脳とかいじられたんじゃないか?彼は兄貴は元は天才、神童と呼ばれていたじゃないか」
ポニーテールの女は面倒臭そうにしっしっとおっさんを振り払った。
「....天才?神童?何を言っている?シトはずっとただの引きこもりだったろう」
本当に何を言っているのかわからないかのようにおっさんは言うが、
「あんたこそ自分の息子の事も忘れたのか?散々金儲けに利用してたじゃないか」
ポニーテールの女も負けじと食い下がる。
正直僕は話についていけなかった。
「とにかく!そんな事はいいのよフムちゃんの体をお兄様から取り戻さないといけないんでしょう?」
ランコが二人の間に割って入って話を戻す。
「そうだな。なんだかよくわからんが今二人は君の元の家にいるみたいだ」
「何で僕の家に?」
首を傾げフムを見ると、フムも僕を見て首を傾げた。
「もしかしてお兄様、フムちゃんをアーサーに返しにきたんじゃないかしら?」
ランコが手をパチンと叩いていうが、
「さぁ、どうだろう。ボクも彼が考えている事は全くわからないからな。これからボク達で兄貴の今いる君の家に行ってみるしかないな」
ポニーテールの女はパチンと指を鳴らした。
「何でお姉様も?」
ランコは自然と出た疑問を口にした。
「お?ファゾラは二人きりを邪魔されるのが嫌なのかい?」
ニヤニヤとランコを見るレイミーに、ランコは少し顔を赤くした。
「ち、ちがいます!た、ただ普通に、何でかなーって」
「や、単純に君達を助けてあげたいと思っただけだよ」
僕とモニターのフムをみてポニーテールの女が言った。
僕は、信用するかは別として、まずは彼女に言うことがあった。
彼女の前まで言って頭を下げる。
「ありがとう!!本当に、あんたがフムを助けてくれたから僕はまたこうしてフムと話をする事ができたんだ!本当に感謝している」
僕は、彼女の両手をとってブンブン振るくらいに感謝していた。
彼女の手は豆一つない白くて長くて細い手だった。
「嬉しいけどなんか複雑。何でマスター、他の女に触っているのよ。まあ今は目をつぶっててあげるけど」
フムが腕を組んでブツブツと呟いた。
「お、おぉ、いいんだよ。ボクが善意でやったことだ。それと、ボクの名前はレイミー。ランコのお姉さんだよ。よろしく頼む」
青い髪のポニーテール、ランコのパッチリとした瞳とは対照的にキリッとした紫の瞳、黒いシャツに白衣を羽織ったどことなくランコに似てはいるが年上のお姉さんな雰囲気を醸し出している。
「あぁ、ありがとう。僕はアーサー。天才発明家アーサーといえばわかるだろうか」
「え?君、あの有名な天才発明家アーサー君?」
「うん」
「ほー?こんなに若かったんだ。噂はかねがね聞いているよ。すごいや本物を拝めるなんてね。よくパーティで囲まれている真ん中にいるよね?」
「まあね...」
「自己紹介は!すみましたね!さあ!早くアーサーの家に行ってフムちゃんの体をお兄様から返してもらいに行きましょう!」
「ますたぁ、その人と喋りすぎ」
ランコが突如真ん中に乱入してきた。
フムもモニターの向こうで心なしかむすっとしている。
「あぁ。はは、そうだな。では、早速支度をするとしよう」
レイミーはふふ、と笑うと大きなリュックサックにパソコンやら、資料やらを詰め出した。
「フムの家、地図をモニターに表示」
モニターのフムが、画面に地図を表示した。
「お姉様、そんなに遠くないですよバスを乗り継げば割とすぐにつきます」
「そ、そうなのか?....だ、だがボクはいつも出かける時は仕事道具を持っていくのが癖なんだ。だからいいよ」
そう言ってせっせと支度を始めたので僕とランコは玄関で待つことにした。
しばらく待ったのち、レイミーが走ってきた。
「すまないな。あのおっさん達が勝手にフムちゃんの脳のデータに構わないように厳重にロックをかけていた。奴らは勿論連れて行かないしな」
レイミーは、大きなリュックサックを背負って現れた。
「お兄様にフムちゃんの体を返してもらうだけじゃ....何ですかその荷物」
「だからボクはいつも外出時には大事なものをこうして持ち歩いているんだよ。あのハゲに何かされたらかなわないからな。あのハゲには、もう絶対フムちゃんに手出しはさせないと伝えたから....妙に簡単に納得していたのがちょっと不思議だったけれど...」
パンパンに膨れたリュックサックを背負い歩き出すレイミー。
その力はどこから出てきたんだって言うくらい長身だが細身のレイミーに、僕は前から疑問だった事を問いかけた。
「なぁ、レイミーって自分の事僕って言ってるけど....」
「ん?」
「レイミーって、もしかして男なの?」
「え?」
レイミーもランコも心底驚いたような顔をしていた。
「おいおい困ったなぁ。このボクのこの豊満なおっぱいを見てもそう思うのかい?」
僕の顔の前で胸を強調するようなポーズをとってみせるレイミーに、ランコは慌てた様子で僕とレイミーの間に割って入る。
「お姉様!ハレンチです!」
「いや、確かにそれを見てあれ?女は性別上胸があるはずだと思ったんだけどなって思ってたけど、僕っていうし、何か背が高いしランコやフムみたいに女の子っぽくないしどっちかっていうと格好いいから」
やれやれと首を振りレイミーは、ウインクした。
「女の子イコールかわいい、というわけじゃないんだ。さては君女の子とあんまり関わった事がないな?いやどちらかというと人と、か。世の中には色んな人がいるんだ。ボクみたいに女なのにボクっていったり、あのハゲみたいに男なのに私っていったり男っぽいのにボクみたいにおっぱいが大きい人もいればランコみたいに女の子っぽいのにおっぱいが小さい子もいるんだ」
「な、ど、どういう意味ですか!」
ランコが、自分の胸を隠し顔を真っ赤にする。
「まあ君は若いし、少しずつ学んでいけばいいさ」
「若いしって、レイミーは何歳なの」
「ん?ボクは19さ」
「嘘だろ。大人っぽいから20は絶対いってると思ってた」
「ふふ、まぁね。よく年より上に見られがちだけれども、まあそのおかげで20歳以上しか閲覧できないデータや機械を違法に研究させてもらえたりしてるからラッキーなんだけど。まあボクは発明家というよりは研究家というかコンピューター関連の何でも屋って所があるからまた何かあれば力になるよ」
レイミーは、にっこり笑って僕を見た。
ランコは、二人の話についていけず一人、二人の後ろをとぼとぼ歩いていた。
アーサーは、少し後ろにいるランコの方に後ろ向きに下がり、にっこり笑って話しかけた。
「流石ランコのお姉さんだな!ランコみたいにいい人だ。お兄さんはどんな人なんだ?」
「....私もよくわからないの。お兄様はずっと部屋から出てこなくて、最近出てきたけどすぐ部屋に戻っちゃって」
ランコは一瞬嬉しそうな顔をしたが、質問に答えられなかったからかしゅんと俯いた。
「そうか....でも、ランコとレイミーのお兄さんならきっといい奴だよな。おっさんにフムの体を悪用されないようにきっと持ち出してくれたんだ」
僕達は、月夜の街を歩きフムの体とランコとレイミーのお兄さんがいる、僕とフムの家に向かった。
そこで僕は、衝撃の光景を目の当たりにする事になる。
僕とフムの家が──燃えていたのだ。
今回も読んでくださり本当にありがとうございます。
実はお気付きの方もいるかもしれませんがイアンビリー家の子供達の名前にはちょっとした法則があってですね。




