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第82話 大探索

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

「まさに戦争の備えだなあ」


 帝都オルガの郊外に軍隊の野営地が増えてきた。帝国諸侯に精霊種、獣人種、亜人種等々。軍旗も様々で色とりどりに並ぶ陣幕は祭りのようだと不謹慎に思う。


 そんな野営地の間を俺たちは皇太子の元へ歩いていく。


「これ全部がエドウィン皇太子の号令で集まった訳か」

「ウィル、それは少し違うかな」


 俺の言葉にホセが訂正をくれる。


「前にも話したがマクベタス1世の頃に帝国と彼ら諸民族は激しく対立した。それこそ帝国の歴史上指折りの相互不信状態だ。その後いくらか緩和したものの、エドウィンが彼らに信頼されているとは言い難い」

「他人事みてえだが、アンタは帝国の政治には関わらねえのか?」

「私は過去の遺物だ、極力口出しは避けている。それでも必要とあらば昔の伝手を頼ることもある」

「伝手って?」

「色々と方法はあるのさ」


 ホセの言いぶりは何かしたということかな。この男が隠し持つカードはまだ一部しか見せていないという気がする。


「そんなに信用してないならさあ、どうして皆集まってくれたの?」

「異形の神が絡んでることが分かったから?」

「それもあるだろうが、何より彼らを動かしたのは……」


 ホセが指さす先に人の列があった。というより人垣、その間を一際風格のある人物が通り抜ける。


「エルフの王ファリエド。彼が説得すれば多くの種族が腰を上げる」

「あれが……」


 セレナさんが息を飲んでる。あのファリエドという人、俺から見ても特別だと分かるよ。


「なるほど、あれが本物のエルフって訳か」

「誰がニセモノじゃい」

「これから代表者を集めて会議のようだ。どれ覗いてみようか」


 ホセが野次馬のようなノリで俺たちを率いていく。アンタあのエルフ王と仲間だったんだよね、信じていいの?



***



 うわヤバい。一際大きなテントから異様なオーラが。中を覗けば指すような空気が肌に触れた、これは平和的な会議じゃない。


「え~、お集りの方々には厚くお礼申し上げる」


 覚えのある声、確か帝国宰相のセルディック。その隣にはエドウィン皇太子、戦陣とあって軍装に身を包み、難しい顔で腕を組んでいた。


「帝都オルガの地下に広がる迷宮を攻略し、魔の勢力から解放するため力をお貸し願いたい」

「一つよいか」


 挨拶も終わらぬうちに口を開いたのは獣人の男。鹿型だろうか立派な枝角が隣の紳士をかすめる。


「獣人種の代表、獣王ナラーンだ」


 すかさずホセの解説が助かる。


「な、何であるか獣王殿」

「皇太子殿、言うまでもなく我らの多くは帝国と長い争いの歴史を持つ。それが武器を携え参じたのは帝国のためではない、そこのファリエド王に頼まれればこそである」

「言葉が過ぎますぞ!」


 宰相とナラーンがにらみ合う。それをエドウィンが手を上げて制した。


「その点は重々承知している。何にせよ招請に応じてくれたことに感謝する」

「それともう一つ。皇帝オズワルド陛下は過去に鋭鋒を交えた仲だが、矛を収め我々と対話する姿勢を示された」


 ナラーンが首を傾ける。枝角が隣の紳士を突き刺す。


「その皇帝だが良からぬ噂を聞いた。貴殿ら周りの者たちが皇帝を幽閉、あるいは暗殺して政治の権を奪い取った、などとな」

「そのような証拠でもあるのか?」

「口さがない噂かもしれぬ。だが迷宮を攻略した後、我らと帝国の関係については新たに線引きさせてもらうつもりだ。そのこと忘れぬように」


 ……重い。空気が重い。彼らの帝国に対する感情はなかなか難しいようだ。


「右から宰相セルディック。隣は北部総督ノルデン、ハイランダーの猛者。東部のヴァレンディル伯爵、ウッドメンの家系で歴戦の軍略家。あちらの女性はニンフ族の女王イレニア。小柄なのはノーム族の酋長(しゅうちょう)ヤムリンド」


 ホセが一人ずつ解説していくが、指し示す指が途中で止まる。


「やれやれ本当に生きていたのか」

「誰?」

「ドワーフ族の王ゴッツ」


 それって戦士ゴッツ、ホセやファリエドと同じ勇者のパーティーか。


「でもホセさん、ドワーフの寿命って……」

「約三百歳。ゴッツは確か三百五十を超えるはず」


 かなり長寿だな。そのゴッツは見るからに高齢でウトウト舟をこいでいる。ギリギリじゃないか、よく来てくれたな。


「この“大探索”が発動された理由の一つがあのゴッツだ」


 一つか、まだ色々と複雑な事情があるらしい。


「ファリエドと同じくゴッツも強い影響力がある。だがご覧の通り、いつ亡くなってもおかしくない状態だ」

「むしろかなり頑張ってるわ……もし彼が亡くなったら」

「まずドワーフ族が非協力的になる。そしてファリエド一人では皆を説得しきれない。そうなる前にケリを付けたいというのがエドウィンの目論みさ」

「ファリエドとゴッツの二人はあくまで帝国に近いの?」

「腐れ縁という奴さ」


 それは勇者エレアの作った帝国だからか。戦争もあったのに複雑な関係みたいだな。


「さて、この重苦しい空気を少しでも和らげたい。ウィルに協力してもらえるかな?」

「俺に?」


 この重鎮たちに俺なんかが太刀打ちできるだろうか。それでもホセの誘いに乗って俺は会議場に踏み込むことにした。


「お集りの方々、失礼する」


 堂々と現れたホセ、黒々としたローブに覆面という出で立ちに視線が集まる。


「何者だ?」

「ホセという者だ」

「ホセだと?」

「まさか貴殿が“三賢人”の賢者ホセか!?」


 何人かが目の色を変える。

 “三賢人”とは、長い帝国の歴史で偉業をなした伝説的魔術師たちだ。確か「探求者ユースフ」、「静かなるヨセフ」、そして「賢者ホセ」。


「こちらにエレア王子をお連れした。ご挨拶を」

「え!?」


 ここでそのネタかよ。これで本当に和ませられるんだろうな?

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