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第81話 オズワルド②

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

 オズワルドに関する話題は次第に細かなものへ移り、マリアンが一つ質問を投げかける。


「ところでホセさん、皇帝陛下とご家族との仲は――」

「その辺りはベッシの方が知っているのではないかな?」

「仲は悪くなかったと思われます。ですが気難しい方で睦まじいというものでもなかったかと」


 私もそう思う。オズワルドは基本的に孤独だった。少なくとも彼がマティルダ皇后やエドウィン皇太子と過ごす時間は、どこか義務的な行事のようで、見えない壁の存在を感じさせるものだった。


 エドウィンは迷宮探索にあたり皇帝の捜索を重要目標に掲げている。その点を父への想いと受け取る者もいるようだが、私に言わせればそれは違う。彼は恐れているのだ、父親を。


 ベッシが話す間に視線をウィルに向けた。彼がこの話題を切り出してきたのだが、ここまでの話で満足しているだろうか。

 彼は何か掴んだ、それを確認するために私を訪ねたのではないか、そう思えてならない。


 そこでウィルが手を上げた。


「オズワルド陛下が若い頃、長期不在になった時期があったはずだけど」


 私の隣でベッシの義手が小さく動くのが見えた。私も骨じゃなければ眉を上げていたことだろう。

 ウィルの言っていることは事実だ。だが公にはされておらず、彼がどこから聞いたかと驚かされる。


「確かに。昔、陛下はエルフ族との戦争で大敗した。軍は散り散りになり陛下自身も行方不明になられたが、二年の後に帝都へ帰還された」

「二年も後かよ、怪我でもしたのかエルフに捕まってたのか」

「その辺りはワシにも分からない」


 ベッシが下を向く。彼は先立つドワーフとの戦争で腕を失っており、エルフとの戦争には加わっていない。もっとも参戦していれば命を落としていたかもしれないが。




 一通り話し終えてこの場は解散となった。オズワルドについて情報を共有した仲間たちは背伸びをしながら退室していく。アイリーンは欠伸をしながら。

 そんな中ウィルだけは椅子に座って考え事をしていた。


「何か掴めたかな?」


 ウィルの目が私を向く。今は彼と私二人だけ、この時を待っていたか。


「ホセ、俺は迷宮でこのドリームズ・エンドを使った時に」


 ウィルの腰にある短剣、古代のアーティファクトだ。


「誰かの記憶を見た」

「ほう」

「その記憶の中で見たことを確認したかったんだ」

「……それはつまり、誰の記憶なのかということかね」


 誰の、などと言う必要はない。答えは出ている。


「俺が見たのはオズワルドの記憶だ」

「……」

「それだけじゃない、迷宮の構造もおかしい。四層の古城はオズワルドが戦ったドワーフの城、五層の番人はオズワルドに処刑された近衛騎士。きっと他の階層もそう、あらゆる所で皇帝と関りがあるんだ!」

「ウィル、少し落ち着き給え」

「ホセ!」


 落ち着いていられないか。


「帝都が侵食され皇帝が行方不明になったと聞いてる。だからエドウィンも迷宮で手掛かりを探してる。でも逆なんじゃないか?」

「逆とは?」

「“侵食があってオズワルドが消えた”んじゃない、“オズワルドが消えて侵食が起きた”んじゃないのか?」

「ウィル……」

「だってそうだろう、あの迷宮はオズワルドの記憶で出来ているんだよ!」


 やはりそこに行き着いたか。私は最初、帝国との関りという線で迷宮を見ていた。だがより深く調べ考察すれば、あらゆる線がオズワルドに集まることに気付く。


「なあホセ、迷宮の奥には何があるんだ? 皇帝はどうなっているんだ、アンタなら分かるんじゃないか?」

「……ウィル、真相とか真実というものには明かすべきタイミングがあるのだよ」

「誤魔化さないでくれ」

「その真実をもっとも深く抱えながら戦っているのは、恐らくエドウィンだろう」

「エドウィン、皇太子……」


 エドウィンも真相に近づいているだろう。そして真実がもたらす結果にも。


「ウィルよ、君がエドウィンの助けとなってくれるならば、彼が真実と如何に戦っていくか見守ってあげてほしい。彼には君の助けが必要だ」

「……ごめんホセ、焦ってたみたいだ」


 それは無理もない。ウィルも迷宮に己の謎、その答えを見出そうとしているのだから。


「ああそうだ、もう一つだけ」

「何だね?」

「オズワルドの周りに道化師のような男がいなかった?」

「道化師?」


 道化師……道化師ときたか、また妙なことを尋ねる。


「記憶にないな。オズワルドもマクベタスもそういう類の人間を好む質ではなかった」

「……そっか」


 それでウィルの質問は終わった。部屋に一人残された私、その足下をマイケルがウロウロする。


「いよいよ始まるにゃ?」

「ああ、終わりの始まりだ」


 結末は近い。迷宮の深層へ至れば答えは嫌でも明らかになる。

 迷宮を生み出した源泉、それは異形の神、夢幻の柱ナイメリア。その力に形を与えたものがオズワルドの記憶、この場合は夢か悪夢か。


「泡沫の夢か、永久の夢となるか……」

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