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第80話 オズワルド①

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

 まず断っておくが、私こと賢者ホセは帝室と親密ではあるが、方々へ旅に出ているため不在の時期も多く、彼らの全てを知っているわけではない。誰かが「たまに顔を出す親戚のおじさん」などと言ったものだが苦笑するばかりだ。


「私で語れない部分はベッシに補足してもらうとしよう」

「承知した」


 皇帝オズワルドについて語る。そのためウィルにガロ、セレナ、アイリーン。さらにマリアンやクロエ、キャサリン、マイケルまでいる。人を集めて講義するのは久しぶりのことだ、腕が鳴る。骨も鳴る。


「オズワルドについて語る前に時代背景について触れねばなるまい」

「長くなりそうだな」

「安心したまえガロ、長くなる。話はオズワルドの二代前、皇帝エレア4世から始めよう」


 彼は人々から“霊帝”エレア4世の名で呼ばれる男だ。


「人間種を中心に築かれたアルテニア帝国は、その歴史の多くを種族間の軋轢と共に過ごしてきた。時に争い、時に手を取り合い、そんな中で一つの転換点を迎えたのがエレア4世だった。

 彼は民族融和を唱えながら獣人、エルフ、ドワーフ等、複数の種族から姫君を娶ることにしたのだ」

「たくさんの女性と結婚したってこと?」

「そう、合計五人にもなる」


 結婚の習慣については文化の違いがあるが、帝国で主流なのは一夫一妻である。それをエレア4世は五人も宮廷に迎えたのだから当時の人々は驚いたものだ。

 ……なお真相を語ると、エレア4世は獣人の女性に首ったけだったのだよ。結婚を認めさせるために民族融和を大義に掲げ、目くらましと均衡が生じるように五人もの姫君を受け入れたという訳だ。反対する大聖堂への献金も多額に上ったものだ。


 エレア4世が偉いのは彼女たちを皆それなりに愛して悲しませなかったことにある。だが同時に別の問題を生じることにもなるのだ。


「彼の選択は一定の期間は効果があった。実際に種族間の交流が増え、互いに抱くイメージも好意的なものへと変わっていった。だがエレア4世には王子が十人も生まれたのだ」

「十人、ってそれじゃ」

「そう、後継者の座を巡って争いが生じた。なまじ妃に上下の差を作らなかったため王子の序列も明確にはならず、それぞれのバックにいる種族の後押しがそのまま対立を激化させていった」


 彼らは互いに刺客を送り冤罪を着せ暗闘を繰り広げた。結果として王子のうち三人が暗殺され二人が自殺、二人が変死という惨状を呈する。


「か~っ、これだからお家騒動は嫌だぜ。帝国ともなると規模もデカい」

「人が集まれば軋轢が生じるのは避けられないが、この時代のそれが醜悪であったことは否めない」

「……くかぁ」


 アイリーンが寝た、これは予想通り。一方セレナが真面目な目で話を聞いている。


「それで誰が後を継いだの?」

「エレア4世の甥でマクベタス1世、オズワルドの父になる」


 これは指名されたわけでなく謀略の結果だった。そしてマクベタス1世は即位後すぐに行動に出た。


「彼は混乱の原因としてエレア4世の妃と王子たち、そして背後の諸民族を糾弾し、宮廷から排除した。かなり強引なやり方で妃と王子のほとんどが処断されてしまった」

「それじゃエルフやドワーフたちは」

「無論、激怒した。帝国に抗議し開戦も辞さない勢いだ。そこからマクベタス1世の治世は大半を戦いに費やすことになる。乱世の到来という奴だ」


 それがオズワルドの生まれ育った時代であり、ようやく本題に入ることができる。


「オズワルドについてだが……彼は何とも難しい少年だったな。イタズラ好きでよく城の中をかき回し、地下に隠れては世話係が探し回っていた。周囲の大人に心を開かず、私もあまり多く語らった記憶がない」

「まあ子供にはよくあることだけど……」


 正直言って歴代の皇族の中でも特に手を焼いた一人だった。ただ愚かな少年ではない、むしろ鋭い方だったと言える。


「彼は父マクベタスと似て他種族を憎み、恐れていた。そう教えられて育った。やがてテロで母親が亡くなると一層憎悪を募らせていく」

「確かに陛下が他種族に抱く憎しみは有名だった。だからこそか、自ら志願して戦場へ赴かれた」


 これは軍に加わっていたベッシが詳しいようだ。なおこの時期の私は東の大陸で騎馬民族と旅をしていた。


「ドワーフとの戦争でもそうだった。陛下は難攻不落の城塞に積極的に兵を進ませ、ドワーフの兵士たちを殺すよう叱咤した」

「……」

「だがドワーフたちは誇り高き戦士であった。捕虜と接するうちに陛下の心境は変わっていくように感じられた……」


 そう、オズワルドは変化したのだ。大人になった彼と再会した時は色々と驚いたものだ。物の見方が変わっていた。そして表情に陰が差していた……。


「やがてマクベタス1世が急死する」

「急死?」

「食事の後に倒れたのだ。元々老いてはいたが急速に衰えて亡くなってしまった」

「そしてオズワルドが皇帝に……」

「親を暗殺したって噂もあるがどうなんだ?」

「ガロ!」


 そういう噂も確かにある。だが真相は闇の中だ、私にも分からない。


「即位したオズワルドはすぐに政策を改め、軍を退き周囲との和平に努めた」


 近衛騎士団を解体したのもそうした中でのことだった。そして七人の処刑。


「だが事は容易に運ばなかった。急速な方針転換に古くからの廷臣は戸惑い、諸侯も他種族への憎しみを抱えたままだ。そうして新たな争いの芽が吹きだす」


 有形無形の反発は断続的に続き、時折り刃となって襲いかかることもあった。処刑人は休みなく反逆者の首を落としていき、やがてその処刑人も反意を疑われ首を斬られる。


「やがてオズワルドは周囲の人間を信用しなくなっていく。私も久しぶりに会った時はもう距離を置かれていたよ。深い猜疑心とストレスは彼の心を蝕み徐々に不安定にしていった」


 人を疑い、感情の抑制を欠き、時に壁に話しかける姿が目撃された。夜に眠れなくなり精神と肉体の負荷は悪循環に陥る。


「陛下は怪しい導師を側に置くようになられた。その者がいると眠れるのだとか。だがその導師も陛下の手で斬られ死んだという話だ」

「そこまでとは私も知りませんでした」


 マリアンやクロエが表情を曇らせている。面白おかしく話すような内容でもない、父オーウェン侯爵も口を閉ざしたのだろう。


 だが宮廷の有様は徐々に市井まで漏れていき、ある者は眉をひそめ、またある者は噂好きな顔でオズワルドをこう呼んだ。


 “狂帝”


 その後、オズワルドは重い病と発表され人前に姿を見せなくなり、代わりにエドウィン皇太子が政治を見ることとなった。帝都侵食の直前のことである。

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