表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/164

第123話 再演

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

「ウィル、いいえオズワルド陛下。私の言っている意味が分かりますね?」


 俺にはナイメリアの話が分かる。分かってしまう。俺はウィルであってウィルではない。


 扉が開かれた。心の奥底に封じてあった記憶があふれ出て、自分が何者だったか自覚してしまった。


「ウィル君!」


 セレナさん。ここまで来てくれたのに、ごめん。


「俺はオズワルドだ」


 そうだ、迷宮の番人たちと同じ。記憶と夢が人の形をとっただけの存在だ。


「俺が迷宮を見通す力を持っていたのは――」

「貴方が迷宮の作り主だからです陛下」


 ナイメリアが答える。俺に仕える司祭のように慇懃に。


「俺が他人の記憶を見ることができたのは」

「貴方自身が夢であるからです」

「俺がアーティファクトを、ドリームズ・エンドを持っていたのも」

「それは存じません」


 知らんのか。でもナイメリアの話は正しい、今ならあらゆるピースがはまる。


 時折りオズワルドの過去を垣間見たと思っていた。だが違う、あれは閉ざされていた記憶が蘇っていたんだ。今はオズワルドの記憶、怒り、憎しみ、苦悩、哀しみ、全て自分のものとして心の中に渦巻いてる。


「おいウィル、そんな奴の話を真に受けるんじゃねえ!」

「ウィル、こっちを見てウィル!」


 仲間たちの声が遠い。世界が遠い。


「――!?」


 影が揺れるのを見て体が強張った。あれは近衛騎士、罪のない彼らを俺は殺してしまった。


 また別の影が浮き立つ。マクベタス、我が父。あの人は俺を疑いながら、恨みながら死んでいったのだ。


 そしてロバート、忠実だった処刑人は俺に不信を抱いた、抱かせてしまった。彼は死の間際まで後悔にまみれていた。


 俺を責める視線を感じる。皆死んだ。そして俺は何をしている。


「取り返しがつかない、全部手遅れだ……」


 殺した。敵を殺した。憎しみと無知によって多くの人々を殺してしまった。


 殺した。反逆者を滅ぼした。信頼していたはずの者まで殺した。


 殺した。帝都に住む人々を、無辜の民を生贄に差し出してしまった。


 殺した。


 殺した。


 殺した。殺した。


 殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。


 殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。


 数えきれないほど殺して、殺し続け、その先に平和はなかった。あるのは薄汚れた迷宮と消えかけた老人の夢だけ。


 誰か助けてくれ――そんな権利はない。


 どうか赦してくれ――赦される資格などない。


 もう終わりにしてくれ――『終わりにしてしまってよいのですか?』


「陛下、私と貴方の契約はまだ続いております」

「メア……いやナイメリア……」

「陛下の夢はとても醜くて美しい。私、魅せられてしまいましてよ。貴方の力になりたい、貴方の願いを叶えてさしあげたい、貴方を放したくない……」

「ウィル、聞くんじゃねえ!」


 ナイメリアの手が俺の、私のあごに触れる。口が触れそうなほど近い距離、優しい、とても優しい微笑みがそこにある。


「貴方が願えば私の力は思うがままです。ここを抜け出して再び玉座に君臨することなど造作もない」

「願い……」

「あるいはもっと前からやり直しましょうか。王子に戻って過ちを正しますか、それともエルフの女と静かに生きる道を選びますか。何でしたらオズワルドではなくウィルとして生き直しますか?」


 ウィルとして、オズワルドを捨てて……?


「貴方が夢を描けばそれが現実を塗りつぶし、罪も憂いも洗い流してくれます。冒険者となるのもよろしいでしょう、仲間たちに囲まれて冒険の旅に出ますか。可愛らしい御令嬢に騎士として仕えるのも悪くありません。全く別の人生を選ぶも善し、全て貴方の御心次第」

「テメェ邪神コラァ!」


 ――ガロ、ナイメリアに飛び掛かった。だが捉えられない、ナイメリアは木の葉のように身を交わした。


「邪魔をするな」

「げぐっ――!」


 冷たい声とともにガロが吹き飛び、石の壁を軽く砕いた。それだけじゃない、ナイメリアが手をかざすとそこらの石像や石柱が浮かび、ガロのいる辺りへ矢のように突き刺さった。


「ふんがっ!」


 瓦礫を吹き飛ばしガロが立ち上がる。だけどすでにボロボロだ、俺のせいで……。


「頑丈だな、殺すつもりでやったのだぞ」

「この野郎、ハァ……ハァ……さっきからゴチャゴチャとなあ」

「だが私と陛下の時間を邪魔することは許さぬ」


 さっきと同じ、様々な瓦礫が宙を舞いガロたちへ向く。いつでも攻撃できる構え、誰も近づけない。


「だったらなんなのさ!」


 ――アイリーン、来ちゃダメだ戻れ。


「欠けた女が愚かな」


 ナイメリアは容赦しない。瓦礫を雨霰と振らせ攻撃する。これをアイリーンはシールドで防ぐ。防ぐ。防げども身動きできない。


「ウィル、前に言ったよね。あたしたちは仲間、絶対守る!」

「アイリーン……」


 皆はこんな俺を許してくれるのか? 正体を知ったうえで信じようとしてくれるのか?


 でもごめん、俺は俺自身を許せない。俺が俺を一番信じることができない。今すぐ自分を八つ裂きにして終わりにしたい、そんな衝動で溢れている。


「ウィル君……」


 セレナさん……いやセレナ。生きていたオズワルドの子、我が娘。嬉しいことのはずなのに今の俺は向き合うことができない。


 俺は汚れている。そんな俺に救いがあるとしたら。


 生き別れたルカルカの笑顔が浮かぶ。側にいてくれたマティルダ皇后の憂い顔が。放心状態のエドウィン。今も戦ってる仲間たち。マリアン……屋敷で待っている人たちが頭をよぎる。


「俺の願いは……」

「さあ陛下」


 もしも、もし許されるなら俺は……。




 ――パッ。


 光。さっきまでの舞台に明かりが灯った。


「タラリラリランラン~♪」


 誰かいる。覚えのある声、変な調子の歌を口ずさみながら現れたのは……。


「……どうして」

「よ~うワル坊、今までで一番しょぼくれた顔だなあ」


 酒の匂いをまき散らしながら、くたくたの道化師みたいな服を着て、酔っ払いのクリフ爺さんが地の底に現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ