第21話 怜が家に来た
「お邪魔します」
とうとう怜が僕の家に来た。僕の部屋に来た。
「ど、どうぞ」
ぎこちなくクッションをすすめる。
なんか怜が堂々と座った。どうして平然としていられるんだ。
僕は日向以外の女の子が家に来て心臓バックバクなのに。
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。私が無理を言って頼んでるんだし。でも、今はあれをバラすつもりはところないから安心して」
それは、もしかしたらバラすかもしれないって言葉にしか聞こえないのだが。
「それと、私のことはぞんざいに扱ってくれていいから!」
どうしてそこに気合が入るのかわからにないが、やたら近づいてくるため、僕はうなずいてしまった。
毎回なんかいい匂いがしてる気が。じゃない。
「わ、わかったから。怜は悪い人じゃないってのは、一応わかってるつもりだから。緊張してるのは、お、女の子が部屋にいるからだよ」
「へー。ふーん」
なんだか怜の顔が楽しそうな表情に変わった。
僕を脅す時、なんだか途中から楽しくなったとか言ってたよな。
やっぱりバラされるんじゃ。いやいや、大丈夫だ。そうなったら怜のやってることをバラせばいいのさ。多分。
にしても、怜はやっぱりどこにいても絵になるな。僕の部屋の方がみすぼらしく見える。
「怜ってやっぱりキレイだな」
「え、ふーんふーん」
なんだか急にせわしなく動き出した。目も泳いでいる。照れているのか? 僕の言葉に?
本気でよくわからない。
案外ポーカーフェイスでもないし。
って、僕の部屋にいるんだ。怜が本当に来てしまった。どうしよう。もう追い返せないぞここまで来たら。
「い、入間さんが来ることはあったんじゃないかしら?」
「え? あ、ああ。あったけど、日向はいつも一緒だったから。でも、最近は……」
ない。と言いかけて思い出す。
僕が部屋に連れ込まれてたな。
「なにかあったの?」
「い、いや? 怜はどうなの? 緊張してないみたいだけど」
「そうね。そう言えば私も男の子の部屋に入るのは初めてだわ。でも緊張はしてるわよ」
全然そうは見えない。
初めてでどうしてそんなに平静でいられるんだ。いや、さっき照れてたか。あれだけ?
しかし、どうしよう。めっちゃ汚いだろ。
なんか雑然と物が散らかってるし。
「とりあえず」
「どーもー。飲み物とお菓子持ってきたわよー」
母が笑顔で飛び行ってきた。
思わず固まってしまう。
「いいところだった?」
「か、母さん。飲み物はもらうから、戻ってくれないか」
「あらあらまあまあ。お邪魔した?」
「いえ。大丈夫です。作戦会議はこれからというところなので、まだ始まっていません」
「怜!?」
口に人差し指を当てて怜がニヤリと笑った。
こいつ、なにするつもりだ。
「作戦会議?」
「はい。私は彼の参謀役なんです。ここから先はお母様でも聞かせられない内容ですので」
「彼? そうなのね。わかったわ。ごゆっくり」
「はい。ゆっくりさせてもらいます。飲み物、ありがとうございます」
なんで通じ合ってるんだ。なんで母は理解したみたいな顔で出ていったんだ。
わかんねぇ。僕の声を録音する約束の時になにか話したのか?
「これで大丈夫ね」
「なにが? もっとこう、なにかあると思ったんだけど」
「これが最善よ」
「えぇ……」
まあ、日向が来てもなにも考えてないみたいにからかいにくる母だ。変なことを言って言いくるめるのがいいのかもしれないが、これはどうだろうか。
うーん。息子の黒歴史を他人に無償化つ高音質で渡すような母だ。これでいいのだろう。
しかし、怜。キララのことになると、立ち回りがおかしくなるな。
「いいお母様ね。うらやましいわ」
「今のどこを見てそう思ったのか教えてほしいけど、普通の母だよ。多分、怜のお母さんの方がよっぽどいい人じゃない?」
「……育ちはもしかしたら、ね。でも、性格までは……」
なにか地雷でも踏んでしまったみたいに怜の表情が明らかに暗くなった。
「いえ、私の母の話はいいの。こんなことを話しに来たんじゃないわ」
一瞬でキリッとした表情に戻った。なんだったんだ。
「じゃあもしかして、本当に参謀役として?」
「まさか、まだ疑ってたの?」
「い、いや。そうじゃなくて、怜がキララのことを好きなのはここ最近の様子で充分わかった。でも、参謀役になるのと好きなのは話が違うんじゃないかと思って。頭のよさと人を楽しませられるかどうかは別とかって言うじゃん?」
これで納得してくれないかな?
しかし、僕の思惑に反して、怜はふふんと鼻を鳴らして、持ってきていた荷物に手を突っ込んだ。
「そういうことは試してから言ってもいいんじゃないかしら?」
相当自信があるらしい。
とんとんと机で整えられた紙の束は結構な厚みがある。
今回は真面目ならしい。
僕が受け取ろうと手を差し出すと、今回は怜から待ったがかかった。
「え?」
「その前に、生で聞かせてくれないかしら。その、キララちゃんのあいさつを」
「は? 僕の声でってこと? 聞いたでしょ?」
「生で、お願い! やっぱりアナログとデジタルじゃ違うの。こう、耳に対する響き方が。お願い。聞いたら仕事するから」
「えーと」
迷っていると、怜はそっとスマホに手を伸ばし。
「わかった。やろう。オホン」
一つ咳払いしてから、
「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」
やった。やり切った。顔が熱い。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
めちゃくちゃ嬉しそうだ。やってよかった。
でも、顔は熱い。
「じゃあ、さっそくだけど」
怜はそうして手に持っていた紙の束を僕に渡してくれた。
そして、怜はプレゼンを始めた。それは怜からキララへの提案であり、どれも面白く興味をひかれる内容だった。
コラボしてないとかコラボしてないとかコラボしてないとか。指摘されるまでコラボしていないことなど気にもしなかった。
そりゃね。友だちがいないから、人と関わることは避けてたかもしれないけど、ここまで書かなくても。
まあ、他にもいろいろと書かれていて価値はありそうだ。
「まあ、よく読んでみて。私の気持ちが伝わると思うから」
「うん。軽く見ただけでも参考になりそうだよ。ありがとう」
意外と人の意見ってのは大事だったりするからな。怜のが役に立つかはまだわからないけど。
プレゼンを終えた怜はもう帰り支度を始めている。
たしかに、把握するなら一人の方がいい。
「そういえば、影斗は大神くんをネットで見たことない?
「ないけど、どうして?」
「そう。ならなんでもないの。それじゃ今日はありがとう。また明日」
「こちらこそありがとう。また、あ、玄関まで」
「大丈夫よ。お母様にも私から言っておくわ」
「え、と。お願いします」
「敬語はなし。それじゃあ」
なにか変なこと言わないといいけど。大丈夫だろう。
しかし、なんだか最後に気になる言い方だったな。
大神くん、ネット上でもなにかやってるのか? まあ、今の僕には関係ないか。
僕は気持ちを切り替えて、怜の資料を読み込んでみることにした。
いつも読んでくださりありがとうございます。
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