第20話 影斗への嫉妬の視線:影斗視点
「今日も大丈夫だったでしょ?」
「あ、ああ」
手をつないで日向と登校してもなにもなかった。
「お熱いねー」
とか言われたが、そんなの画びょうとは全然違う。
「どうしたのよ。そんなに疲れたふうにして」
「い、いや?」
たしかに、今日もいじめはない。
でも、なんだかいつもとは違う雰囲気にやっぱり疲れる。
日向には言えなかったが、昨日の怜との出来事の疲れもある。
そして、これもいじめではないのだが、
「ああ。影斗。うらやましい」
「やっぱり仲よかったのか。だからあんなことに」
いじめはないのだが。嫉妬と怨嗟の混じった声や視線が僕に飛んでくる。
それらは今までとは別の意味で僕に疲労感を与えてくるのだ。
まあ、日向はルックスがいいもんな。もちろん、怜も。そして一緒についてくる、関根さんや白鷺さんも。
「……どうしたらいいんだ」
なんでこんなことになってるんだ。
いや、考えればわかることだろう。美少女の近くに男がいる。それだけのことだ。
だが、それだけのことで人は勝手にいろいろと考え、そして、いろいろなものを発するのだ。
やられる方からすれば、たまったもんじゃないのだが。
「どうしたのよ朝からため息なんてついて。なにか悩み事かしら? それならこの!」
僕は手を出して怜を止めた。
この人はなぜか知らないが、キララのことになるとバカになる。
今も止めてなければ、キララの参謀役とか普通に口にしていただろう。
僕の指示でブレーキを踏めるだけいいのかもしれないが。うーん。日向は不思議そうな顔をしているし、今ので僕への視線がより厳しいものになったような気がする。
人の仲なんてこんな簡単に変わるものなのさ。ハハ。
「……相談に乗ってくれるのは嬉しいが、あとにしてくれ。ちょっと聞きたいこともあるし」
僕はそう怜にだけ聞こえるように言って、ホームルームが始まるまで教室を出ておいた。
「屋上?」
「ええそうよ」
いや、見ればわかる。
どういうことか知らないが怜に入れてもらった。ってことでいいのか?
普段は解放されていないのだが、どうやって入れるようにしたのだろう。
なんとなく怖いから聞かないでおくことにしよう。
「それで、話って? 今朝の悩みのこと? もしかしてこれ?」
そう言って小指を立ててくる怜。いや、本当に誰だこの人。
「もー仕方ないわね」
体をくねくねさせながら僕に近づいてくる。
怖い。そして顔が近い。
「多分違うから」
僕は肩を押して怜を落ち着かせた。
「違うの?」
なぜか少し残念そうにしながらも変な動きは止めてくれた。
「まったく関係ないわけじゃないかもしれないけど、違う。違うと思う。怜もそうだけど、みんなの僕に対する態度がおかしくないかな? いくらなんでも変わりすぎな気がするんだ。もしかして話した? 僕がキララだと気づいててファンだからとかそういうことじゃない?」
「話してないわよ! 話すわけないでしょ。この立場は私だけのものなんだから。みんなの変化は私の説得によるもの。キララちゃん。そして、キララちゃんを演じる影斗はとても素晴らしいもの! そのことを理解してもらうために、影斗がキララちゃんだって明かさないようにあの手この手を尽くしたわ。そもそも、私が証拠を突きつけたのはみんなが変わったあとのことでしょ」
「たしかに」
「だから、慣れないかもしれないけれど、これでいいのよ!」
「そ、そうか」
いちいち顔が近いんだよな。
つい、目線をそらしてしまう。
「そ、そんな怜に相談なんだけど」
「なに!? 私にできることならなんでも言って!」
顔をそらすたびに、回り込んでくる怜。
参謀役を名乗り出ただけあって、相談は嬉しいらしく、目がキラキラしている。
余計に目を合わせられない。ああ、もう面倒だ!
こういうところだぞ自分。
「人の目って気にしない方法とかないかな? なんだか、前より見られている気がして、怜ってよく見られてそうだし、なにかコツとか教えてほしくて」
「それは、キララちゃんとして?」
「ううん。怜以外からの視線だから、影斗として」
怜を見ると、僕の言葉に腕を組んで考えている様子だった。
でも、本当に聞きたかったのはこっちだ。怜に責任を押し付けようとしただけあって、自分でも受け入れづらいことだ。
朝、日向といること、なぜか怜たちも一緒にいること。そのことで僕まで見られていること。
この現実に対して、どうすればいいかわからないのだ。
「そうね。慣れ、じゃないかしら?」
「慣れ?」
「そうよ。そんな人の目線なんてそうそう対処できるものじゃないわ。でも、影斗はキララちゃんでしょ? キララちゃんの時の経験を思い出せば、わかることじゃないかしら」
「なるほどな」
たしかに、いくら声も見た目も変えていると言っても、初めての動画、初めての配信はほとんど声が出ないほど緊張した。
一年以上続けてやっと喋ることに慣れたような気がする。
でも、日々こうすればいいんじゃないかと試したことは楽しくもあった。
「時間とともにもっと目を分析すれば配信の役にも立つか」
「そうよ。その意気よ」
「だな」
束の間の休息、帰り道。
なんだか今日はどっと疲れた。
人の視線を分析してみようと思ったが、まだわからない。きっと疲れたのはいつもより頭を使ったせいだ。
いや、実は今も尾を引いていることが一つだけある。誰にも言えていないのは、確証がないからだ。それは、大神くんがなにか言っていた気がすること。しかし、よく聞こえなかった。
なににせよ大神くんは今日、学校に来ていなかった。
「つんつん」
いじめも今はなくなった。きっとこれが正常な学校生活というやつなのだろう。
多少違うかもしれないが、これはまともに生活できたことによる疲れでもあるはずだ。
人生で初めての経験で判断はできない。部活もやればより、わかるようになるのかもしれないけれど、それはいい。
そもそも部活より大切なものを僕はもう持っている。怜との約束がある。
本来はもっと楽しみだったはずの配信も少し気がかりだ。そして、今くらいしか怜から解放される時間もない。
「ねー影斗」
「悪い、なんだ?」
なんだかほっぺたが痛いのだが、僕はなにかされてたのか。
「久しぶりに一緒に外で遊ばない? ちょっとでいいからさ」
楽しそうに誘ってくれる日向。胸が痛む。
「ごめん。誘いは嬉しいけど、今日は無理だ。また、誘ってくれ」
「部活もやってないのにー?」
「部活はやってないけど、用事なんだ」
「そっか。じゃあ仕方ないね。じゃね!」
「おう! 気をつけろよ! ……はあ」
僕は日向が見えなくなってからため息をついた。
悪いことをしたよな。
でも、放課後来るってチャットが送られてきた。
怜、資料持ってくるとか言ってたな。ゆううつだな。
でも、あの声バラされたくないしな。
「はあ……」
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