第19話 影斗を支えたい:日向視点
「……ああ。きてしまった。今日がきてしまった……」
「どしたの? 暗い顔してー」
「い、いや? 僕のことはいいんだ。それより、日向はなんだか楽しそうだな。いいことでもあったのか?」
影斗に聞かれて、思わずほほがゆるんでしまう。
こうして、学校まで近づいても一緒に歩いていられるから。なんて、素直に言えない。でも。
「えへへー。そりゃもーね」
幸せはおすそ分けしないとね。
「なんだかわからないけどよかったな」
わたしの幸せが伝わったのか、影斗も少し表情が明るくなった。
影斗がこうして、抵抗しないで手をつないでくれるなんて、いったいいつぶりだろう。
高校に入ってからは、みんなにわたしと影斗が知り合いだってバレないように、できるだけ他人のフリをしてきた。
それでも、親しい子たちにはバレていたけど、わざわざ大神にチクるようなことはされなかった。わたしの友だちはみんないい子たちだった。
だけど、隠していたのは全員がそうとは限らないからだ。
「影斗は楽しい?」
「あ、ああ。日向といるのは楽しいさ」
すっとこんなことを言えちゃうのはずるい。
たしかに、影斗が優しいのは知ってる。でも、これは別にわたしに対してだけじゃない。
きっと影斗はみんなに優しい。グループに誘われてつっけんどんな態度を取らないで、素直に入ったことはきっと影斗の人のよさを表してる。
わたしは影斗がみんなに優しいと知ってるから、影斗を独り占めすることに尻込みしてしまう。
でも、今、影斗は手を握ってくれている。手を握られていると、わたしとしてはドキドキして落ち着かない。
わたしは、ここがどこよりも安心できるような不思議な気分になって、だからこそ気になる。言葉とは裏腹に、やはり、影斗の顔が昨日みんなと打ち解けてからとは違うことが。
「影斗は楽しくない?」
「そんなことないけど、どうして?」
「顔が暗いよー」
「そうか?」
「うん」
「いつもと同じじゃないか?」
「ううん。なんかうまく言えないけど、疲れて見える」
影斗は苦笑いをした。影斗が苦笑いをする時は少し恥ずかしがってる時だ。
「なにかあった?」
「日向には見すかされてるか」
大袈裟にため息をつくと、影斗はなにから言おうかって感じで考えてから。
「多分、まだ状況についていけてないからだと思う」
と言った。
「日向やみんながよくしてくれてるけど、こんなこと初めてだからさ。慣れなくて」
わたしはその言葉を聞いてほっとした。
別に、影斗が疲れていたから嬉しいってわけじゃない。そんな嫌な子じゃない、と思う。
そうじゃなくて、大神とかがまたなにかしてるんじゃないかと思ったけど、そうじゃなくてよかった。
もしくは、わたしがなにか迷惑かけちゃったんじゃないかって心配になったけど、そうじゃないみたいで安心した。
少し考えて、わたしは握る手にキュッと力を込めてみた。
「え」
影斗は驚いたように目を丸くした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。みんな、影斗を利用しようとしてるわけじゃないから」
「……そう、だな。ありがとう」
影との顔がさっきよりは明るくなったけど、影斗の顔はまだくらいままだった。なにか隠してるのかもしれない。
でも、ありがとう、と言われ、わたしは跳ねたい気持ちでいっぱいになってしまう。
いつも影斗に守られてばかりだったから、わたしは影斗を好きだから。ちょっとの感謝で満たされてしまう。
今も元気づけたい一心でいる。
こんな気持ちになったのは、そう、わたしが学校で初めて影斗と同じクラスになった小学二年の時。
「ブース、ブース!」
「あいつに近づくなよー。ブスがうつるぞ」
「いやぁ。デブちゃんよ」
「デブはこっち来ないで」
小学校に入学したばかりの時、わたしはぽっちゃりしていて自信がなかった。
振り返って話をすると、影斗は最初からかわいかったと言ってくれるけど、それもきっと優しさだろう。
私自身、小さいながら、やせてから自信をつけた記憶がある。
だから、ぽっちゃりというより、太っていた。デブと言われる理由は自分にあったと思う。
そのせいであの頃は、「デブ」だの、「ブス」だの、「汚い」だのと言われていた。
同じように、
「お前臭いんだよ」
「鼻ふさげー。かいだら鼻がくさるぞ」
影斗も色々と言われていた。だが、影斗は臭くなかった。根拠のないことを言われていた。
みんな小さいから、ちょっと変わったことが受け入れられなかったのかもしれない。
太っていたり、人より自分の世界に入って絵を描いていたりすることが受け入れられなかったのかもしれない。
だからわたしもいじめられることが受け入れられなかった。
小学二年生の時、わたしは少しやせて自信もついた頃だったので、
「やめて」
と言ってわたしのいじめも影斗のいじめも止めに入った。
勇気を出しての、やっとの行動だった。
でも、飛んできたのは拳だった。
「キャッ」
かわせない、と身構えてしまった。結局同じなんだと諦めてしまった。
「あぶない!」
だけど、諦めたわたしを見て、影斗は前に出てかばってくれた。
あげく、殴られたのは影斗なのに、
「大丈夫?」
と怯えてしゃがみ込んだわたしに手を差し伸べてくれた。
助けようとしていたわたしが気づけば心配されていた。
「……うん」
と返事をして手を握ってもらった。
この時からだ。わたしが影斗を好きになったのは。
普段やられるばかりだったのに、助けてくれたことに、わたしはほれてしまったのだ。
たしかに、そこからいじめは男女が協力してひどくなったけど、一人じゃなくなったから、前より心はラクだったのを覚えてる。
それからは、影斗を思うだけで、胸の中があったかくなって落ち着かない気持ちになる。
隣の影斗を見て思う。
今度はわたしが支えてあげたい。
できれば恋人になって。
なんて、考えていたら気づけば高校生になってしまった。
でも、この状況なら。
「なあ、この状況恋人みたいじゃないか?」
改まって影斗が言ってきた。
やっと気づいたのか。
影斗もほっぺが赤くなっている。
小さい頃から一緒だから、そんな意識すらされていないと思っていたのに。
でも、嬉しい。
「だ、ダメ、かな?」
不安になって影斗を見上げると、影斗はギョッとして顔をそらした。さらに顔が赤くなっている。
「い、いや? 日向が気にしないならいいんだ。もうバレてるんだし」
「わたしは大丈夫。だから、このまま行こ?」
「わかった」
笑顔で見ると、影斗は安心したように胸を撫で下ろしている。
「……本当に心配性だなー」
でも、学校の中でもうこうして手を繋いでくれるのは、やっぱりただの優しさなのかな……?
いつも読んでくださりありがとうございます。
「面白い!」
と少しでも思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から作品への評価をしてくださると創作の励みになります。
また、ブックマークもしていただけるとモチベーションにつながります。
よろしくお願いします。




