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第五十一章~任務遂行、帰還~

「ふぅ~~~、帰ってきたぞ!」


数日振りに帰ってきた清洲、その懐かしい空気を吸い込んで五郎は背伸びをする。

最初は緊張しながらの一人旅だったが、旅先で出会った千代助……じゃなくて元康に癒される良い息抜きにもなった。

問題は元康の正体を知った事と、榊原康政との出会いによって滞在予定期間の後半はずっと岡崎城に缶詰状態だった事だろう。

すんなり謁見を終えたのは良かったが、幾ら元康が小動物にように可愛らしくじゃれてきても、流石に毎日朝から相手をし続けるのは大変であった。

それに、折角教えてもらった茶屋にも寄る暇も無く岡崎を出発したのだ、凄く残念である。


「でも、元康様には癒されたし……うぅむ」


屈強な三河の兵達を束ねる殿様に書状を渡す、五郎は信長にも負けぬほど怖い人物を想像していただけに、すんなり役目を果たせた事が何よりだろう。

よく分からないが、松平の家臣の数人と親交を深める事が出来たし上出来だろう。

後は元康から預かった懐の書状を渡せば、無事御使いは終了になるだろう。


「元康様は確かに可愛いけど、家臣の皆さんは怖すぎてなぁ」


サングラスをかけてスーツをビシっと決めたら、間違いなく抗争が始まりそうな方々だったのだ、主君と家臣の落差に受けた衝撃はこの先も忘れないだろう。


「悪い人達じゃ……無いんだけどなぁ」


その風貌と溢れ出る元康愛が無ければだが……人伝に聞いていた話と違って特に絡まれる事はなかったし、乱暴な扱いも受けなかった。


「まぁいいや、早く信長様に届けに行こう」


既に信長様には今日到着予定だと知らせを送って貰える様に頼んでおいたのだ、きっと既に五郎の帰りを待っているかもしれない。

ささっと報告して、書状を渡して、そして家に帰ってお土産を揚羽に渡さなくては。


「よし、行くか」


清洲城に向かって歩き始めると、顔見知りの民から挨拶をされる。

その一人一人に挨拶を返していると、帰ってきたんだなと思わせてくれる。

五郎は旅の疲れが軽くなった気がして清洲城を目指すのであった。




清洲城の広間、その上段に座っている信長は五郎帰還の知らせを聞くとジッと待っていた。

無事届ける事が出来たと聞いたが、元康の目を付けられて岡崎城内から出られない状態だとの報告もあったのだ。

もし力ずくで脅されたら、五郎では抜け出せないかもしれないと心配していた信長は、信長が岡崎を発ったとの報告にホッと胸を撫で下ろしたのである。


「あの小狸、ちゃんと書状の内容を理解したのだろうな?」


五郎から報告を聞かねば分からないが、書状を届けに来た使いを城内に留めるのは色々な意味で心配である。

まさか五郎の事だ、何か騒動を起こしてはいないだろうが……。


「信長様」


信長が考え事をしていると、襖の奥から声が聞こえる。


「丹羽長秀、只今戻りました。……入って宜しいでしょうか?」

「構わん、入れ」

「はい」


五郎が静かに信長の前で頭を垂れると、信長は顔を上げるよう告げる。


「今日は誰も居らん、堅苦しいのはいらん」

「えぇ……これでもお役目を果たして帰ったのに雰囲気が台無しじゃないですか……」

「良いではないか、五郎も堅苦しいのは苦手だろう?」

「…………そうですけど」

「なら足も崩せ、俺とお前しか居らんのだ」


信長の言葉に少しだけ足を崩すと、五郎は懐から書状をスッと差し出す。


「これは……」

「松平元康様からの書状です」

「ふむ、五郎……書状を見た連中はどうだった?」

「俺から見た限り不満そうな人は居ませんでしたね、特に榊原殿やえ~っと……そう、酒井殿等は好意的でした」

「成る程、それならすんなりと話が済みそうだな」

「さて、あの小狸はどんな書状を俺に寄越したのか……見せて貰うか」

「……小狸?」


小狸って誰だろう?と五郎は首を傾げている前で書状を広げると、信長はじっくり読み始める。

その表情は真剣なものであったが、読み進めれば進める程その表情が歪んでいく。

五郎が『あひゃ~』と妙な奇声を発しそうな顔をして信長を見ていると。


「あの小狸、俺とどんな状態なのか分かっておらんのか?」


眉間に皺を寄せて扇子を額に当てる、信長は気が抜けたように溜息をつくと五郎に告げる。


「五郎、読んでみろ」

「えっ!俺がですか?」

「いいから、読め」

「え~っと、……ほうほう」

「どうだ?」

「…………信長様、大変です」

「どうした、何か気になる事があったのか?」


五郎が神妙な顔で信長を見る、その表情を訝しげに見ながら問いかける。


「文字が……読めません!」

「この阿呆が!!」

「ぎゃああ!?刀!刀は抜かないで下さい!」

「大仰に言うんじゃない!お前はまだ文字が読めんのか!」

「あ、あはは……簡単な文字しか……」

「早く読めるようになれ、でなければお前の仕事は戦仕事になるぞ」

「えぇ……」


五郎が嫌そうにすると、信長は嘆息して書状を五郎から奪う。

それから仕方なさそうに書状の内容を読み上げる。

元康の書状、その一部は以下のような内容である。


兄様、度重なるご活躍を耳にする度に元康はとても嬉しゅう御座います。

此度の兄様からの提案に元康は、今すぐ兄様に会いに行きたくなったのですが、家臣に止められて悲しゅう御座います。

早く兄様とお会いして、同盟を結べる日を心待ちにしています。

明日でも元康は構いません、如何でしょうか?お返事お待ちしております。

それと、丹羽殿はお元気でしょうか?是非また岡崎に来て頂きたいです。

その際はもっとゆっくり岡崎へ滞在を……等々。


「……う、うーん」

「あいつは変なところが図太い、それに五郎……お前はあの小狸に何をした?」

「いやぁ……ただの子供だと思って構ってたら、懐かれてしまいまして」


五郎の言葉にキョトンとすると、信長は大声で笑い転げ始める。


「あっはっは!確かにあいつはチビっこいがな!くっくっく!」

「信長様も知ってるでしょ!この世界の事はまだ全然分からないんですよ!」

「だとしてもだ、くくっ!よくあの泣き虫が懐いたものだ」

「う、うーん……褒められているんでしょうか」

「褒めている、何せあいつは幼少の時は他人に中々懐かない奴だったからな、どうやら今も変わっておらんようだ」

「そうなんです?」

「まぁその話はいずれしてやる、それより書状の内容だ」

「え~っと、何か問題があるんですか?」


五郎の問いかけに、信長は書状を畳み込むと横に退ける。


「まだ停戦してもおらんのだぞ、こんな親族に送るような書状を書く阿呆が居るか?」

「……居るんですね」

「……そこは口を挟むところじゃない」

「すみません、つい……」

「まぁいい、とにかく同盟については理解しているようだからな」

「それじゃ……?」

「流石にこの書状を誰にも見せずにお前に渡したはずが無かろう、勝家に松平軍と我が軍への被害を最小限に抑えるよう伝える、それから小狸と同盟の場を決めるぞ」

「分かりました!」

「これでやっと美濃の斉藤と決着をつけれそうだな」

「それで、俺はどうすればいいんですか?」


信長がこれからの予定を考えていると、五郎が気合の入った顔で尋ねてくる。

信長は暫し唸っていたが、五郎の肩に手を乗せると、優しげな表情で告げた。


「五郎、お前は大人しくしておけ」

「え?」

「俺も鬼じゃない、頑張って大役を務めたお前に休みをやろうと言うのだ」

「つまり?」

「暫く大人しく家で読み書き位出来るように鍛錬しろ」

「そんなぁ……揚羽殿に怒られて肩身が狭くなっちゃいますよぉ~」

「すっかり尻に敷かれやがって、男だろ?自分の嫁の手綱位しっかり握っておかんか!」

「……信長様には言われたくないなぁ(ぼそっ)」

「何か言ったか?」

「いえ、全然」


首を傾げる信長に五郎は顔をツンと逸らすと、家に帰った後の事を考えると少し憂鬱になる。

折角の仕事をこなし、お土産を持って帰ってきたのに、暫くまた家で屋敷警護である。

最初の数日はいいが、絶対屋敷から追い出される気がするのだ。


「あぁ……胃が痛い」

「五郎、ちゃんとお前の仕事は残しておく、安心せい」

「本当ですかぁ?」

「なぁに、お前も同盟を結ぶ場には連れて行く、それまで少しゆっくりしておけという事だ」

「はぁ……それなら、大人しくしておきます……」


五郎は信長の言葉に不承不承頷くと、深く頭を垂れた後静かに退室した。


「はぁ……家の仕事をやろうとすると、怒られる事が多いしなぁ」


流石にずっと勉強するのは耐えれない、何か仕事が無いか探してみる事にしよう。

それか、仲の良い友人を呼んで鍛錬に付き合って貰うのもいいかもしれない。

妙案が浮かばないか色々と考えながら清洲城を後にした五郎は、だらだらと歩きながら屋敷へと帰っていくのであった。

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