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栞  作者: 向井達
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夏

昨夏、河合の家の姐様、(祖母の義理の姉)の初盆に、祖母と伺いました。


祖母はこの姐様を憎んでおりました。

姐様の夫、つまり祖母にとっての実兄を彼女に殺されたと、

口を酸っぱくしていたのです。


筋肉の衰弱する病気でした。


祖母はこの兄を溺愛していましたので、罹患したのも姐様による「旦那いじめ」のせいだと断定しておりました。

その悪女が死んだのです。


空の濃ゆい日でした。河合の家は草木深い集落にあり、

切土ですから、ミンミンゼミが酷かったのを憶えています。

四方を低い山に圧迫され、正午を過きれば、日差しは葉漏れ日を頼りとし、

水に沈んだようでした。


古い日本家屋に入ると、向こうの襖の隙間に、黄色い菊が見えました。


無人の部屋には線香の匂いがあり、煙はまだ立っていて、真っ直ぐ木組みの天井へ泳いでいました。



「お静かなお盆でおめでとうございます。」


振り向くと、祖母が小さな体を深く屈めて、

仏壇に手を合わせていました。


真っ暗な家の中に、戸口から刺した夏の光が伸びて、祖母が巨大な影に見えました。


人に等しく振りかかる、死の静謐さを理解しました。


線香を立て、真新しい遺影を眺めていると

蝉が鳴き代わり、

戸口の向こうの真っ赤な空に鼠色の雲が一つ浮かんでいました。

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