最終話 エピローグ
魔女フランの事件が片付いてから一週間後。
公には魔女フランは死んだことになった。俺の傀儡になった錬金魔導士ルエガが死闘の末に石へ変えて殺したというシナリオにして。
これでフランを追う者は居なくなり、しばらくは成り済まし犯が出てくるのも防げるだろう。
それから。
金の国エルドラド近辺の森に俺達は揃っていた。
俺ことシュタイン。
俺の嫁キメラ。
絶対に裏切らないと断言できる親友ルエガ。
母親のような慈愛をそのまま人の形にした女フラン。
そして使用人ゴーレムマン十体。
「素晴らしい。最強の人間関係ができた」
キメラは鼻で笑って腕を組む。
「急に何言ってんの。気持ち悪い」
「失礼だな。感動しているだけだ」
その言葉に、ルエガは爽やかに笑い、フランはくすりと微笑み、ゴーレムマン達は一斉に胸を張った。
キメラは、そっぽを向いている。いつも通りだ。
これだけ揃うと、もはや一国を相手取っても勝てる気がする。勝てるかどうかはさておき、少なくとも退屈はしない。
俺は神具・口寄せの門の前に立った。洞窟ごと埋まったはずのこれは、いつの間にか手のひらサイズになって俺の白衣のポケットに入っていた。神具は契約者の元へ必ず戻るらしいが、持ち運びしやすくリニューアルしてくれたのはありがたい。
「さて、後始末だ」
呼び出したのは、ひとつの嫌われ者の魂。
コボルド商会長だ。金の亡者で、罪の塊で、最後まで自分の正しさを疑わなかった男。
門から引きずり出した魂を、のたれ死んでいた野犬に押し込む。毛並みは茶色。目は妙に人間臭い。
「くぅん」
「お手」
反射的に前脚を出す犬。
「よし」
コボルドの魂のプライドは大体その瞬間に粉々になった。
「ルエガ、こいつはロレーヌ夫人に送っておいてくれ」
罪には罰を。ただし、俺流で。犬として忠実に妻に愛されながら一生を終える。元々、夫人の尻に敷かれていた商会長にとっては、これ以上ない皮肉だろう。
「もちろんだぜ親友! かぁー、親友のために馬車馬のように働くのは楽しいなぁ!」
ルエガの悪意のない太陽のような笑顔。持つべきものは親友だな。
ひと段落ついたところでキメラが咳払いをした。
「……ちょっと話があるんだけど。二人きりで」
空気が変わる。
俺はルエガとフランに目配せした。二人は何も言わずゴーレムマン達を引き連れて奥へ消える。
残ったのは俺とキメラだけ。
「それで、なんの話だ?」
キメラはしばらく視線を泳がせてから、ボソッと言う。
「……その、言うの遅くなったけど……フランのこと生き返らせてくれて……ありがと」
ほう、ついに来たか。ツンデレのデレ期が。しかし。
「か、勘違いしないでよねっ!」
ツンデレの型通りのセリフが飛んできた。
「フランのことは感謝してるけど、私を改造したのは許してないからっ! ちゃんと戻しなさいよ!」
古典的だな。ここまでツンデレの様式美を守られると逆に新しい。
「その内にな」
「今、私の人格いじってやろうとか考えてたでしょ!?」
「いや、人格いじりはまだ完璧じゃない。もう少し実験を重ねてからだな」
ま、嘘だけどな。本当はルエガやフランにしたように今すぐでもできる。やらない理由は単純だ。
——もう少し、このツンデレとのやり取りを楽しみたいからだ。
「それで住処なくなったけど、これからどうするの?」
キメラが話題を変えた。
「家はまた作ればいい。なんなら王城を乗っ取るのも悪くない」
「軽く言うな!」
俺は指を一本立てる。
「それよりも新たな野望ができた」
「や、野望?」
「さらに完璧な嫁を創ることだ」
「はぁ!? 私もう炎が吐けるわよ!? 不本意だけど! まだこれ以上を望むの!?」
キメラの目が吊り上がる。
「夢が叶えば、さらなる夢を見る。それが探究者だ」
俺は語る。止まらない。
「次は雷を出せるようにしたい。氷もいい。ビームも捨てがたい。そうだ、ミサイルも搭載しよう。歩くマップ兵器の完成を目指すぞ!」
「は、はぁ!? ちょっと待って!」
「あ、それと猫耳も欲しい。いや犬耳もいいな。キツネやウサギもいい。よし、ケモ耳は全部搭載しよう!」
「ふ、ふ、ふざけるなあああああああ!」
キメラの叫びはファラリスの雄牛が奏でる音のように美しかった。
俺は仲間を眺めながらマッドサイエンティストのような希望に満ちた笑みを浮かべる。
さて、この楽しい実験体達と次は何を始めようか。
【ヒモになるため合成魔法で理想の合成獣を錬成してみた件】 —終—




