第2話
魔術学園オウカ
春の国シラヌイに設立された魔術師教育機関であり、ヤマトに6校ある魔術学園のうちの一つである。
本日はのオウカの入学式が行われる日であり、新入生が新たな学び舎に期待と不安を胸に一歩を踏み出す記念すべき日である。
そんな中、並び立つ背中が3つ。
「はー、なんでこんなことになってんのかねー。」
現在の状況にため息しか出ない理冶を横目に、友人二人が話しかける
「まぁいいじゃないか。普通に仕事をするよりも学校に通う方が楽だと思うけど?」
「ダハハ!おれはお前と学校に通えると思ってずっと楽しみにしていたぞ!」
理冶の友人である志倉初と東條正木が意気消沈している友人を横目に楽しそうな表情で言う。
「今更学校に通うっていうのもなんだかな。ていうかこれも、一応仕事の一環なんだけどな。」
理冶がなぜここにいるかは、約1週間前にさかのぼる。
「は?もう一回言ってもらってもいいですか?」
「いいだろう。もう一度言うが、君の次の仕事は、そこにいる白木くんの運営する魔術学園に入学してもらうことだ。」
「・・・意味が分からないんですが。」
こめかみを指で押さえながら、悩まし気な表情で言外に言っていることを理解できないという理冶に対し、ローズは楽し気な声で返す。
「ハッハッハ。そうだろ、そうだろう。ま、君に拒否権はないのだがね。期限は私がいいというまで。あと、学園でやることは特に決まっていないから基本的に自由にしてくれて構わない。必要があればこちらから連絡する。後の諸々の手続きは白木くんと志倉くんに頼んでいるから二人を頼ってくれ。あ、それとこの仕事が終わるまで会社には戻ってこないように。それじゃ。」
プッ、ツーツー
というのが1週間前の出来事。
文句を言おうと返信するも応答があるはずもなく、その場にいた白木とともにそのままシラヌイに行き、居住、入学の手続き等諸々の準備を終え、今に至る。
「そもそも、入学試験とかはどうしたんだい?」
初めが当然の疑問を投げかける。
魔術学園には入学する際に筆記試験、実習試験が存在し、筆記試験では基本的な学力に加え、魔術理論、魔術工学に関する知識が必要になり、実習試験では魔力量、魔力出力の計測、術式効果の判定を経て入学に値する数値に達している者のみが入学を許される。
「それが、一応試験だけ受けさせられて、入学基準には達しているってことで入学すること自体は問題ないらしい。」
理冶の言葉に正木がうんうんとうなづきながら納得の表情を浮かべる。
「ま、そりゃそうだろうな。だが、実習はともかく、筆記は大丈夫だったのか?」
「定期的に初から届いてた教材で勉強していたけど、会社の先輩にも教えてもらってたから最低限の知識は身に着けてると思う、、、思いたい。」
諸事情により、理冶は学校に通っていた期間が短く、学校に通うことは実に5年ぶりとなるため学生としての基本的な知識があるか、本人自身はかなり不安に思っている。
会社にいる人物から魔術に関する知識は学んでいたが、
(あの人、かなりの変人だからなー。他に教えてもらえる人がいなかったから仕方ないんだが)
「試験に合格できる基準だったのなら大丈夫だと思うけど、不安が残るようだったら今度教えようか?」
「あー、必要があれば頼むわ。」
「ハハハ。相変わらず、勉強が苦手みたいだな?」
「お前には言われたくないんだよ、脳筋バカ。」
「そう褒めるなよ。照れるだろうが。」
「褒めてはなんじゃないかな。」
三人で談笑していたところ、待ち構えるようにして三人の学生が立っていた。
オウカでは袖のラインの色で学年が分かるようになっており、赤が1年生、青が2年生、緑が3年生と一目でわかるようになっている。
三人の袖の色から真ん中に立っている人物が2年生、その両隣が1年生であることが分かる。
その中の一人が理冶に待ちわびたかと言わんばかりの勢いで駆け寄ってくる。
「久しぶりだね、理冶!連絡が来たときは驚いたけど、まさか本当にオウカに入学するなんて!嬉しいよ!」
「あ、兄貴。分かったから落ち着いてくれ。」
理冶に歩み寄り、抱きつかんがばかりにの両肩を掴んだ人物は、神谷透李。
理冶の実の兄であり、シラヌイで一、二を争う魔術師の名門、神谷家の次期当主である。
「それにしても、なんで家に顔を出さないんだ。母さんも心配していたし、父さんだって」
「兄貴。」
「っ!す、すまない。」
理冶に言葉を遮られ、自分が失言しようとしていたことに気づく。
「それに関しては、そのうちな。機会があれば顔を出すよ。」
自分の事をどこまでも気にしてくれている兄が、変わらず優しい人であることがうれしく、顔をほころばせる理冶に対し、透李も笑顔で答える。
「あぁ、ああ!いつでも声を掛けてくれ。」
透理がそう言ったところで、後方で控えていた1年生の生徒が透李に声を掛ける。
「透李様。そろそろお時間です。」
「ああ、もうそんな時間か。すまない、閃。」
透李にそう声を掛けられ、綺麗な礼をしてそれに返す人物を見て理冶はその顔に見覚えがあることに気づく。
(見たことがあると思えば、荒山の長女と、もう一人は上藤の長男か。)
透李の後ろに控えていた二人は神谷家の分家に当たる、荒山家と上藤家の2家のそれぞれ長女と長男であり、理冶も顔だけは見たことがあるが、会話をしたことはない。
「理冶。まだいろいろ話したいことはあるけど、仕事があるから行くよ。」
「ああ、生徒会の副会長なんだろ?わざわざ会いに来てくれてありがとな。」
「俺が会いたくて来たんだから、気にしないでくれ。また会いに行くから。初君も正木君も弟をよろしく頼む。」
そう言い、透李は理冶の隣に立つ二人に声を掛ける。
「ええ、お任せください。」
「どんと任せてください!」
初は恭しく礼を、正木は胸をたたいて透李に応える。
「兄貴。俺も子供じゃないんだからやめてくれよ。」
「いいじゃないか。いつまで経っても弟の事が心配なのが兄というものだよ。それじゃ、行こうか、閃、桐人。」
そう言い後ろに控えていた二人を連れ、透李は学園の校舎に歩いていった。
去っていく直後、荒山閃が理冶を一瞬睨みつけたかと思えば、すぐさま視線を外し、透李を追うようにして去っていく。
「相変わらず、良いお兄さんですね。」
「うんうん。理想の兄を体現しているようなお人だな。」
透李が歩き去る姿を見ながら、二人がそうこぼすのを聞き、理冶も肯定するように返す。
「ま、兄貴は昔からできた人だからな。心配かけてたのは申し訳ないとは思ってるよ。」
頭を掻きながら、バツが悪いような表情になる理冶を見て、仕方がない奴だと思いながらも温かい目でそれを見る初が話題を変えるようにして切り出す。
「相変わらず、分家の人には嫌われているようだね。」
「確かに、時間が経っているにもかかわらず、あれだけ露骨な態度をとるのだから、ある意味で大したものだとは思うがな。」
先ほどの荒山閃の態度を見た二人が、理冶に対してとはまた違う意味で仕方がない奴だと去って行く背中を見ながら言う。
「俺にはもう関係がないことだし、あんまり関わり合いになることもないだろ。気にするだけ無駄だ。」
心底どうでもいいという表情をしている理冶を見て、二人は少し安心する。
「お前が気にしないなら、それでいい。」
「そうだね。関わらないようにしていれば問題も起こらないだろうしね。」
「そういうこと。さ、俺らも行こうぜ。」




