深夜の大乱闘
ラックとシュガーを取り囲んでいる不審者たちは、各々の武器を持ってラックに襲い掛かった。
「半殺しにしてやる‼」
「その顔をめっちゃくちゃにしてやるぜ‼」
「泣いて後悔しても遅いからな‼」
不審者は叫び声を上げながら、ラックに攻撃を仕掛けた。ラックはその攻撃に対し、盾で防御をしながら攻撃を防いでいた。
「ただ殴るだけなんですか。芸がないですね」
「何だとこのクソガキ‼」
「顔がいいからって、調子に乗るなよ‼」
不審者の二人が大きな槍を振り回し、ラックを突き刺そうとした。だが、ラックは剣で槍の矛先を切り落とした。
「あらら……」
「嘘だろ……この槍、裏武器屋で1万ネカもしたんだぜ‼」
その時、ラックは電気魔法を使い、攻撃を仕掛けた二人を感電させた。
「まず二人」
ラックは後ずさる不審者の群れを睨み、こう言った。その時、不審者の一人がシュガーを見つけ、こっそりと後ろに回り、シュガーの首元に剣を近付けた。
「これを見ろ‼」
「なっ‼」
ラックは人質となったシュガーを見て、動揺してしまった。その隙を奪われ、ラックは不審者に捕まってしまった。
「ラック君‼」
「おーっと、こいつを解放させたければ、先ほど倒れた俺達の仲間を治療するんだな」
「それは……くっ……」
シュガーは不審者の言うとおり、先ほどラックの電撃で倒れた二人に回復魔法をかけ始めた。
「どうだ、様子は?」
「いやー、いい気持ちです」
「これならすぐに回復します」
と、やられた二人は回復魔法を受け、かなり上機嫌だった。しばらくし、完治した二人はシュガーにこう言った。
「よし、もういいぞ」
「ヘッヘッヘ、治してくれてありがとさ~ん」
そう言ったのだが、シュガーは治療を止めなかった。
「おい、もういいって」
「無駄なことは止めとけって」
二人はシュガーを見て、見下したような笑みでこう言った。だが、二人の体に異変が起きた。
「あれ……なんかめまいが……」
「気持ち悪い……地面が揺れてる……」
容体が悪化した二人を見て、不審者は慌てながらシュガーに向かって叫んだ。
「おい、貴様何をしている!?」
「何って、治療ですよ。何か問題でも?」
「問題大ありだ‼ 何でこいつらの容態が悪化している!?」
この言葉を聞き、シュガーはにやりと笑ってこう答えた。
「それは回復魔法を受け続けたからです。ダメージが完治した人に回復魔法をかけ続けると、逆に気分がおかしくなるんですよ」
「だったら止めろ、今すぐに止めろ‼」
不審者の一人はこう言ったのだが、シュガーは回復の手を休めなかった。そのうち、回復魔法を受けている一人が泡を吹き出し、別の一人が鼻や口から血を流し始めた。
「まずい、このままだと二人とも死んじまう‼」
「分かった、何をすればいい?」
「じゃあ、ラック君を開放することと、大人しく私達に捕まってください」
この言葉を聞いた不審者は、捕らえていたラックを解放した。
「あ……ありがとう……シュガーさん……」
「いえ、大したことはしてないですよ」
シュガーは回復の手を止め、ラックに近付いた。この時、ラックは思った。シュガーを怒らせてはいけないと。
同時刻、バカップルを襲った不審者は、かなりひどい目に合っていた。倒れている彼の周りには炎の剣や氷柱の破片、更には体に当たる一歩手前の所で電撃が走っている。
「クリム……」
「はい。少しやりすぎちゃいました」
クリムはテヘペロをし、軽く反省した。
翌日、不審者たちを捕らえたシュウ達は、町長の元へやって来ていた。
「ありがとうございます。これで公園の平和も元に戻ります」
「よかったですね」
「また何かあれば連絡ください」
「ありがとうございます。では、こちらを受け取りください」
町長はシュウに人数分の金貨袋を手渡した。その後、シュウ達はハリアの村へ戻るため、ホテルで荷物をまとめていた。
「いやー、結構あっさり片付いちゃいましたね」
「まぁ、ラックとシュガーがいたし、簡単に終わるって思ってたよ」
「あの二人、結構強いですね」
クリムは昨日のラックとシュガーの戦いの光景を思い出しながら、こう言った。
「ああ。ラックはそれなりに魔法も使えるし、剣の腕もある。シュガーは回復魔法しか使えないけど、回復魔法の全てを理解している」
「あー、だからあんなことにも使えたんですね」
クリムは昨日のシュガーの行動を思い出しながら返事をした。
「あんな使い方、私でも思い浮かびませんでしたよ……」
「あのせいで、ハリアの村のギルドじゃあ決してシュガーを怒らすなって決まりが出来たんだよ」
「前にも似たようなことをしたんですね」
「ああ」
その時、部屋の扉が開き、シュガーが顔を出した。
「二人とも~、そろそろ出発の時間だよ~」
「もうそんな時間か」
「分かりました。ちょっと待っててください」
その後、バカップルは荷物をまとめた後、ラックとシュガーと共にハリアの村へ向かうバスに乗り込んだ。
ハリアの村のギルドへ戻り、バカップルは部屋で荷物を片付けていた。
「さて、明日は休みだし、少しのんびりするか」
「いいですね~。先輩、明日はずっとイチャイチャしてましょうよ」
そんな浮ついた話をしていると、シュガーが扉を開いた。
「クリムちゃーん。一緒にお風呂に入ろ~」
シュガーはそう言いながら、無理矢理クリムをギルドの女湯へ連れて行った。
「あの、私は先輩と部屋のシャワーを浴びているんで大丈夫ですが……」
「シュウ君と一緒にシャワーを浴びるのはいいけれど、たまにはお風呂に入らないとね~」
そんな会話が外から聞こえた。残されたシュウは、ため息を吐いて呟いた。
「たまには俺も男湯に行こうかな……」
ギルドの女湯。湯船に浸かっているシュガーは、呑気に鼻歌を歌いながらリラックスしていた。
「あぁ~気持ちいいな~」
「さて、私は出ます。先輩と一緒にシャワーを浴びたいので」
「たまには女同士で入るのも悪くないって~」
去ろうとしたクリムの尻を掴み、シュガーは無理矢理クリムを湯船に入れた。
「いつつ……お尻を強くつかまないでください……」
「めんご~」
シュガーは軽く謝罪をした後、クリムにこう聞いた。
「ねぇ、シュウ君の右腕の事、何か知ってる?」
この話を聞き、クリムの動きが止まった。
「……その様子じゃあ何かあったね」
「何でその話を……」
「一度ね、怪我をしたシュウ君の服を無理矢理剥ぎ取って治療したことがあるの、その時に……」
シュガーはこう話しているのだが、クリムはただ身動きせずに座っていた。その様子を見て、シュガーはクリムにこう言った。
「何かがあったようだね。二人の秘密にしておきたいほどの……」
シュガーは背伸びをし、話を続けた。
「シュウ君も話してくれなかった。まぁ、二人がこの事を話したくなければそれでいいんだけど……」
「けど……何ですか?」
「隠し事はいつかばれるよ。何かのきっかけで、皆が知る事になる」
シュガーはこう言うと、湯船から立ち上がった。
「じゃあ、私は出るね。後、もし、その時が来てわかんない事があったら、私を頼ってね。私達は仲間ですから」
そう言って、シュガーは女湯から出て行った。