古き者の監視者④
「それじゃ、場所を移しましょうか」
小難しい話が続くか、と嫌な気持ちになりかけていたが、意外にもスプリアは俺を連れてすぐに学院長室を出た。
そういえば、ティナがいなかったが、何か意味があるのだろうか?
「そういやティナはどうした?」
「ティナちゃんなら、場所の準備をしてくれてるのよ。今、そこに向かってるわ」
思わず出してしまった質問に、スプリアは苦笑しつつも、俺を連れて学院の敷地内を移動していく。
外に出て5分くらい歩いた辺りで、1つの建物に入る。
ちょっとした広めの空間がある、小競技場、といった趣の場所だ。
柔道とかフェンシングみたいな、室内競技をやる場所みたいな感じ。
ちょうど中の中央辺りにティナが立っていて、俺たちに小さく手を振っている。
「ティナちゃんお待たせ~」
やたらと甘ったるい声を出しながら、スプリアが俺を置いてティナの方に駆けていく。
俺と話してる時は、しごできお姉さんみたいな感じだけど、ティナ相手にはやたら猫撫で声というか、媚売り声というか。
あ、抱き着こうとして蹴飛ばされた。
うん、ティナの中ではスプリアってだいぶぞんざいに扱っていいポジションっぽいな。
まあ、腐っても神様だから、身体もだいぶ頑丈なのだろう。
「それじゃ、ここ閉じちゃおうか。隔絶閉鎖空間」
俺が建物内に入っているのを確認して、ティナが何かの魔術を行使。
一瞬で建物内を透明な壁のような何かが覆った。
言うなれば、閉じ込められた状態か。
まあ、俺の遺骸核の能力云々を見るとかなら、大事を取って空間を隔離するのは間違いじゃない気がする。
魚野郎に最後撃ったアレとか、相当な威力だろうし。
「これでこの中で暴れても、外には影響が出ないから、遠慮無くやれるね。それじゃカイト、遺骸核を起動して」
準備は整った、とばかりにティナから指示が来たので、俺はネックレスを外し、右手に握る。
そして、右手を上に掲げて叫ぶ。
「装鎧!」
気分は某光の巨人に変身する感じで、俺は鎧を纏った。
「へえ。遺骸核が外装に変化したね」
鎧を纏った俺を、ティナが興味深そうに観察している。
ぐるぐると俺の周囲を歩き回りながら、エネルギー効率がうんちゃらとか、魔力の流れがどうちゃらとか、小難しい事を呟いている辺り、考えを口に出しながら纏めているのだろう。
スプリアの方はと言えば、手元に魔術の光をいくつも浮かべて、忙しそうに手を動かしているので、魔術と目視の両面から、俺の遺骸核の事を調べているらしい。
「今の時点で、カイトが知ってるその遺骸核の効果は?」
一通りの観察を終えたのか、俺の正面に立ったティナから質問が来た。
とはいえ、俺自身もまだ知る事は少ない。
そういくつも説明できるポイントは無いんだよな。
「とりあえず、頑丈な鎧を纏える。んで、大幅に身体能力が上がる。超威力のビームをぶっ放せる。俺が知ってるのはそれくらいだ」
現状で理解している3つの機能を端的に説明すると、ティナは腕を組んで考え込むポーズに。
組んだ両腕で豊かな胸部装甲が持ち上がって強調されて、大変眼福である。
『カイト、君には緊張感と言うものは無いのかい?』
うっせー。
どうせ小難しい事はわからねえんだ。
わからねえ事考えるだけ時間の無駄だっつーの。
「うん、それじゃ軽く戦ろっか」
何かを考えるポーズをしていたティナが、唐突に構えを取ってちょいちょい、と俺に手招きをする。
とりあえず、実際に戦ってみて、その能力を見てみようって事らしい。
けど、俺に女を殴る趣味は無いんだよなあ。
「大丈夫、心配しなくても君は私に触れる事さえできないから」
俺の思考を読んだのか、ティナは挑発的な笑みを浮かべる。
確かに神様相手ではあるから、触れられないと言われれば納得。
けど、露骨に触れる事さえできない、なんて言われて黙っているのも男が廃るってもんだ。
「言ったな? 怪我しても知らねえぞ!」
一足でティナの眼前に迫り、勢いそのままに右ストレートを繰り出す。
受ける側のティナはと言えば、ニヤリとしたまま回避の素振りも見せない。
さすがに顔面を殴るわけにはいかないと、ちょうど左肩あたりに拳を打ち込んだのだが、ティナの体に触れる前に、硬質な何かにぶつかって、俺の拳はその動きを止めた。
少し目を凝らすと、彼女の全身を、透明な膜のようなものが覆っているのが見える。
要するに、バリア纏ってますよって事らしい。
だから強気だったのか。
「ね? 触れないでしょ?」
「……だったら遠慮はいらねえな!」
あの時、魚野郎を消し飛ばした時のように、エネルギーを胸元に集めるイメージをすると、胸元からカシャカシャと音が。
多分、鎧の胸部が変型しているはず。
「いっけえええええええ!」
充分なチャージをして、胸元からビームを放出。
ぶっといビームの本流が、薄膜ごとティナを飲み込む。
そのままビームは建物内を覆う透明な壁に直撃したが、そちらはビクともせずにビームを弾いて見せた。
多分3秒くらいビームを照射してたと思うが、ビームを発射し終えると、そこには薄膜を纏ったままのティナの姿。
どうやら、僅かな痛痒も与えられなかったらしい。
くっ、無念。
「なるほどね。ちょっとだけ驚いたよ。追加で魔力込めてなかったら、防壁抜かれるトコだった」
意外そうな表情のティナを見るに、彼女の想定よりは多少威力ある攻撃はできたらしい。
と言っても、即応されて防がれる程度であったが。
「出力は相当ね。中級くらいまでの侵略的外来者なら、圧倒できそうだわ」
「ね。最初のパンチも威力が乗ってて結構いい感じだったし、ちょっと鍛えればすぐに前線に出られそう」
ティナとスプリアだけでわかってるような会話をされて、俺は頭上に?マークを浮かべる。
勝手に2人で納得されても、俺は何もわからんのよな。
「とりあえず、魔力測って、生身の方で戦闘慣らして、それから技術面かな?」
「それが良さそうね。あとは適正魔術を調べておくべきね。それ次第で戦術面はいくらでも変わるし」
「だーもう、勝手に2人で理解したみたいな会話やめてくれ。こちとら何もわからねえんだよ」
とりあえず、俺にわかるように会話しろ、と文句を言ってみた所、ティナとスプリアはお互いに顔を見合わせて、それから苦笑い。
どうやら、特に意識していない行動だったらしい。
「方針を決めてたんだよ。とりあえず、明日から遺骸核の方はスプリアに預けてもらって、君と私で魔力測ったりとか、色々やろう。それで、カイトがこっちの世界に慣れたら、遺骸核の使い方に慣れてってもらう。君の相棒の肉体については、色々やってる間にスプリアに研究してもらうから」
気付けば、俺のしばらくのトレーニングメニュー的なものが決められていて、その間にスプリアがシオンの肉体を取り戻すためにあれこれやる、というのだけは理解できたので、俺はとりあえずそれに従う事に。
というか、それしかないのだが。
結局の所、2人の協力無くして俺はやっていけないのだから。




