格上との初戦闘
この話には若干のグロテスクな表現が含まれますご注意ください
「うーん、天井が低いなぁ」
洞窟の前に立った俺は思ったよりも低い天井に唸る
魔法の絨毯の特性を考えると天井は低いよりも高い方がやっぱり助かるのだが、高さはおよそ、2メートル半といったところだろう
「高所を取って一方的に攻撃はできなそうっすねぇ」
「通路自体が狭いから絨毯を使っての高速移動にも不便そうだね」
結果から言うと俺が侵入するには不便な場所だった
「ふむ、よし、俺はここに残って敵が逃げるのを封じよう!」
俺がそう提案すると、タマモはふむっと言って顎に手を当て考える
「危険じゃない、もし、まとめて逃げてきたら?」
いっちゃんは全員で行くことを提案するが、いや、とタマモがそれを遮る
「入口近くで待つなら主一人の方が安全じゃろうな、最悪外に逃げて高度を取ればいいわけじゃし」
「そうそう、ついていくよりもここで見張りをしてるほうが俺は役割を果たせると思うんだよねー」
「・・・そうだね、じゃあ1さんにはここで待機してもらおうか」
皆が少しだけ悩んだ後にリアルンが代表して意見を出す、それに全員が頷いたことで俺の居残りが決まった
「一応金弧を残していくのじゃ、金弧、主がさぼらぬように見ているのじゃぞ?」
「はーい」と元気に返事をすると、俺が乗っている絨毯へと金弧が飛びついてくる
俺が「信頼ないなー」と言うと「信頼とは普段の行動から築かれるものじゃ、普段の主の行動を考えたら築かれるわけなかろう」と、ど正論を言われました、ぐぬぬ
「それじゃあ、行こうか、先頭は私、最後尾にいっちゃんがついて挟むようにして、残りの皆は中間について」
リアルンが指示を出し、ゆっくりと洞窟の奥へと皆が進んでいく
「さてさて、まだこの中に盗賊共は残ってるのかねぇ」
俺が絨毯の上にぐったりしていると、金弧がその背中に座ってくる、幸いそれほど重くはないが、内臓を圧迫されて、思わずぐぇっと声が出る
「どうなんだろー、普通ならもうとっくに逃げてると思うけど、逃げてないなら、よっぽど腕に自信があるのかなー?」
「この世界の盗賊ってのは強いのか?」
盗賊と言うと食い詰め者がすぐ着く職業というイメージがあるが、この世界には冒険者という無職の受け皿がある
冒険者ギルドも金がない初心者にはある程度の支援をしてくれるはずなので、盗賊となる奴等は基本的に冒険者になる気もないような人間だという事が多い
「あまり強い人はいないよー、昔ならともかく、今は冒険者崩れからの盗賊ってパターンも少ないし」
稀に冒険者として力をつけた人間が犯罪を犯して盗賊になることもあるが、そういう人間が国から騎士が派遣されて討伐されることがほとんどらしい
盗賊を見逃すことは百害あって一利なしというのがこの国の基本方針だ
さらに力をつけた冒険者は、基本的に騎士に抜擢される、騎士が嫌な者も貴族のお抱え冒険者になれるという事で、冒険者のモチベーションも高い
「でも時々、そのどっちも嫌がる人もいるみたいだけどね、そういう人は大体死んじゃうんだけど」
冒険者とはヤクザやチンピラに近いイメージを持たれている為、騎士としてその力を悪用しないように心を鍛えるか、貴族に首輪をつけられて生きるのがほとんどだとか
そのどちらも断ったものはギルドに監視されるか、死ぬかのどちらかの道しかないらしい
「高位の冒険者よりも騎士のほうが強いのかー」
「当たり前だよー、冒険者の方が強かったら冒険者が暴走した時に止める人がいないもん!」
この世界の組織の戦闘力は国>貴族>冒険者となるらしい
「ただ、主様達が来たことで少し変わるかもねー」
確かにプレイヤーはあまり、騎士や貴族の下につきたいと思う人間はいないだろう
そうなると、この国の戦力バランスが崩れる事になるのかもしれないなー
「まぁ、俺は静かにほどほどに頑張って生きていければいいなー」
「主様には覇気がないからねー」
俺が「失礼な!」と言って体を捻って金弧の方を見ると、金弧の耳がピーンと立つ、それを見て俺も魔法の絨毯に座り直し、金弧を膝の上に抱き込む
「何か来るのか?」
「多分、一人、足音を聞く感じでは、村の前にいた盗賊よりは強そう」
金弧が警戒し、洞窟の奥を睨み、無言でスキルを発動させる
暗闇を見通せない俺にはわからないが、念の為洞窟の外まで下がる
「倒したか?」という俺の問に、金弧は首を振り
「残念ながらあえてフラグになる言葉を避けても無駄みたい」と洞窟を指さす
指さされた方を見ると、肩からわずかに出血した盗賊が現れる
「強いのか?」と俺が聞くと、「今の私よりはLVは高い」と金弧の返事が返ってくる
「LVが高いだけなら勝てるな」と俺が言うと、金弧がにこりと笑って
「やっと少し歯ごたえがある敵が出てきた!」と嬉しそうに笑う、ああ、お前もそっち系だったのか
盗賊の方はというと何も言わずに短剣を手にこちらに走ってくる
「はっや?!」
「主様回避を!」「捕まってろ金弧!」
金弧が牽制で2本のナイフを飛ばすが2本ともあっさりはじかれそのまま盗賊は直進してくる
俺は金弧を抱きしめると絨毯を右に旋回させて回避しようとするも回避しきれずに右腕をナイフで軽く裂かれることを代償に盗賊の背後を取る
それを見た金弧が一瞬俺に声をかけようとするが、俺はそれを目で静止し、それよりも攻撃することを優先させる
一瞬の間が開くも、無防備な盗賊の背中へと、3本のナイフが襲い掛かる
だが、その一瞬の間で体制を立てなおした盗賊は2本を手に持ったナイフではじき、残りの1本は左手で払う
刃の部分をはじいた為、つけていた革製の小手に傷がついたが、深い傷とは言えず、わずかに傷がついただけだった
「俺の腕一本であの程度かよ」
「主様の腕は切られても戦力低下にならないし、五分五分?」
いつの間にか金弧までタマモに毒されてしまったか・・・そんな事を考えていると再び盗賊がこちらに突撃してくる
「さっきよりも随分遅いな、さっきのはスキルの効果か」
「多分そうですよー、油断しないでくださいね主様、使えるのに油断させるためにあえて使ってない可能性もあります」
俺達の回避が間に合わないところでスキルを使って確実に決めるつもりかもしれないって事ね、だったら
「このまま付かず離れずの距離を取ってりゃ勝つのは俺達かね?」こちらは相手のナイフの入らないでいれば金弧が生み出したナイフで一方的に攻撃ができるわけだ
「ちょっとMP的にきついかもー」だが世の中そううまくは行かないようで、となるとだ
「金弧、牽制の本数を減らして、あの盗賊を確実に倒せる武器を生み出せる魔力をためてくれ」
説明足らずの俺の言葉に疑問を持たずに頷くと、2本同時に生み出していたものを1本に減らして牽制する
当然相手も警戒するが、同時にチャンスだと思ったのか、致命傷となる攻撃のみガードしながら、一気に距離を詰めてくる、そして向こうの必殺の距離になった所で、スキルを使い、一気に懐に入り
「主様、間に合わない!」
ナイフの狙いは金弧の胴体、金弧の声に俺は金弧を守るように腕を回す
だが、残念ながら俺の腕の太さよりもナイフの方が長い、このままでは貫通したナイフは金弧に届く
俺の左手にぐさりとナイフが刺さる、痛覚設定が低いとはいっても0ではない為、刺さった所に熱と痛みが走る
だがそれまでだ、俺は左手の中に石を握りこんでいた、これが名匠が鍛えたなら石を貫き金弧に届いたかもしれないが、残念ながら盗賊が持っていたナイフは量産品だった
ナイフは途中からぽきりと折れ、俺の手の甲に突き刺さったままその役目を終えた
「金弧」と俺は叫ぼうとしたが、痛みで声が出ないで、うーうー言うと、それを待つまでもなく金弧が生み出した鋼鉄製の長剣が盗賊の首を跳ねた
盗賊はナイフが折れた驚きと自分が死ぬ衝撃で目を見開き、そのまま地面に首が落ちて死んだ
それを確認すると緊張が切れたせいか、手のひらまで貫通したナイフの痛みが増し思わず魔法の絨毯に寝そべった
「主様!」金弧が俺の様子を確認しようとしたのと、タマモから苛立たしげに、ここから離れよ!と言う念話が届くのは同時だった、残念ながら、俺の苦難はまだ続くようだ・・・




