鍋を叩く
キースが班を連れて来たのは、その週のことだった。
ヴォルフ団の整備班が四人、揃いの前掛けをつけて工房の前に立っている。全員が手ぶらだった。壊れたものを持っていない客が来ると、うちでは大抵ろくな話にならない。
「ハウザーさん」
「今日は何を持ってきた」
「何も持ってません」
キースは深く頭を下げた。
「教えていただけませんか。班ごとで、です」
俺は当て金を置いた。
「何をだ」
「読み方です。摩耗から使い手の癖を読むやつを。うちの班は、鑑定盤の数値を読むことしかやってこなかったので」
工房の隅で、トビーが手を止めているのが視界に入った。ニナも顔を上げていた。
俺は少し考えて、それから言った。
「いいぞ」
キースが顔を上げた。上げた顔が、明らかに拍子抜けしていた。
「……いいんですか」
「駄目だと言う理由があるか」
「あります。というか、普通はあります」
「たとえば」
「技術です。それがそのままうちの商売になります。あなたの客がうちに流れます」
「流れるだろうな」
俺は道具箱から砥石を出して、水に浸けた。
「流れて何が困る」
キースが黙った。
四人の整備班も黙っていた。
「あんたの班が読めるようになったら、あんたのところの隊員が死ににくくなる。それだけの話だろう」
「……それだけの話じゃないでしょう」
「俺には、それだけの話に見える」
俺は砥石を台に据えて、いちばん上に載っていた短剣を取った。
「持ってこい。あんたの班が、いま担当してる連中の武器を全部だ。読み方は物がないと教えられん」
キースはしばらく立ち尽くしていたが、やがて背中の四人を振り返って、行け、と言った。
四人が駆け出していった。
残ったキースが、少し困った顔でこちらを見ていた。
「ハウザーさん」
「なんだ」
「それで飯が食えなくなったら、どうするんですか」
俺は短剣の刃を光に当てた。角度が寝ている。この持ち主は研ぎを人に習っていない。
「鍋を叩く」
「鍋」
「鍋を持ってくるやつは減らん」
キースが噴き出した。工房の隅で、ニナが小さく笑っていた。
四人が戻ってきたのは、日が傾いてからだった。担いできた袋から出した武具を、俺は台に一列に並べさせた。
「まず並べる。これが最初だ」
「並べるだけで、何か分かるんですか」
「並べると同じ隊のものが揃う。揃うと、その隊の癖が出る」
俺は端の三本を指した。
「これは同じ人間が研いでる。角度が揃ってるからな。それで、この一本だけ違う。これが教えた側だ」
「……なんで、そう言えるんですか」
「教える側は自分の角度で研ぐが、教わった側は教わった角度で研ぐ。だから教わった側のほうが揃うんだよ。人間ってのは、真似のほうが正確なんだ」
整備班の四人が、いっせいに書き取りはじめた。




