【福利厚生】の充実! ――神様、初めての「お昼寝」
「システム、完全に安定いたしました。150億人の分散演算、エラー率0.0001%以下。……もはや、レイン卿が起きている必要性は、一秒たりともございません」
カシムが魔導端末のホログラムを閉じ、一歩下がった。
かつて『中央演算聖域』と呼ばれた場所。
今は、エリザベスが即席で作り上げた「福利厚生スペース」へと、変貌している。
雲のように柔らかい最高級の魔法羽毛ベッドが設えられ、傍らではアロマの香りが優しく漂っていた。
「……え、あ。……本当に、俺、何もしなくていいの? ……みんな、消えたりしない……?」
ベッドの端に腰掛けたレインが、自分の掌を見つめる。
数百年もの間、民の命を抱え続けた瞳には、深い隈と疲労が刻まれていた。
「あほ。アンタは今日から『特別有給休暇』や。……ええか、有能な経営者はな、休むんも仕事のうちやねん。アンタがボロボロで倒れたら、ウチの『投資』が水の泡やないか」
エリザベスは腰に手を当て、鼻で笑った。
「カシム! レインの旦那の『睡眠時間』、今日から福利厚生費として計上しなはれ。……一秒でも早く起きたら、罰金取るからな!」
「……承知いたしました。……目覚まし時計はすべて『没収』済みです」
カシムの徹底した仕事ぶりに、レインがふっと力を抜いた。
張り詰めていた「神」としての糸が、切れた瞬間だった。
「……そっか。ありがとう、エリザベス。……おやすみ……」
バサリ、と。
吸い込まれるように、枕に顔を埋めたレインは、深い眠りに落ちた。
規則正しい、静かな寝息。
世界の「平和」がようやく本物になったという、何よりの証明だった。
「ふん。……起きたら、たっぷり働いてもらうからな」
エリザベスは、不敵に微笑んだ。
「さて、エドガー。『決算』はどうや?」
傍らで、『世界の仕様書』に目を通していたエドガーが、満足そうに口角を上げた。
「……完璧だよ、エリザベス。神一人にコストを押し付けていた歪な構造は消え、世界は健全な『黒字』へと転換した。君が作った『新しいバランス』こそが、真のハッピーエンドというわけだね」
エドガーは、エリザベスの額に、深い信頼の口づけを落とした。
「……っ!? ……アンタ、今は監査中やろ! 新婚手当は、さっき支給したばっかりや!」
真っ赤になって抗議するエリザベス。
小さなトカゲ姿のギルが、レインの足元で丸くなり、幸せそうに喉を鳴らした。
神が眠り、商売人が笑う。
ナニワ令嬢の「経営再建」は、温かな勝利の時間を刻んでいた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
経営再建も無事に終わり、エリザベスたちの日常にも、平和が戻ってきました。
監査中のエドガーのイチャイチャ(?)には、エリザベスのソロバンも真っ赤なはずです。




