22.番外編:可愛い光景
使い魔たちの数が十体を越えた頃。
ルーナが屋敷の廊下歩いている時、アインが「こっちですよー」と言いながら他の使い魔たちを先導している姿を見た。
ネコ、イヌ、キツネ、タヌキ……その他可愛らしい動物のぬいぐるみたちが列になってとある部屋に入っていくのを見る。
「……なんだろう……?」
不思議に思い、ふらふらと引き寄せられてしまった。
なんせ『可愛い』が列をなしてどこかへ行くのだ。何をするのか、どこへ行くのがか気になってしまうのはしょうがない。
ルーナは祖父母に引き取られてからと言うものぬいぐるみには全く縁がなかった。両親に買ってもらったぬいぐるみも祖父母のところに行く際、年下の女の子にあげるように強要され、泣く泣く手放したのだ。
彼らを驚かせないようにそーっと後を追いかけ、ぬいぐるみたちが入っていった部屋の中を覗き込んだ。
その部屋はまるで浴室のようだった。ただ、ルーナが使った浴室と違って少し汚れている。
浴室の中で使い魔、もといぬいぐるみたちが桶にいれた水をかけ合っていた。
「よいしょー」
「じゃあ洗いまーす」
「はーい」
ばしゃばしゃと水を掛け合った後、彼らは自分の体(ぬいぐるみなので、当然布製)を使って石鹸を泡立てだす。ほどなくしてもこもこと泡が広がっていくと、ネコとイヌ、キツネとタヌキなど、ペアになってお互いの体をごしごしと洗い出したのだ。
手で顔をごしごしと洗ったり、背中合わせになってお互いに体を揺らしたり──。
「よいしょ、よいしょ」
「うんしょ、うんしょ」
声を掛け合いながら、ぬいぐるみたちがお互いの体を洗っている。
汚れている箇所は入念に、「ここ汚れてるぅ」「こっちもー」「洗うねー」と言いながら。
「~~~~~~~~~~!!!!!!」
ルーナは口を両手で押さえて声にならぬ声を発する。
一言で言うなら、『可愛い光景』だった。
最初、アインを見た時には不気味で怖いと思ってしまった。しかし、日々彼らを縫って修復していくうちに、恐怖などという感情は消えてなくなっている。
破れた箇所を縫い直し、取れた手足や尻尾などをつけ直した後で動き出す彼ら。
それを見るのが最近では楽しくなってしまい、たまに仕事だということを忘れてしまう。
ルーナが扉の影から見ているのに気付いたらしいアインがトコトコと近付いてきた。
「ルーナ」
「ふぁっ?! は、はい! ご、ごめんなさい……何してるのか、気になって、つい……!」
「いいのですよ。気にしないで下さい。こないだ話したでしょう? これが洗浄です」
「せ、洗浄……」
洗浄という単語から想像していたものとあまりに違っていた。
こんな可愛らしい光景を『洗浄』と呼んでいるのか。
アインはルーナの心の内など知らずに機嫌よくしている。
「複数いないとちゃんとできないので良かったです。昔は、たまーに奉公に来ていた人間と一緒にお風呂に入っていたりしてましたが……」
「い、いっしょに、お風呂……?!」
「結構喜んでくれる子もいました。ただ、ワタクシたちのせいでお湯が汚れるので、本当にたまにでしたよ」
ルーナは真顔になった。
心の中で(いいなぁ)と思ってしまう。
──お湯が汚れるなんて気にしないから、私と一緒にお風呂に入って下さい。
そう言いたかったが、そうするとこの光景が見れなくなるかもしれない。
口を無駄にパクパクと動かすと、アインが不思議そうに首を傾げる。
結局、この光景が見れなくなるかもしれないことと、ルーナ自身の勇気のなさ故に何も言えずに終わるのだった。