第四十八話 拒否
スカイタワーダンジョンの攻略は、順調に進んでいた。
春重たちの連携は、さらに洗練され、狩り効率も向上。そうして一日百階層で狩り続けた結果、三人のステータスは、一気に成長した。
名前:山本春重
種族:人間
年齢:38
状態:通常
LV:112
所属:NO NAME
HP:3022/3022
SP:3340/3340
スキル:『万物支配』『鑑定』『精神耐性』『ナイフ(LV4)』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『闘志』『直感』『両手剣(LVMAX)』『空間跳術(LVMAX)』『極限適性』『毒耐性』『体術(LVMAX)』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『空腹耐性』『鳥獣特効』
名前:阿須崎真琴
種族:人間
年齢:18
状態:通常
LV:108
所属:NO NAME
HP:2791/2791
SP:2944/2944
スキル:『弓術(LVMAX)』『緊急回避(LVMAX)』『危険感知(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『集中』『装填速度上昇』『魂力矢(LVMAX)』『攻撃力上昇・遠距離』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『闘志』『空腹耐性』『鳥獣特効』
名前:九重桜子
種族:人間
年齢:24
状態:通常
LV:155
所属:NO NAME
HP:3560/3560
SP:3817/3817
スキル:『太刀(LVMAX)』『鑑定』『精神耐性』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『反応速度向上』『直感』『空間跳術(LVMAX)』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『体術(LVMAX)』『毒耐性』『痛覚耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『闘志』『鳥獣特効』
「わぁ! もしかして、あれが桜子さんの言っていた窓ですか!?」
百五階層まで上がってすぐのところに、アーチ状の窓が無数に並んでいた。その窓からは、青い空が覗いている。真琴は、興奮気味に、その窓に駆け寄った。
「おお……本当に外と繋がってる……」
「見てください! 街が見えますよ!」
春重が真琴の隣に立つと、確かに東京の街並みが見えた。途端に、足がすくむ。そういえば、春重は高所恐怖症だった。
「春重、大丈夫か?」
「あ、ああ……だ、大丈夫」
「そうは見えないな……」
春重の足が、がくがくと震え始める。一度意識してしまうと、もうダメだった。
「きひひ! 情けないのう! 我なんて、ほら!」
エルヴァーナが、窓に飛び乗り、胸を張った。
「ちょっと、エルちゃん! 危ないから下りてきなさい!」
「嫌じゃ! 危なくない!」
「落ちたらどうするの!?」
「きひひ! 我が落ちるわけ――――」
そのとき、一陣の風が吹き、エルヴァーナの体がぐらりと揺れる。
「あっ」
「おい……嘘だろ!?」
エルヴァーナの体が、空中に投げ出される。
春重が手を伸ばすが、ぎりぎり届かない。そして、そのまま春重たちの視界から消えた。
「エルヴァーナ!」
春重が、窓から身を乗り出す。すると、目の前を大きな影が通り過ぎた。
それは、日の光でぎらぎらと輝く、白銀の竜。
「あ……危なかったぁ」
エルヴァーナは、翼をはためかせ、その場に浮遊していた。
竜の腕で冷や汗を拭う姿は、とてもシュールではあったが、今の春重たちに、それを気にしている余裕はない。
「そ、そうでした……エルちゃんって、飛べるんでしたね」
「……焦って損したな」
真琴がその場にへたり込み、桜子が深いため息をつく。
人間体に戻ったエルヴァーナは、自分が落ちた窓から、ダンジョンの中に戻ってきた。
「なんじゃ、お主ら。疲れ切った顔して」
「君のせいだよ……」
「はっ! 我が落ちて死ぬとでも思ったのか? 我は竜じゃ! お主らと違って飛べるんじゃ!」
「はいはい、そうでしたね」
――――自分も焦っていたくせに……。
そう毒づきそうになったが、やめておいた。
「投げやりに言うな! もっと敬え! 尊敬しろ!」
ぎゃあぎゃあと跳びかかってくるエルヴァーナを手で制しながら、春重は改めて窓を見る。
そして、その脳裏に、邪な考えが過った。
「……分かるぞ、春重。私も同じことを考えている」
「わ、私もです」
桜子と真琴が、同じように窓の外を見て、そして、エルヴァーナを見た。
「なんじゃ、なんで我を見るんじゃ」
「エルヴァーナ、お前、私たちを乗せて飛べないか?」
春重たちは、エルヴァーナへ期待の視線を向ける。
この先にも窓があるなら、エルヴァーナの背に乗っていけば、一気に階層を上がることができる。危険と判断したときは、即座に地上まで戻れるし、同じ階層に戻ってくることも容易だ。そうしない手はないというくらい、最善の移動手段である。
「はぁ!? 嫌じゃ! ぜーったい嫌じゃ!」
エルヴァーナは、顔を真っ赤にして、何度も床を踏みつけた。
「人間を乗せて飛ぶなんて、死んでもごめんじゃ!」
「エルちゃん、どうしてもダメ?」
「どうしてもじゃ! 我の背中は特別なんじゃ! 乗せるどころか、触らせたくもない!」
そう言って、エルヴァーナはそっぽを向いてしまった。
「どうしても乗せてほしかったら、命令でもなんでもすればいいじゃろうが!」
「……そんなことしないよ。君はもう仲間だ」
春重がそう言うと、エルヴァーナは口を噤んだ。
おかしい。これまでは、仲間と口にするたびに鼻で笑われていたのに。
「……まあ、道中のアイテムを取り逃すのも惜しい。このまま進もう」
「そうですね!」
桜子と真琴が切り替えたのを見て、春重もダンジョン攻略に意識を戻す。
外から吹き込む、少し冷たい風が、頬を撫でた。エルヴァーナは、それからしばらく、無言だった。
百十階層、百二十階層と、春重たちは順調に進んでいく。モンスターの強さも跳ね上がることなく、スムーズな戦闘が続く。
やがて正午になり、春重たちは、ついに百三十階層にたどり着いた。
この階層は、現在記録されている最高到達点。この先には、数多の探索者を撃退した、危険なフロアボスが待ち構えている。
春重たちは、ここで再び、休憩を取ることにした。
「だいぶ順調だ。稼ぎもかなりのものになっただろう」
「はいっ! ドロップアイテムで、もう鞄がぱんぱんです!」
ほくほく顔の真琴が、荷物が入った鞄を叩く。ずしっと中身が詰まっている音がした。
「俺の鞄も、そろそろ限界だ。今日の夜で切り上げるのはどうだろう?」
「そうだな。レベルもずいぶん上がったし、目的は果たしたと言っていい」
春重たちは当たり前のように話しているが、彼らがこの二日間で出した成果は、下手な探索者の一ヶ月分――――いや、それ以上の成果だ。
それに『万物支配』の効果で、『支配』したモンスターが多ければ多いほど、経験値が多く取得できる。つまり、通常の数倍の経験値を得ているということだ。それが、平均80レベル以上のモンスターたちとの戦闘で適応されるのだ。強くならないはずがない。
「そうだ。この先にいるフロアボスは、風を自在に操る怪鳥らしい。どうだ、面白そうだろう。戦ってみないか?」
「「だめです」」
「こ、声を揃えて言わなくても……」
しょんぼりとした様子で、桜子が目を伏せる。
春重とて、この先に興味がないわけではないが、危険を冒すときは、万全に準備すべきだ。探索に重きを置いて、十分な稼ぎを得た今、無理に挑む必要はない。
ただ、春重としても、こんなに落ち込まれると心が痛む。
「悪いな、桜子……」
「いや、いいんだ。私も言ってみただけだし……言ってみただけだし」
まったく納得していない様子で、桜子はため息をついた。こういうところも、エルヴァーナに似て子供っぽいのだが、本人に言ったら本気で怒りそうなため、春重は黙っておくことにした。




