第四十三話 次なる目的地
「真琴、お前は何か勘違いをしている」
「勘違い?」
「新宿ダンジョンは、日本屈指の難関ダンジョンだ。春重の『万物支配』があったとはいえ、私たちはそれを攻略したんだぞ? あそこ以上に難しいダンジョンなど、ほとんど存在しないんだ」
「そ、そうなんですね……!」
真琴は、現実感のなさから、困惑したままそう言った。
もともと、非道な探索者からカモにされるような底辺にいた自分が、まさかこんなところまで来るなんて。彼女の顔が、そう言っていた。
「でも、新宿ダンジョンよりは、難易度を下げたいな。あんな危機的状況、そう何度も切り抜けられるもんじゃないし」
「それは同感だ。どのダンジョンに挑むにせよ、このままでは、あのときの二の舞になる可能性が高い。そこでまず、お前たちのレベルを、私と同格にしたいと思っている」
「えっと……今、俺が82、真琴が80だったか」
三人は、改めてステータスを確認する。
名前:山本春重
種族:人間
年齢:38
状態:通常
LV:82
所属:NO NAME
HP:2398/2398
SP:2437/2437
スキル:『万物支配』『鑑定』『精神耐性』『ナイフ(LV4)』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『闘志』『直感』『両手剣(LVMAX)』『空間跳術(LVMAX)』『極限適性』『毒耐性』『体術(LV8)』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『空腹耐性』
名前:阿須崎真琴
種族:人間
年齢:18
状態:通常
LV:80
所属:NO NAME
HP:2155/2155
SP:2309/2309
スキル:『弓術(LVMAX)』『緊急回避(LV9)』『危険感知(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『集中』『装填速度上昇』『魂力矢(LVMAX)』『攻撃力上昇・遠距離』『反応速度向上』『痛覚耐性』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『闘志』『空腹耐性』
名前:九重桜子
種族:人間
年齢:24
状態:通常
LV:145
所属:NO NAME
HP:3244/3244
SP:3561/3561
スキル:『太刀(LVMAX)』『鑑定』『精神耐性』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『反応速度向上』『直感』『空間跳術(LVMAX)』『腕力強化』『脚力強化』『属性耐性』『体術(LVMAX)』『毒耐性』『痛覚耐性』『集団戦適性』『一騎打ち適性』『集中』『闘志』
「桜子さんとは、大体六十以上離れてますね」
「レベルを揃えようとまでは言わない。だが、せめて130レベルまでは持っていきたいな」
桜子の言葉に、春重と真琴はぎょっとする。
130レベルは、国内の探索者の中でも、上位5パーセントに入る上澄み中の上澄みだ。
その領域までいくと、程度はどうあれ、名前が知られた者ばかりになる。
「さ、桜子……俺たちをどこまで連れていこうとしているんだ?」
「ふっ、心配せずとも、ダンジョン攻略の最前線に行こうとしているわけじゃない。ただ、私は懸念しているのだ」
桜子は、オレンジジュースに夢中になっているエルヴァーナを一瞥した。
「エルヴァーナは、ダンジョン内を移動し、阿修羅オーガの階層まで下りてきた。しかも、こうしてダンジョン外にまで出てきてしまっている。これが、どういう意味か分かるか?」
「……他のダンジョンのボスが、外に出てくるかもしれないってことか?」
春重は、自分でそう口にして、青ざめた。
全国各地に存在する、数百個のダンジョン。その最奥を守る強大なボスたちが、ダンジョンから飛び出してくるようになれば、日本に安全な場所はなくなる。いや、下手すれば、海外だって。エルヴァーナのように、モンスターが自我を持つという現象が、日本だけで起きているとは限らないのだ。
「万が一の事態から生き残るためには、とにかくレベルを上げておく必要がある、大金を得るためでもあるが、それ以上に、自分たちの身を守るためにな」
「分かりました。春重さん、頑張りましょうね……!」
「ああ、お互い無茶だけはしないようにな」
真琴は、納得した様子で頷いた。
さて、これにて方針が決まったわけだが、まだ肝心の稼ぎ場所が決まっていない。春重は、経験値稼ぎの面からも、適したダンジョンを探してみることにした。
「あ、このダンジョン……」
春重は〝東京スカイタワーダンジョン〟という名前を見つけて、画面をスクロールする手を止めた。推定階層百四十。そのうち、現在は百三十階層まで攻略が進んでいる。
適性レベルは、百階層付近で80以上。春重たちにとっては、いい稼ぎ場所になるかもしれない。
何より、春重にとって、スカイタワーダンジョンには、ちょっとした思い入れがある。直接足を踏み入れたわけではない。ただ、無職になってしまったあの日、春重はスカイタワーダンジョンを見て、探索者になることを思い至った。もしかすると、あのときスカイタワーが見える位置にいなかったら、今頃別の仕事をしていたかもしれない。
「どうした?」
ぼーっとしていると、桜子が声をかけてきた。春重は、はっとした拍子に、思わず口を開いた。
「スカイタワーダンジョンはどうだ?」
「ほう……そこか。なかなか面白いところに目をつけたな」
桜子が、にやりと笑った。
「スカイタワーは、とても美しいダンジョンと言われていてな。百階層以上から見える景色は、それはもう最高らしい」
「景色って……ダンジョン内から外が見えるんですか!?」
ダンジョンが一体どういったものなのか、いまだに解明されていない。外観と内部の広さが、まったく釣り合っておらず、ダンジョンを研究していた学者が、あまりの難解さに泡を吹いて倒れたという話は、かなり有名だ。
故に、ダンジョンには、正面に開いた入口以外、外と繋がる部分は、存在しないことが常識だった。
「窓でもあるっていうのか……?」
「ああ、そうだ。窓があるんだよ」
桜子は、自分のことでもないのに、何故か得意げに言った。
「鳥獣系のモンスターが多くて、そこだけが厄介なのだが、うちには真琴がいるし、なんとかなるだろう」
最悪、いつでも窓から逃げられるしな――――。そう言って、桜子はけらけらと笑った。
スカイタワーの高さは、六百三十四メートル。そこから一気に飛び降りたら、どうなるかなんていうのは想像するまでもない。
――――まあ、桜子なら大丈夫かもしれないな……。
春重は、真琴と共に、苦笑いを浮かべた。
新宿ダンジョンの一件から、桜子は以前よりも笑うようになった。それ自体はいいことだと、春重は思うのだが、時折飛び出す冗談が、果たして本当に冗談なのか分からないときがあり、反応に困る。
「ちょっと怖そうですけど……そんなに綺麗な景色なら、私も気になります」
「行ってみようか、スカイタワーダンジョン」
そう言って、春重はコーヒーを飲み干した。




