第九場(岩槻城・屋内)
登場人物
松五郎
忍者1=三郎
その他、モブキャラ多数
〇岩槻城
岩槻城全景。テロップ「岩槻城」
〇中奥
二十畳の座敷。時刻は夜。
松五郎、布団を敷いて寝ている。
松五郎の顔をクローズアップ。
松五郎、眼を開ける。
ナレーター(松五郎の声)「何もかも夢のようじゃ」
〇日光東照宮
大名行列が日光東照宮前に到着する。
駕籠の御簾が開き、中から将軍の着物を着た松五郎が出てくる。
〇大宴会場
馳走を持った複数の高坏。
松五郎、複数の若い女性に囲まれ、彼女たちがお酌する。
ナレーター(松五郎の声)「将軍の馳走を食べ、将軍の美酒を飲み、将軍の着物をまとい、将軍の部屋で寝る。女も少年も好きなだけあてがわれる。
日光社参の儀式や典礼は退屈じゃったが、きらびやかな毎日は、これまでの過去を忘れさせるほど魅惑に満ちている。明日は江戸城に戻る予定らしい」
(三郎の声)「松五郎先生」
〇中奥
松五郎は起き上がり、行燈の明かりを灯す。
するとそばに黒装束に身を包んだ三郎がいる。
三郎「松五郎先生」
松五郎「三郎じゃないか。なぜここに」
三郎「昨日、『枕獅子』の千秋楽でした」
松五郎「どうだった?」
三郎「連日、大入りでした」
松五郎「うまく『枕獅子』は演じられたのか?」
三郎「おいらは二日目だけです。三日目以降は立役の勘之助が『枕獅子』をやりました。勘之助は前から女形がやりたかったそうです」
松五郎「そうか、勘之助がやったのか」
三郎「......」
松五郎「ところで三郎、どうしてここがわかった」
三郎の目つきが変る。
三郎「(老人のしわがれ声で)まだわしに気づかぬか。それとも気づかぬふりをしているのか」
三郎、おもむろに懐から能面を取り出し、顔にかぶる。
松五郎「おかしら。おかしらの正体は三郎だったのか」
三郎「(老人のしわがれ声で)能面党の掟は覚えておるな。抜け忍、裏切り者は殺す」
三郎、背中の刀を抜く。
松五郎「待ってくれ」
松五郎、布団から飛び起きようとするが、三郎が刀を振り下ろす。
松五郎「ギャァァァァー」
フェードアウト。
(つづく)