エピソード1『3つ目のバトンタッチ』(7)
市の区画を簡単に区分すると主に高層建築物が犇く内務区、そして貴族街、通常住宅街が立て並ぶ2級市民区、他国との交易を担当する港区、西部にある森林特区が特徴的となる。
「……何処へ行けばいいんだ、俺は」
アトスが聞いて来る。
「差し支えなければ今日は学校が無いので、僕の職場に来てください」
「そうか。……学校と言ったが、その歳で働いているのか」
「ええ、一応家業を継がなければならないので」
「……家業、か」
少しアトスの表情が曇る。
「それでは、いきましょう」
嫌な事を思い出させるのも申し訳無いと感じ僕はアトスを案内して、内務区にある国家保安区特殊課に向った。
もっとも、その組織自体はつい最近再設されたもので、僕がゆくゆく実績を出す為のお膳立てとしての役目である。過去実績があったのは300年前の事なので、ノウハウも失われていて今は形にすらなっていない。
「ーー汚いな。病気になるぞ」
アトスが顔を顰める。
特殊課の建物は薄汚れている、石造りの風情のある構築だ。
最近まで倉庫扱いされていたところを、急遽使えるようにしたという国のケチる気が感じられた体裁だった。
「僕の生まれる前から出来てる建物なんで、そこだけは申し訳ないです」
廊下を歩みつつ、話を続ける。
「……君は幾つなんだ、ミラカナ?」
「僕は14です」
「若いな。だけど自立している」
アトスが言った。
「そんなんじゃないですよ。身分だけです。それに、その身分だって上は沢山いるんですから」
僕は言い返した。
「あ、室長おはようございます。本日の定期書類をデスクに置いて置きました」
道行く所員が、その時声を掛けてきた。
「ありがとうございます」
僕はその所員に礼を返し、こちらは僕の友人です、とアトスを所員に紹介する。
「室長とは?」
背後から怪訝そうな声。
「こんななりですが僕は一応、国家保安区特殊課第二室長の肩書きを貰っているんですよ。自慢にもなりませんが」
「成程、将来が確約か。それは凄いと見える」
アトスはお世辞を言ってくる。
「とは言え、出来る事は少ないです。こんなオンリーワンな仕事、お飾りですよ。あー、仕事と平行してこの世界に冠する書類をかき集めるんで、後で目を通して下さい」
僕はそんなアトスに対し妙にむず痒く思いながらも、そう返した。