hold me or get out(2)
「火薬のセット、完了。爆破まで10秒だ。ーーしかし、いいのか?」
鉄の馬に変形しているガイアブレードが静かに、アトスに話しかける。
「構わない。勝つための布石だ。四の五の言ってられない」
ガイアブレードに乗っているアトスは得意げに、胸を張った。
「ーーやってくれ」
「ーー爆破!」
アトスの号令と共に、アイラの屋敷が爆発に包まれる。
「ーー直接対峙すれば、ミラカナのような優しい奴は甘えが生まれる。そうであるならば、潰すしかないのだ。ーーあの女の考えは読める、だが、そうであっても順序は飛ばしてはならない」
ガイアブレードに乗ったまま、アトスはそう物悲しげな眼になって言った。
屋敷の中から、一筋の光が飛び上がったのに、アトスもガイアブレードも気付かなかった。
近くの山で屋敷で爆発があったのを確認し待っていると、アトス達が戻ってくる。
「ーー屋敷ごと、破壊したのか」
僕は、肩を落とす。
「生憎話をしようとした限り生け捕りには出来なかったのでな。卑怯だが、やらせてもらった」
アトスは罰の悪い顔をし、ガイアブレードに目を向ける。
「ーーそうだな、非情ではあるが、これしかなかった」
「ーーアトス」
「お前はお前の道を行け。この国の再建は現行の13人衆があるだろうが、次代を見るのはお前のその目と手だ。この国には、お前と言う存在が必要なんだ」
アトスは言う。
言ってる事はーー分かる。でもーー。
「正直を言えば、僕はーーアイラと次の時代を、見たかったな。彼女が、狂気にさえ陥らなければーー」
目を伏せる、僕。正しい事をしたというのに、何故だか辛さが湧いてくる。
「分かる、分かるさ。そういった痛みはーー無理をするな」
アトスは、僕の頭を抱えてくる。
「アト……」
ミクモが咎めようとしたが、ソレイユにたしなめられて渋々黙る。
「お前の喪失感は、恐らく相当の間について回る。だがーー忘れるな。お前は、俺の魂と共にある。そして、お前にも、彼岸の彼方で待つものはいる」
「ーージョイス、か」
「だろうさ。だから、お前がやりとげた事を、あの世で土産話にするためにも、生きてやるんだ。どんなに、辛くたってな。わかるか、ミラカナ」
「アトスーー」
「ーーでは」
そういった瞬間、アトスと僕の足元が開く。
「ミラカナ様!」
「アトス!」
ソレイユとミクモがこちらに手を伸ばすが、間に合わない。
「ーー決着を付ける」
アトスが突如、意を決した顔になった。
僕達が落とされた闇の中は、全球型のクリスタルだった。
走って10分は、隅から隅まで掛かる。
「ごきげんよう」
僕たちの前から話しかけてくるのはーーアイラ。いや、アイラだったもの。
ーー彼女は、カスピエルの一部と化していた。
「アイラ」
「アイラ様、です」
アイラは僕の言葉を、否定する。
「私が何故無事だったかーー分かりますか?」
「ーーカスピエルが、守ったとでも」
「もちろんです。私は彼を育てる為に、莫大なパワーを使い、そして同じくそこの男のような異界からの存在を吸収させました。ーーそれも、3体も」
「3体もーー!」
僕は、後ずさりする。
「まぁ最後の一体の吸収は、あの変な爆発で半端に終わってしまったけれど。ーーそれでも、今の私ならやれる」
「ーーそうして得た力に裏切られたら、あんたはどうするつもりだ」
横のアトスが、問いかける。
「そうしたらその時はその時よ。私は自分で考えて動いた。それまであった何もかもを否定していたことには全く、一片の後悔もしていない。あんなもの捨て去って当然だった」
「ーー。」
「レティウス13人衆? 席次3番? 臍が茶を沸かすわね。私は私、だから私の思う平和の為に消し去ってあげる、それだけよ」
そこまで言ってから、僕へ視線を向ける。
「ーーミラカナ、貴方だけは守ってあげるつもりでいた。元々は。ーーでも、私を裏切り、売ったというのならばーー相応の報いは受けて貰う」
「ーーアトス」
「分かっている。ノルドシュトルムを止める前にーーこいつを、破壊する」
【エクステンション!】
アトスの身体に装甲が纏わりつく。
「カスピエル、そしてアイラーー。ここで倒さねば、外の十三人衆の残りも吸収されてしまう。ーー止めてみせる!」