エピソード3「デュアル・ゴア」(13)
日が落ちて昼間の喧騒が嘘のようかに静かな、日となる。闇夜の中足を投げ出し、アトスは屋敷のベランダに居た。
「……アトス」
僕は雑務を終え、ベランダのアトスに後ろから声を掛ける。だが、アトスは返事をしない。
「怒っているのか?」
「……」
こちらは続けて問いかけるが、アトスはまたしても声に反応をしなかった。
「イフット……か」
ほどなく、アトスが呟く。その姿は酷く、悲しみに暮れていた。
「アトス?」
「んぐ、な、なんだ?」
そこでもう一度問いかけると、やっとアトスは気付いたようだった。
「何か……疲れてるのかい?」
「いや、そうではない。個人的に色々思う事があっただけだ」
アトスは難しい顔をすると、もう部屋に戻ると言いそそくさと帰って行った。
「アトス……」
僕はその背中に、何も声を掛けてあげる事が出来なかった。
何かを内緒にしている事は分かったが、僕には、何もできなかった。
翌日出勤すると、調子の悪そうなミクモが職場のデスクに伏せっていた。
彼の大きな背中が何故か今日は、一回り小さく見える。
「ミクモ、大丈夫か?」
僕は少し心配になり尋ねる。
「……えぇ、大丈夫ですよ」
顔を上げると、血走った目をしている。これは恐らく、昨日も寝ずに頑張っていたのだろう。
「ミクモ、まだ治っていないならば休んでいても……」
「大丈夫だと、言ってるんです……!」
強い口調での、拒絶。
あまりに見たことの無い表情に、僕は驚いた。
「……すみません、頭を冷やして参ります」
だがミクモは不機嫌そうに言うと、そのまま部屋から出て行こうとする。
「止まれ」
アトスが奴の肩を掴むが、
「俺は怒っているのだ。貴様だけがいつも正しいと思うなよ。こちらにも事情があるという事を忘れるな」
ミクモはアトスにムキになって言うと、振り払うように出て行った。
「ミクモ……」
「……どうする、俺が後を付けるか?」
アトスがそこで、提案してくる。
「……頼むよ」
僕は頭を下げると、懐から簡易的なパスカードを渡す。
「これは?」
戸惑うというより何なのか分からないといった様子で首を傾げるアトス。
「特命任務中を表明するカードだ。またガイアブレードに絡まれたら見せて逃げるといいさ」
説明すると、アトスはあぁといって頷いてくれた。