エピソード3「デュアル・ゴア」(2)
「ーーさて、それじゃあ行くか」
「そうだね」
本部を他の職員に任せてミラカナ、アトス、ミクモ、は現地に赴く。
アイラは本当に偉い人間なので、こんな下々の殺人現場に出すわけにはいけない。
僕の両サイドを囲むように二人が歩き、なんだか警護されている気分になってくる。
「しかしミラカナ、容疑者が絞れないと言うのはどういう事だ?」
アトスは歩きながらも、そう尋ねた。
「呼び捨てにするな。ミラカナ様だ」
ミクモがアトスを睨むが、
「平民の中には戸籍を登録していない人間も居てね。だから絞り込むにはちょっと骨が折れそうなんだ」
僕はミクモをなだめつつ、そう説明した。
事務所から10数分掛けたところに、やがて現場が見える。
貴族街が近いため死体は残念ながら既に片付けられていたが、血の臭いが現場には立ち込めていた。
「……酷い臭いだ」
ミクモが鼻を曲げる。
ミラカナはそれを聞き、ジョイスもあんな臭いを発する事になったんだろうか、などとやや妙な方向に考えてしまう。
「……魔力の痕跡はないな」
そんな二人の思考を他所に、アトスが地面を少し眺めてからそう断言した。
「魔力?」
そうミクモが尋ねると、
「二人なら分かると思うが……人間離れした怪力、という事で少し心当たりがあったが、この犯人はいわゆる俺のような力を使うものではないと判断できた……それだけだ。俺の力は、空間に残るから立ち寄ったりしたところで行使すると、その後暫くは残存反応が残ってしまいそこを通ったなどと分析されてしまうからな。無闇矢鱈に使う事は出来んのだ。今回もしも俺と同じような使い手が犯人だったらばと危惧したが……どうやら違うらしい」
アトスはそう言ってきた。
「そうか……では、少し聞き取りをしてみるか。あ、そこの方すみません」
ミラカナは頭を抱え、近くでモップを持って後始末をしている衛兵を呼び止める。
「へい、なんです……ってこれはミラカナ様にミクモ様、失礼しました」
衛兵は直ちに直る。
「なんだ、お前も偉いのか?」
アトスはミクモに疑いの目を向ける。
「剣術関係で名が知れているだけだ、私自身は忠勤に励むただの一兵士に過ぎん」
そんなアトスを鬱陶しいとばかりにミクモは一蹴した。
「あー、ちょっと聞き取りをしたいと思うが。君は昨日、ここの勤務をしていたのかね?」
「ええ、ただ私は昨日は午前勤務でして、昼過ぎにここで亡くなられた方との交代をしたのですよ。……もしも何かの運の間違いがあれば私も此処の方と同じような目になっていたのかと思うと、震えがきますね」
衛兵はそう話しながらも、モップを指差してみせる。
「成程、それは御身が無事で良かったと同時にひやりとくるな。ところで、亡くなられた方達は、どういう方だったかね?」
ミクモは次の質問を続ける。
「んえ、結構仲間内でグループを組む方で、上昇志向は強い方でしたね。お給金に不満がややあったとかそんな話は聞いておりますが……あぁ、あまり気にしないで下さい、私自身は生活出来ておりますので」
衛兵は思い出すようにして語った。
「成程、そうか。労働環境の改善には少し声をまわそう。他に当時ここの近くの配置についていたものは分かるか?」
「詰め所の方に昨日のシフトはあると思います、週の頭に次の週の末まで出るので、恐らく期待している情報はでているかと思われます」
「ーーありがとう」
ミクモは礼を言うと、近くの床を眺めているアトスを見る。
「何をやっている、アトス」
「いや、この石作りのタイルの床がな。何か高いところから物が降って来たような跡がついているんだよ。落下物というかーー」
「落下?」
ミクモは周囲を見上げる。だが、ここに何かが落ちてくるなどということは考えられそうにも無い。
「馬車から荷物を落とした、とか大砲の誤射とかで練習弾が降って来た、とかいうならば別だが、見る限り新しい傷なのでな。少し気になっただけだ」
アトスの言葉を聞いた後、ミクモは僕に声を掛けてくる。
「ミラカナ様、取り急ぎ詰め所を見てみませんか?」
「そうだね、そうしようか。……アトス、そこは後で調査しよう」
僕はミクモに同意し、アトスに声を掛けた。
「取り急ぎは異存無い」
アトスは何か引っかかるようだったが、頷いてくれた。




