エピソード1『3つ目のバトンタッチ』(9)
ーー業務を全て終えた後も、アトスは図鑑に見入っていた。
「……好きなんですか? そういうの」
僕は尋ねる。疑問に思ったーーというよりも、そのアトスの真剣さの理由に何か興味以上のものを推察出来たからだ。
「ん?」
「いや、少しだけ気になりましてね」
そう尋ねると、
「この新しい環境には興味はあるし、回りを知りたいって気持ちはあるさ。……少しはな。というより、自分が君くらいの時はまだまだ世間知らずでね。だから色々リベンジしていきたいと思っただけさ。何かを覚えるのに遅いなんてことは無いからね」
落ち着いた声でそう帰ってくる。
「……差し支えなければ、元の世界では何を?」
僕は疑問に思い訊いてみる。
だが、ーー少しの沈黙の後。
「……すまんが、それは出来んな。まだ何も、いえない」
アトスの表情は、曇った。
「……すみません」
「別にいい。君が気にする事ではない」
そのまま告げ、顔をあげるとこちらの仕事が終わった事に気付いたようだ。
「あぁ、こちらこそすまんな。もう、仕事は終わったのか?」
「はい。これから食堂に行くんですがどうですか?」
「悪くない。一緒しよう」
アトスは目を、少しだけ細めた。