13.
反論しようとしたが、いつの間にか、先輩の顔がすぐ目の前にあって驚く。しゃがんで視線の高さを合わせ、腫れた頬にハンカチを当ててくれているのだ。
先輩にそこまでさせて申し訳ないが、ちょうど良いチャンスだ。私はハンカチを持った先輩の手の上に自分のそれを重ね、しっかりと頬に押しつけた。
「み、三澄さん……!?」
「ところで、話は変わりますが、先輩は、なぜここに?」
強引に話をそらすと、亜樹先輩は顔をこわばらせた。身を引いて離れようとしたのを、手に力を入れることで阻む。
「今日は、巡回はお休みでしたよね?」
「そっ……、それは、明日で最後だから、下見っていうか……、じゃなくて! ちちち、近いから! は、離してくれないかな!?」
「――バスケ部の説得は、あなたが行ったんですね」
今度はその顔がさっと青ざめた。ほんの一瞬、視線を自分の制服に走らせる。
――私のものとは違う、濃い緑色の制服に。
「こっ、……これは……」
「私が間抜けでした。考えれば……、いえ、考えるまでもなく、わかることだったのに」
最初から違和感はあったのだ。
なぜ、現地集合なのか。向かう先が同じなら、学校から一緒に行けばいいではないか。
その謎が解けたのは、先ほどの会議の後だ。
各部の真意を確認するため、私は心当たりの部を回った。もちろん、空手部もだ。今日は巡回のない日だから、特に理由がなければ、亜樹先輩も部活をしているはずだった。
それなのに、道場に姿が見当たらない。だから、そこの部長に先輩の所在を聞いてみたのだ。
彼は言った。そういう名前の知り合いは確かにいる。だがそれは、常磐高校の空手部部長だと。
常盤高校は、群青高校の隣にある高校だ。巡回場所は、その通学路になっているはず。
だから現地集合だったのだ。亜樹先輩は、群青高校を経由するより直接向かった方がはやい。それに、会長にしても、他校の生徒をその一存で校舎内にいれるわけにはいかなかったのだ。
「――ごめん! 本当にごめん! 明日にはちゃんと話そうと思ってたんだ」
私が手を離すと、亜樹先輩は立ち上がって頭を下げた。
「なんというか、俺も、最初はこんな本格的に騙すつもりじゃなくて、ちょっとしたきっかけを作ってもらうだけのつもりで……!」
「? よくわかりませんが、先輩は頼まれただけでしょう。会長はフェミニストですから、一応女である私の護衛役として、腕の立つ人が必要だった。だから、あなたに押しつけた。そういうことではないのですか?」
「あ、いや、それは……」
先輩は困ったように口ごもった。会長から口止めされているのかもしれないが、散々騙されたのだ。追及の手を緩めるつもりはない。
「同じように、ただ兄弟だからという理由で、葉琉先輩の説得も任されたんでしょう? 幼なじみだからってそこまでするんですか? なにか、弱みでも握られているのでは?」
「……いや、三澄さん、違うんだ。これは、交換条件だったんだよ」
突如、強い口調で、先輩が話を遮った。
「……え?」
「もともと、俺が一城に頼んだんだ。君に会う方法がないかって。その機会をつくってもらう代わりに、葉琉の説得を頼まれた。あいつ、昔から俺の言うことなら割ときくから」
私は呆然とする。先輩が私に会いたかった? 意味が分からない。




