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七十三 早速連絡

 柴犬が、魔物達の群れの中から抜け出ると、猛烈な勢いで魔物達の追跡を振り切り、町中一の傍に来て、これまた猛烈な勢いで、自分を見捨てた事に対して猛抗議を始めた。


「まあまあ。そんなに怒らないでさ。あいつらだって悪気があったわけじゃない。一緒に飯を食おうなんて、気の良い奴らじゃないか」


 ギャンギャンと捲し立てる柴犬を、宥めようと、町中一は柴犬の頭を撫で撫でする。


「そんなふうにすれば許されると思ってるなら大間違いなんだわん。そう簡単には許さないんだわん。わわわわ〜ん。わ〜ん。もっと〜、そうわん。そこそこわん。そこなんだわ〜ん。もうしょうがない主様なんだわん。許しちゃうんだわんんんん」


 あっという間に、柴犬が、町中一の撫で撫でによって、籠絡されてしまう。


「ふんっ。チョロい奴め」


「え? わん? 今、何か、聞えたような?」


「どした〜? 柴犬? 語尾語尾。語尾忘れている。俺は何も言っていないぞ〜?」


 おっと折角機嫌が直ったのにこれはいけない。などと思った町中一は、咄嗟にそう切り返し撫で撫で圧を強めた。


「いつになく撫で撫で圧が、強いんだわん。そんなふうにされたら、これはこれは」


 柴犬が、じょぼぼーと、嬉しょんをしてしまう。


「勝った(完)」


 町中一は手を止め、快楽の余韻に浸っている柴犬の、恍惚とした表情を見つめた。

 

「うん? なんだ? 携帯か? 携帯が鳴っているのか?」


 柴犬を見つめていると、町中一の持っている、あの兵士との連絡用の携帯電話が、鳴り出した。


「むぅぅぅわん。主様ったらもう~わん。もっと撫で撫でするんだわんんんん」


 柴犬が、撫で撫でを要求して来たので、町中一は電話に出ながら、柴犬の頭を撫で撫でする。


「おお。出てくれたか。早速で悪いんだが、近くにある村に帰る途中で、魔物との戦闘になってるんだ。今すぐに来てくれないか?」


「分かった。どんな状況かをカメラで撮って見せてくれ。それでここから魔法を使う」


「いや、それは困る。こっちに来てくれないか?」


「主様。どうしたんだわん?」


「兵士さんから連絡でこっちに来て欲しいって言われているんだが、魔法はここでも使えるだろう? それで映像を見せてくれていったら、どうしても来て欲しいって言われて」


「それは早く行ってあげた方が良いんだわん。何かあったら大変なんだわん」


「でも、行って、魔法を使った方が、目立ってしまって、大変な事になったりしないか?」


「主様。ここにいたらいたで、また、あの魔物達の相手を、しなければならないかも知れないんだわん。今なら、食事に夢中になってるから、チャンスなんだわん」


 町中一は、魔物達の方に目を向ける。


「むぅん。確かにそうかも知れない。食欲が満たされた時に、俺達がいなければ、俺達の事もあっさりと諦めて、家に帰るかも知れないな」


「そうなんだわん。だから、ここは、逃げるついでに、ちょろっと顔を出してやれば良いんだわん」


 町中一は、柴犬の方に顔を向け、頷いてから、信用できる兵士に今から行く。と伝えて、電話を切ってから、すぐに魔法を使った。


「お、おお? もう来たのか?」


「ああ。魔法を使ったからな」


 町中一は、驚いている信用できる兵士に言葉を返し、周囲の状況を確認する為に顔を巡らせた。


「あれ? 戦闘は? それに、あんたしか、いないようだけど」


「それが、本当に、すまない」


 信用できる兵士が、唐突に、深く深く頭を下げる。


「ふふふふ。私が呼ばせたのだ。彼を責めてはいけない。隊長命令は絶対だからな。それで、君が、大魔法使いの」


 信用できる兵士の背後から、ふっと姿を現した至極際どい感じのビキニアーマーを身に着けている、子供になっている町中一からしたら、巨漢としか言いようのない体躯をしていて、褐色肌で、やけに長い耳が印象的な女性が、町中一を見て、意味深な笑みを顔に浮かべた。


「隊長。ふふふふ。じゃないですよ。こんなふうに、彼を騙すような事をしてしまって。隊長も謝って下さい」


「それよりも、スマック。名前は? この大魔法使い君の名前は、なんて言うんだ?」


「名前? ですか?」


「そういえば、名乗っていなかったっけ?」


「ああ。この頭のかわいそうな生き物が、君を呼ぶ時の、主様という呼称しか聞いてないかな?」


 珍しく大人しくしていた柴犬が、頭のかわいそうな生き物なんかじゃないやいわん。と抗議の声を上げたが、信用できる兵士、改め、スマックが頭を撫で撫でしたので、すぐに、上機嫌になって、地面の上に横になって腹を見せ始める。


「そうか。じゃあ、名乗ろう。俺の名前は、町中一」


 町中一は、言ってから、おやおや? この隊長、これは、げへへへへへ。良く見れば、かなりの美人さんじゃないか。それに、これは、まさか、エルフなのか? しかも、この褐色の肌。妖精女王も褐色肌だったけど、あれは妖精女王というジャンルだからなあ。こっちのは、ダークエルフだよな? そういえば、ダークエルフって、初めて見たんじゃないか? と思った。


「町中一? 聞いた事のない響きの名前だ。この国の出身ではないのか?」


「ああ。ちょっと、遠くから来た」


「そうか。まあ、そんな事はどうでも良い」


 隊長が、両手を町中一に向かって、伸ばして来る。


「お? なんだ?」


 町中一は、後ろに、すっと、下がってしまった。


「逃げないでくれ。お礼だ。お礼。男だったら、私に触れられたいと思うだろう? おっと。その前に、私も名乗らないとな。王都辺境警備隊第四十九番隊隊長のガゴルだ。よろしくな」


 ガゴルが、言い終えると同時に、素早く動き、町中一の右頬を、町中一の目玉が飛び出る位の勢いで引っ叩いた。

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