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百九十 世界反転 その十五

 町中一は、竜子の事など、まったく忘れて、ななさんに向かって片方の手を伸ばし、もう片方の手を柴犬に向かって伸ばして、それから、涙を目に一杯に溜めながら、その手に吸い寄せられるように、近寄って来てくれた、ななさんと柴犬を、これでもかと強く抱き締めた。


「あんたん? どうしたのよぉん?」


 ななさんが、照れ臭そうに、くすぐったそうに言う。


「主様? なんだわん? 柴犬に会えたのがそんなに嬉しいだわん? でも、この駄ラケットと一緒の扱いっていうのは許せないんだわんよ」


 柴犬が、尻尾を今まで以上にぶんぶんと振った。


「このバカ柴犬。なんで電話に出なかったんだ? 本当に心配したんだぞ」


「かけたのかわん? 鳴ってたのに、全然気が付かなかったわん。こんな事になってて、こっちもこっちで大変だったわんよ」


「そうか。そうだよな。ごめんな」


 町中一は、柴犬の言葉を聞いて、ななさんと柴犬は平気だったみたいだけど、他の皆は死んでしまっているんだもんな。そうなるよなと思う。


「ごめん。俺の所為だ。他の皆を生き返らせる事も、できないんだ」


「どういう事よぉん?」


「今、ななさんが、殴ってくれた、そこの竜子、こいつは、龍の姫の魔王なんだが、こいつとの魔法での戦いで、やられてしまったんだ」


「女神様はわん? 女神様に頼めば全部解決じゃないのかわん?」


 町中一は、二人を抱いていた手を緩めて、二人から離れるように、少し、後ろにさがると交互に二人を見た。


「女神様でもどうにもならないらしい」


「そうなのぉん。それは、ちょっとヘヴィねぇん」


「これと、駄ラケットは平気だったのにわん。皆はなんで駄目だったわん?」


「それは分からない。どうして平気だったのか。それが分かれば」


 町中一は、そこまで言って、二人は、実は、元々、生きていないからとかか? ななさんは言わずもがなだし、柴犬は、こんなだけど、俺が魔法で作ったんだったと思った。


「二人とも、聞いても傷付かないで欲しいのだけど、二人は、本当は、生きていないからとかじゃないかと思う。ななさんはラケットが動いているっていう謎の存在だし、柴犬は、俺が魔法で生み出した存在だ」


「そうねぇん。そう言われると、その通りかも知れないって、思えるわねぇん」


「なんだか無理やりっぽいけど、そう言われるとそうなのかも知れないと思えて来るわん。でも、このままだと、いずれは、これ達もこいつにやられてしまうんだわん」


「こうなったらしょうがないから、この竜子っていう魔王を、永遠に目が覚めないように、やっちまうってのはどうぅん? 魔法は駄目でも別の方法で、あんたんにできないのなら、あたくしがやっても良いのよぉん」


 町中一は、ななさんのラケットなボディにそっと手で触れ、優しく撫でるように手を動かした。


「あっあ~ん。あんたん。駄目よぉん。こんな時にぃん。いくら自暴自棄になってるからってぇん。体を求められてもぉん。傷口を舐め合おうなんてぇん。それは駄目よぉん」


 ななさんが身を捩りつつ、おかしな声を上げる。


「全然、そういう事じゃないから。ななさんの気持ちに感動して思わず触っちゃったけど、今は、物凄く後悔しているから」


 町中一は、そんな事を言ってから、ちょっと、このやり取りに、ほっとして、心の中で、ななさん、ありがとうと言った。


「駄ラケット。気持ち悪くくねってる場合じゃないわん。こいつが起きる前に早くやっちまえわん」


「そうねぇん。がつんとやったるでぇん」


 ななさんが、竜子に向かってふよっと飛ぶ


「待った。駄目だ。やっても無駄なんだ。こいつは死なない。だから、今の俺達に打てる手はないんだ」


 町中一は、顔を伏せて、その悔しさや無念さから、両手で拳を作ると、その拳をぎゅっと握った。


「だったら、やっちまうとかじゃなくって、口を動かせないようにするとかはどうわん? 魔法を使うには、主様と同じように言葉にしなきゃ駄目だとしたら、それで物理的に魔法を封じる事ができるんじゃないかわん?」


「柴犬、お前、天才だな」


 そう言った町中一だったが、柴犬の案を取り敢えず採用するとして。けど、それだけじゃ、きっと、一時しのぎにしかならない。何か決定的な何かを思い付かないと……。いや、そうか。そうすれば良い。俺が死ねば良い。魔王と俺の魔法の力は同じような物だったはず。だったら、俺が一度死んで生き返れば、俺だって魔法が使えるはず。そうなれば、竜子も倒せるだろうし、皆の事も、俺さえ、それで良ければ、生き返らせる事ができるんじゃないか? と思った。


 町中一は、すぐに頭の中で、女神様に、女神様ちょっと良いですか? と声をかけてみる。


「一さん。一さんとななさんと柴犬の事だけは、私が守ります。だから、心配しないで下さいね」


「違うんです。女神様。俺を殺して生き返らせてくれませんか? あ。そんな事しないでも、俺の魔法をまた使える様にできませんか?」


「魔王の魔法ですからね。ごめんなさい。封じられた魔法を使えるようにする事はできません。けど、一度殺して生き返らせる事ならできます。でも、そんな事をして、どうするんですか?」


「そうすれば魔法が使えるようになるんじゃないかと思って。この竜子がそうだったのです。だから、それで、使えるようになったら、こいつを、今回ばかりは、他にはどうしようもないと思うので、殺して、もう、生き返らないようにして、それから、皆を、生き返らせます」


「……。一度死ぬと魔法が使えるようになるという事ですか? 魔王を見てると、確かにそうかも知れません。けど、それで、魔法が使えるようになるとして。魔王も倒せたとして。でも、皆を生き返らせるという事は、貴方が何かが失ってしまうという事になるんですよ?」


「女神様。俺は、もう、失っているのです。とてもとても大切な物を。それに、俺が、何かを失っても、皆がいれば、また、同じ物は無理だったとしても、何かしらは、もらえると思うんです」


「一さん」


 女神様が沈黙する。


「女神様。時間がありません。竜子が目覚めてしまったらどうなるか分からない。お願いします」


「分かりました。貴方が、どんな物を失っても、私がその分をどんな事をしても補ってあげます。だから、安心して、魔法を使って下さい」


「女神様。ありがとうございます」


「それでは、一度死んでもらって、生き返らせます」


「お願いします」


 一瞬だけ、意識が途切れたような妙な感覚がして、女神様が、これで、もう魔法が使るんじゃないかと思いますと言ってくれたので、町中一は、改めて女神様にお礼の言葉を述べてから、竜子の姿を視界の中に捉えた。

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