副業:アイドルの魔法少女⑦
「そ、それよ! アンタには大したことなくても、現役アイドルについての情報っていうのが、アタシにとっては喉から手が出るほど欲しい知識なの! 何でも構わないから教えて! 教えなさい!」
「え~……」
やけに食い下がるなこの人……改めて思案してみる。
ルナちゃんのライブには間に合わないとはいえ、この世界に長居する気もない。
ライブが過ぎてもルナちゃんの活動は続くのだ。ならば俺は可能な限りそれを追い、陰ながら応援し続けるのみ。そう考えれば、やはり火急での帰還がミッションであることは揺らがないな。
「んー、やっぱムリ」
「そこを何とか! そ、そうだわ。魔晶鋼、持ってるでしょ!? アタシにアイドル教えてくれたら秘蔵の素材使った武器作ってあげるわよ! どう!?」
「それさっき王様が言おうとしてたやつ」
逆に突っぱねたほうが立場悪くなるのでは。いやまあ、別に罰しろとか言うつもりないけどさ。
もともとそこまで必要としていなかったし、大事な時間を引き換えにしてまで欲しいとは思わない。
ディアナに目配せする。こくり、と頷く様子に、彼女もこれ以上ここにいないほうが良いと感じていると理解する。
そう、ベロニカの魔晶回収は荒天島の嵐が晴れるまで後回しにして、その間に他の特異点を回ることだってできるのだ。一ヶ所に縛られることは望ましくない。
エーテルリンクの人間であるアイリスが、どうしてアイドルを知っているのか……そのことは気になったが、今後のことを考えると、やはり彼女の希望には答えられない。
雑多に物が散乱している床に手をついて立ち上がり、アイリスの背にある部屋の扉に向かおうとする。
「悪いけど、その話は聞かなかったことに――」
「――わかった。とっておきの秘密を教えるわ」
「え?」
扉に手をかけた俺の背に、トーンを落としたアイリスの声がかかる。
今までの焦りようから一変した声音に振り向くと、金髪の少女はローブについたフードを被り、よりいっそう声を潜めた。
「アンタ、今すぐに魔晶を回収して、次の特異点に行きたいんでしょ?」
「……何で知ってるんだ?」
「頭の上で大声で叫ばれたら嫌でも聞こえるわよ」
再び眉を顰める俺に、アイリスは細い指先を天井に向ける。
あー、あの時の叫び聞こえてたのか……ここ真下だもんな。そりゃ聞こえるよな。
「……すぐにでも荒天島に行けるって言ったら、そのための方法をアタシだけが知ってるって言ったら、どうする?」
数刻前の自身の暴走に恥ずかしくなり、つい乾いた笑いを漏らした俺を、アイリスの一言が一瞬で正気に戻した。




