副業:アイドルの魔法少女④
アイリスと呼ばれた金髪の少女は、噴水広場で見かけたようなアイドル衣装ではなく、魔術師然としたローブに身を包んでいた。アイドルを自称するプライドゆえだろうか、裾や袖に小さな星の刺繍が入っており、細かい飾りっ気が見え隠れしている。
「おお、アイリス。こちらが此度の召喚者の――のわっ!?」
「んなっ!?」
ベロニカ王が俺たちを紹介しかけていた矢先、王を突き飛ばしてアイリスが俺に詰め寄ってきた。
あまりに突然のことで、あたかも一瞬で俺の鼻先に瞬間移動してきたかのように感じるほどだ。
何故だか顔を伏せており、俺の身長がアイリスより若干高いせいもあって、彼女の表情は見えない。
「マスター! お下がり下さい!」
慌てて俺とアイリスの間に、ディアナが割って入ろうとする。
背後にいたディアナが丁度俺の横に並ぶように踏み出した瞬間、ぬるり、と音も無く伸びてきた金髪の少女の細腕が、俺たち二人の肩をかき抱いた。
あの、肩痛ってぇんですけど。あだだだだ骨がきしむ音がギリギリ聞こえてくる! 握力どんだけなのこの人!
左肩の苦痛に表情を歪める俺を、顔を上げた眼前の少女の、鋭くも透き通った蒼眼が見据える。
「……アンタ、今、『アイドル』って言ったわね」
「なん、だって?」
アイリスは俺の問いかけに応えることなく、突き飛ばされて廊下にへたり込んでいた王へと声を投げかけた。
「王様! この二人、ちょっとお借りしますねー!」
言うが早いか、バックステップで俺とディアナを強引に自室へと引っ張り込む。
俺も瘦せっぽちだし、ディアナも小柄だけど、それでも人二人を有無を言わさず引きずり込むってヤバいだろコイツ!?
ジェットコースターよろしく俺とディアナを連れ込んだアイリスは、室内に踏み込むや否やその場で反転し、俺とディアナを部屋の奥へと投げ出した。勢いよくほっぽり出された俺たちは、分厚い魔導書と思われる書物や、使いどころのわからない植物なんかが散乱する床に倒れ込む。
「ま、待ちなさいアイリス――」
俺たちと扉とを隔てて屹立する金髪の少女は、極めて滑らかな動作で扉を閉め、内側から錠を下ろした。
目の前で、慌てふためいたベロニカ王の顔が、無情にも木製の扉の向こうに消えていく。
「この世界では珍しい黒髪黒目。見慣れない服装。連れ歩く獣耳の少女、響心魔装……アンタ、チキュウから召喚されてきた奴ね」
俺を召喚者と判断する要素を淡々と述べた少女は、つかつかと足音高く歩み寄り、反らせた胸に手を当てて、こう告げた。
「アンタ、アタシに『アイドル』を教えなさい!」
「……はいぃ?」




