星との出会い③
夕焼けの赤に真っ赤に染まる海の向こうに、黒々とそびえる荒天島の嵐が見える。
思わず俺は唇を噛み締めた。
独りよがりの突貫だったとはいえ、あの嵐を相手取った攻防は今の俺にできる最大限だった。切れる手札はすべて切ったはずだが……結果は完全敗北としか言いようのないものだ。
今の俺に、あの嵐を突破できる方法は、無い。
それはすなわち――何を差し置いても優先すべき命題であった、ルナちゃんのライブを、諦めざるを得ないということだ。
水平線に轟々とそそり立つ嵐の壁を見ると、否応なしにその事実を突きつけられる。
先ほどのディアナへのデリカシー皆無だった自分への溜め息に合わせ、気持ち大きめの嘆息を漏らした。
そんな俺の様子が気にかかったのか、荒天島をぼんやりと見つめる俺の背中に、そろそろ聞き慣れつつある、鈴を転がすような相棒の声が投げかけられた。
「あの、マスター。よろしければ、お伺いしたいことがあるのですが」
もうこちらを向いて頂いて大丈夫ですので、と続ける銀白の少女に、ギクシャクしながら向き直る。
俺のブレザーにすっぽりと包まれ、露出面については安心と判断したらしいディアナが、神妙な面持ちを湛えていた。
「なんだ? 改まって」
「蒸し返すようで申し訳ないのですが……先の無謀な突撃について、です」
あ、やっぱり無謀と分かっていたのね。
それでも付き合ってくれてありがとうっていうかごめんなさいっていうか。
言葉には出さず、胸中で感謝三割、謝罪七割の独り言を漏らしながら、相棒の言葉を待つ。
「トレイユの特異点での振る舞いからも感じていたことではあるのです。マスターは、白風瑠奈嬢のライブ参加のために、いち早く魔晶回収を完遂したい……その事情は先日お聞きしていました」
無言で頷く。彼女の言うとおりだ。胡散臭いクソイケメン魔術師ことサンファが並べる言葉のように、発言の裏を読む必要もない。一字一句文字通り。
俺は、約一か月後に――正確には二十五日後に――迫る彼女のライブに現地参戦するべく、可能な限り最短での魔晶回収を目指している。
「正直に申し上げます。チキュウの一般的な教養や知識を教え込まれる響心魔装たる私からしても、『アイドルのライブへの参加』というものが、自身の命を賭けてまで成すべきことであるとは、とても思えません」
どうして、あなたはそこまでするのですか?
ディアナの問いと、真っ直ぐに俺を射抜く視線に、言葉が詰まった。
腕を組み、目を伏せて通算三度目の溜め息を吐き出す。




