異世界特有のご都合環境⑥
少女のダンスパフォーマンスは、ルナちゃんのMVを見慣れたこの俺でさえも目が離せないくらいに洗練されていた。
鋭く激しいステップで気分が高揚したかと思えば、優美で艶やかな振り付けで一瞬にして魅了される。何の演出効果も無いサラの踊りのハズなのに、彼女の背後に光り輝くビームライトやスモークを空目してしまいそうになる。
武道館で繰り広げられているかの如き臨場感を感じさせる技術……いったいどれほどのレッスンをこなせば身につくのか、想像もつかない。
少女の、下手したら公害レベルにまで認定されそうな歌声も、全く気にならないほどに惹き付けられそうなダンスだった。
彼女は清濁織り交ざったパフォーマンスを、惜しげもなく五分ほど披露した。
歌い終えた少女は、額に流れる汗を手の甲で爽やかに拭い、溢れんばかりの笑顔を浮かべる。
「ふぅーっ、みんなありがとー!」
当初はその歌声に不快感しか感じなかったが、あれだけのダンスを見せてもらった以上、彼女の演技の素晴らしさを讃えないわけにはいかないな……そう思い、少女の二度目のMCに合わせて拍手を送ろうとした時だった。
「やっぱりみんなの前で歌えるのってサイコーだね――」
「コラー!! またお前か!」
少女が言い終わらないうちに、王城に続く通りから、怒声を上げて大勢の兵士が駆け寄ってきた。どうやら、避難していた市民の誰かが詰所の兵士に通報したらしい。
その様子を見た金髪の少女は、あわただしそうに手荷物をまとめ始めた。
「ち、ちょっと早いけど、今日の舞台はこの辺で! それじゃあみんな、また明日ね――――!」
足元に置いていたタオルや飲料水などの荷物を、慣れた様子でまとめ終えた少女は、海がある方の通りへ向かって全速力で駆けだし、あっという間に姿が見えなくなった。
足速ぇな……月神舞踏状態の俺たちに匹敵するぞアレ。
「逃げたぞ! 追えー!」
彼女の後を追い、相当数の兵士たちが広場を駆け抜けて行く。かなりの人数ではあるが、いかんせん走る速度が少女と比べ物にならない。兵士たちが視界から消えたのは、少女が広場を去ってからしばらくしてからだった。
許可なしのゲリラライブだったってことなのかな? まあ確かにあの歌声は、聞くだけなら害しかないと断ずるに充分な破壊力だったけど……
「……はっ。マスター、ベロニカ城へ向かう途中だったのでは」
「あっ」
いっけね。すっかり忘れてた!
自身も先刻まで忘れ去っていたらしいディアナの言葉に、改めて俺たちはベロニカの王城を目指すのだった。




