異世界特有のご都合環境④
のどかな風景に不相応な大声が聞こえてきたのは、広場中央に据えられた噴水の方角からだ。
見ると、金髪の少女が一人、噴水の前で大きく手を振っていた。遠目にもわかるほど容姿の整った少女だ。
年齢は俺と同じくらいだろうか。サイドテールにまとめられた金髪が、陽の光を反射してきらめいている。きりりとした形の良い眉が気の強そうな印象を与えてくるが、青空のように透き通った蒼の瞳と、満面の笑顔がその印象をどこか薄れさせる。
中世ファンタジー風な服装ばかりのこの世界の人には珍しく、ギンガムチェックのミニスカ制服がモチーフと見える衣服に身を包んでいた。肩や腹部が露出した意匠で、遠目にも少女のスタイルの良さが窺える。
金髪の少女は今なお手を振りながら笑顔を振りまいていたが、特定の誰かに向けてという風には見えない。先ほどの発言と合わせて考えると、この広場にいる人間すべてに向けて声をかけていたように思える。
その様子はまるで――
「ベロニカのみんな、お待たせっ! 今日もアイリスちゃんの舞台が始まるよー!」
右手で作ったピースサインを頬に寄せ、器用にウィンクをしてのけた少女の姿は、『ライブ中にMCを進めるアイドル』そのものだ。
そんな馬鹿な。この世界にはアイドルは存在しないはずだ。MCやライブ衣装なんて、その名称どころか、存在すら認知されていないはずなのに。
彼女はまさか、俺と同じく向こうの世界から召喚されてきた人間なのか……?
そんな俺の思考を読んだかのように、背後から冷静な声がかけられた。
「マスター。彼女はエーテルリンク人です」
「わ、わかるのか、ディアナ?」
「はい。マスターも目を凝らせばわかるはずです」
「んん……?」
ディアナの言葉に従い、街頭の人々に向けて一人喋り続ける少女に視線を集中する。
すると、魔素が彼女を取り巻いているのが見えるではないか。よく見れば少女だけではない。広場にいた人々すべてを、うっすらと魔素が取り巻いているのが見える。
魔素は呼吸と共に彼らの体に吸収され、微量が空気のように再び排出されていた。そのたび、魔素を取り込んだ人間に若干の魔力が溜まるのがわかる。
つまり……魔素を取り込んで魔力を持つ少女は、俺のような異世界人じゃなく、この世界の人間ってことか。




