二度あったことを三度はさせない⑤
「……よく知ってるね。で、ではこれは知っていたかな!? ここから最も近い特異点がある国、ベロニカへの道程についてだけれども――」
「知ってる。峻険な山々を登って下る登山道なんだろ」
これもディアナに聞いた。
次に向かうべき特異点の管理国ベロニカは、直線距離で見ればトレイユとはほど近く、仮に地形などを一切考慮しない一直線での距離であれば、幼い子供の足でも三日と経たず踏破できるらしい。
しかし、二国の間には先日俺が登頂した特異点の霊山級の山々が軒を連ね、あたかも壁の如く両者を分断しているのだという。当然魔物も出現するため、安全なルートを算出して万全の準備で臨んでも、ベロニカに到着するのは徒歩で十日は見た方がよいとディアナは言っていた。
「……ホントよく知ってるね。だがしかし、これはさすがに知らないだろう!? 君たち召喚者をわざわざ呼び招き、特異点に向かってもらう理由だけどね――」
「知ってる。心素ってやつが必要なんだろ」
例によってディアナに聞いた。
先の首長竜との戦闘時、ディアナがその身を剣と化した際に呟いていた、心素という名の謎エネルギー。
これは要するに、『これと決めたことを貫き通す意志』のことだそうだ。
言い換えれば意思を指し、つまりはその人間の気持ちや気分のことを言うらしい。
この世界における魔法とは、術者が自身の内に流れる魔素に意思で命令し、自身の魔素と空気中の魔素を干渉させて何らかの事象を起こす、という仕組みらしいが、俺たち地球人には生まれながらに魔素が存在しない。
その代わりと言っては何だが、心素の内臓量がずば抜けているのだとか。
エーテルリンク人は基本的に魔法でなんでもこなしてしまうため、『目標を立てて頑張る!』みたいな意志が総じて弱く、したがって心素の強い人間が少ない。
ここがエーテルリンク人の小ズルいところなのだが……
① 膨大な心素を持つ地球人の中でもとりわけ心素の強い人間を選んで召喚。
② その心素の元たる要因は、当然だが地球にある何かである。
③ 君は今異世界にいるので、帰るために魔晶集め頑張ってネ!
④ 元来の心素の要因が『帰還のための魔晶回収』へと切り替わる。
⑤ 魔晶個体も難なく攻略! 世界平和で召喚者も無事帰還! ヤッタネ!
……というすり替えを行っていやがるのだ。




