魔晶個体には魔剣少女④
夕焼けの一番赤いところを切り取ったように鮮烈な、紅の双眸が俺を射抜く。唐突な少女の覚醒に体が膠着する。
つと、少女の薄紅色の唇が小さく動いた。
『――お待ちしておりました。マスター』
……なんだって?
その言葉に、ついに俺の身体のびっくり係数がオーバーしたのか、逆に体の硬直が解けた。
俺が首を傾げて彼女の言葉の意味を反芻する間もないまま、またもや唐突にカプセルに異変が起こる。
少女の上下左右にあった複数の噴出口から、濃度の高い煙が噴き出し少女を包み込んだ。彼女の小さな体躯は途端に見えなくなる。
直後、ガコッ! とそこそこ大きな音を立ててカプセルの前面上部が開いた。そのまま正面に――つまりは俺に向かってゆっくりと倒れこんできたので、ひとまず横に退避する。
再度そこそこ大きな音で床に接したカプセル面を足場に、少女が外へと出てきた。
これまたどういう仕組みなのか、煙に包まれた一瞬で衣服を身に着けている。
身体のラインが出る細見の服で、その色は髪や肌とは対照的に漆黒だ。俺にはあまり馴染みのない、近未来スーツ的なデザインの上着とショートパンツ。同じく黒のブーツが、少女が歩くたびにコツコツと音を鳴らす。
こうして馴染みのない衣装を見ると、ルナちゃんの写真集を思い出すな。
普通の制服や私服姿の他に、色々なテーマに合わせた仮装風の衣装を着たこともあったっけ。
ハロウィンやクリスマスなどの定番から、西部劇や海賊といった、運営側の嗜好が時折垣間見えるその写真集の中には、当然SFテーマの衣装もあった。
彼女自身着慣れないだろう宇宙船隊員の服を、ルナちゃんは見事に着こなしていたが、眼前の少女もなかなかどうして似合っているじゃあないか。
この少女は、一見して分かる線の細さだが、それによって細身のシルエットを持つ服が一層映えるのだ。
この服を誂えた奴はわかってんじゃないか。うんうん。
そこでハッとした。なに読者目線で偉そうに脳内レビューしてんだ俺は! 現実逃避か!
胸中で一人ツッコミをする俺を余所に、黒衣に身を包む純白の少女は、俺の正面へ降り立った。その深紅の瞳を伏せ、老練の執事の如く、右手を胸に当てて恭しく頭を垂れる。
その時初めて、彼女の頭上にピコピコ動くケモノ耳――たぶんこれは狐耳――に気付いた。
髪の色と同色だったからか、頭上より下の方に気を取られていたせいか、最初に見たときは気付かなかった。これ本物か? まさか異世界でもコスプレってあるのか? いやでも動いてんぞコレ。
少女は器用にケモノ耳まで伏せ、鈴の鳴るような声で告げる。
「お初にお目にかかります、我が主よ。私は『月の魔導工房』第四世代、ナンバー400。名をディアセレナと申します。この時より幾久しく、貴方のお傍にありますことを」




