魔晶個体には魔剣少女②
蘇った視界が最初に映したのは、床に転がる粉々の槍の姿だった。
ここに来るまで数々の魔物を撃退してくれた雄姿はそこにはない。木製の柄は痛々しさを感じさせるほどにバラバラに砕け、施設にぶつかったのだろうか、穂先は明後日の方向にひしゃげてしまっていた。
あの兵士さんには悪いことしちまったな……心の中で槍を貸してくれた兵士への謝罪と、借り物ながら頼もしく活躍してくれた武器への感謝を告げる。
その次に目に入ったのは、数々の機械類だった。
一昔前の悪の組織が揃えるような、数多くのランプやツマミをくっつけた箱が、大小問わずひしめき合っている。奥の壁にはモニターらしきものが壁に据えられているが、ビームが直撃したのか、半分が破損して失われていた。
それらの機械には、必須のはずのコンセントのコードが一切見当たらなかった。
その機器類のどれもが水浸しで、ビームの影響か老化のためか、今は稼働していないと思えるものばかりだった。
しかし、一部の機器はまだかすかにランプを点滅させているものもあった。
そこで俺はようやく思い当たった。ここは、あの開かなかった三階の部屋の中ではないか、と。
今は聞こえないが、あの電子音はこいつらが発していたものじゃないかと。
右手を膝に付き、覚束ない足を踏ん張って立ち上がる。壁の外を警戒しながら、まだわずかな明滅を繰り返す装置の一つに近づき、あちこちいじってみた。
想像していた通りのものだ。
コードがないのにまだランプが光っているのは、これが魔素で動く魔動機器とでも言うべきものだからだ。注視すると、ほんの薄ぼんやりと、機器を魔素が覆っているのがわかる。
「いったい誰が、何のためにこんなもの……」
階下にあったカルテらしき資料のこともある。これはこちらの世界での医療機器で、やはりここは病院かそれに類する施設なのか? とするなら放置されている意味も、こんな山中に建てる意味も、更にはビル風の構造で建てる意味も分からないが……
いや待てよ。この部屋鍵かかってたよな。他の部屋は開いてたのに。
ってことは、放置と言うより、閉鎖?
この部屋には、閉鎖するほどの何かがある?
言い知れぬ不安感がよぎり、思わず部屋の奥を睨んだ。大破したモニターのある壁。その横に空いた穴から覗く木々の枝葉。床に散乱する瓦礫と動かない魔法装置。
そして、装置の陰に淡く滲むおぼろげな光。
目を見開いた。
そして唐突に理解した。アレがこの部屋の『何か』だ。




