未来からのバックハンドブロウ 第一話 第二次ミッドウエイ空襲隊
開け放した風防から眼下に見る三角の形をした小さな島は、至る所から立ち上る黒煙に覆われその全体像を捉え難かった。
一航艦ミッドウエイ空襲隊指揮官を務める海軍大尉友永丈市は、その秀麗な顏を僅かに歪めた。
『飛行場の機能を奪うまでには至らなかったか。
米軍航空部隊の地上撃破も果たせなかった。
この状況の放置は禍根を残すことになりかねない』
米軍の迎撃を受け友永機の無線機は、被弾による損傷で使用不能となっていた。
友永は小型のボードに記した略号で指揮官判断を僚機伝え、同機の無線を中継して艦隊に連絡を送った。
《第2波空襲部隊による追加攻撃でミッドウエイ飛行場はほぼ無力化できるものと考えられる》
ミッドウエイ空襲隊からの報告は現地時間午前7:00に一航艦司令部の手に届いた。
空襲部隊からの報告を受けた時点で、一航艦各艦はミッドウエイ航空隊による断続的な空襲に曝されていた。
戦闘機部隊による迎撃と各空母の回避運動が功を奏し艦隊に被害は出ていないものの、対艦攻撃装備のまま飛行甲板に翼を並べる搭載機の列線は、累卵の危うきを具現化するが如き様となっていた。
一航艦が展開する海域の上空は暗灰色の低い雲が空の過半を占め、艦隊に向かう敵機の察知を難しくしていた。
冗長で効果を得ない米軍航空部隊による断続的な空襲が続く中、午前8:00頃になって一航艦司令部は索敵機利根4号機から10隻の米艦隊らしきものを発見との報告を受ける。
攻撃を終えたミッドウエイ空襲隊が一航艦の上空に戻ってきたのはちょうどその時間帯だった。
《ミッドウエイ島の航空戦力は2次に亘る日本軍の航空攻撃により保有機の大半を喪失、更に滑走路は補修用機材と人員に大損害を受け当日中の運用は不能》
ミッドウエイ島と真珠湾を結ぶ海底ケーブル経由で太平洋艦隊司令部から送られてきたミッドウエイ守備隊からの状況報告を受け、第16任務部隊指揮官レイモンド・スプルーアンス少将は顔を顰める。
『ミッドウエイの戦力は充てに出来なくなったか。
もっともミッドウエイ航空隊の攻撃には大して期待していなかったからまあそこはいい。
日本軍がミッドウエイに2次攻撃を加えたぶん、こちらへ向ける戦力が薄くなることの方が今後の戦況に与える影響は大きいだろう。
第16任務部隊と第17任務部隊の2個機動部隊で編成された艦隊は、3隻の空母から152機の攻撃隊をすでに日本艦隊に向け発艦させている。
日本軍の偵察機によってこちらの所在も敵に掴まれている。
これから起きる日米機動部隊による直接対決はこの戦争の帰趨を決めるものとなるだろう。
勝機は我が方に傾いている』
スプルーアンスはそこで戦況の分析から一旦離れ、日本艦隊に向かっていく攻撃部隊を見送りその健闘を祈った。
友永大尉が率いる一航艦第三次攻撃隊は、米軍急降下爆撃の攻撃からの回避運動のため大きく隊列を乱している艦隊に後ろ髪を引かれながらも、米機動部隊に向けて進路を向ける。
大尉の乗機はミッドウエイ上空での戦闘で損傷して戦力外となったため、補用機を急遽整備した新たに用意された機体となっていた。
ミッドウエイの戦闘では米戦闘機の迎撃と対空砲火により未帰還機数機を含む多数の損害を生じており、大尉が直率する飛龍艦攻中隊は定数の半分の9機にまで減少していた。
米軍機の攻撃が続く中で続けられた発艦作業のため、中隊単位での編隊が取れた飛行部隊は少なく、攻撃隊の多くは小隊編制がやっとという有様だった。
会敵を急ぐ攻撃部隊は編隊を組み直すことなく、機種がバラバラの小編隊が纏まりなく連なる群れとなって進撃する。
相変わらず雲は低い位置に重く張り出し、途切れ途切れに現れる海面は青黒くうねっていた。
第17任務部隊の上空から日本軍の攻撃部隊が姿を消して1時間ほどの時間が過ぎていた。
飛行甲板の修理が終わり発着艦が可能となった空母ヨークタウンは、迎撃戦闘により燃料弾薬が尽きかけた戦闘機部隊の収容を急いでいた。
日本軍機との戦闘で損傷を受けた機体は多く、着艦を待てず不時着水したり落下傘降下を選ぶパイロットも少なくなかった。
第17任務部隊の指揮官フランク・J・フレッチャー少将にとって現在の戦況は、想定していたものより遥かに酷い状況となっていた。
『ミッドウエイ島と空母機動部隊の二つの目標を相手に戦わざる得ない日本艦隊に対し、ミッドウエイの航空部隊を楯として戦場と時間を選べる自部隊、我が方は情報戦でも優位に立ち、戦力の集中や被害の分散といった有利な状況の中で戦っていける筈だった。
それが蓋を開けてみればミッドウエイの航空戦力は壊滅、飛行場は破壊され使用不能、そして第16任務部隊は大損害を受け戦力を喪い、我が第17任務部隊も日本軍機の攻撃でヨークタウンが中破している。
我々に向かってきた攻撃隊は練度が低かったのか、艦隊に大きな損害が出ていないのは幸いだったがな。
日本軍に与えた損害は戦果報告通りなら空母4隻を撃沈破となっているが、偵察機からの報告では少なくとも3隻の空母が健在だった。
既に太平洋艦隊司令部からは退却命令が出され、損傷艦も可能な限り持って帰ってこいと言われているが、第16任務部隊の司令部とは連絡が取れず恐らく所属する2隻の空母の生還は望めないだろう。
我々はいったい何を間違えたのか、ミッドウエイを戦場としたこと自体が過ちだったのか。
帰投してくる飛行部隊の収容が終わるまで艦隊は戦場に留まる必要があるが、日本軍がそれを見逃してくれるかどうか甚だ疑わしいな』
現地時間11時15分、一航艦第三次攻撃隊は第16任務部隊と会敵、米空母ヨークタウンは5発の250キロ爆弾と4本の航空魚雷が命中し大破航行不能となり自沈処分された。




