表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

代表者未設定の札は、北塔生活窓口の朝を閉められません

北塔生活窓口の低い五釘は、昨日のまま残っていた。


 ミトの薬確認札、マラの休憩賃金札、ニルの次配送読了札、ミナの半椀鍋番札、テオが打った掲示高さ札。五枚とも、子どもの手で触れる高さに並んでいる。


 なのに、窓口は開かなかった。


 開閉紐だけが、大人の胸の高さで固く結ばれていたからだ。結び目には灰色の札が差し込まれている。


『代表者未設定につき、北塔生活窓口の開扉、昼寝札発行、入口灯油皿貸与を一時保留』


 テオが背伸びをした。指先は結び目に届かない。


「釘は低いのに、開ける紐だけ高い」


 その一言で、ノエルは札を破る手を止めた。


 破れば、今日は開くかもしれない。だが灰色札は、また別の窓口で同じことをする。代表者の名前が一つないことを理由に、五人で作った朝をまとめて閉める。


 標準開閉係の男は、困った顔で帳面を抱えていた。


「責任者欄が空白なのです。事故防止です。誰が開け、誰が灯りを借り、誰が昼寝札を出すか不明では――」


「不明なのは代表者名じゃない」


 ノエルは低い五釘の横に、青い小札を四枚置いた。


「朝に開ける人。読める高さを確認する人。昼寝札を出す前に本人が眠れる状態を見る人。入口灯の油皿を夜まで残す人。責任は一人の名じゃなく、動作で読む」


 ミナが油皿を抱え直した。昨日まで貸与物扱いだった小皿を、彼女は半分だけ別の皿へ移す。


「これは代表者の油じゃありません。夜に帰ってくる人が入口を見つける分です」


 マラは休憩賃金札を外さず、札の下へ自分の字を足した。


「閉める前に、未読札を一枚ずつ読みます。読めなかったら、閉門じゃなくて保留です」


 ミトは薬確認を大人帳面へ写さず、低い釘の横へ小さく書いた。


「薬は、窓口が閉まっても飲み終わり待ち」


 テオは高い結び目をほどかなかった。代わりに、窓枠の下へ細い紐を一本通す。子どもの肩の高さで引ける、朝開け紐だ。


「これなら、明日も届く」


 ルカが灰色札を捨てず、その上から青い札を重ねた。


『代表者未設定ではなく、開閉動作分担未記入。窓口停止不可』


 標準開閉係の男は、しばらく青札を見つめたあと、帳面を閉じた。


「……本日の朝だけ、分担記入をもって開扉扱いにします。正式確認は後刻」


 低い紐が引かれた。


 窓口の木戸が、きい、と朝の音を立てて開く。


 ミトの薬札が読める。マラの休憩札が落ちない。ミナの油皿は入口灯の横に残る。テオは背伸びをやめ、両足を床につけたまま開いた窓を見上げた。


 ノエルは、灰色札の裏に小さな別文を見つける。


『北塔生活窓口、標準高さ確認の対象とする』


 高い紐は、まだ残っている。


 けれど今日の朝だけは、一人の代表者がいなくても、五人の手で開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ