表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/55

厨房外の木皿は、皿音だけで帰っていません

王宮厨房の外で、木皿が返却箱の底を叩いた。


 乾いた音だった。


 その音を聞いた途端、返却口の上に吊られていた小さな札が、ぱたりと裏返る。


 ――返却済み。


 ニルは、その札を見て肩をすくめた。昨日、欠け匙を握って北塔へ来た少年だ。今日は自分の皿ではなく、両腕にもう一枚、小さな木皿を抱えている。


「殿下。この子の皿、音はしました。でも、まだ一口しか食べてません」


 ニルの後ろにいた痩せた子が、慌てて首を横に振った。名札はない。袖口に粉がつき、片足だけ台に届かないまま、立って食べていたのだろう。


 返却係の男が面倒そうに帳面を閉じた。


「皿が戻ったなら完了だ。厨房外は混む。次の班を入れろ」


「完了していません」


 俺は、返却箱の前に膝をついた。


「皿が帰った音と、人が食べ終えたことは、別の欄です」


 返却箱の底には、同じ大きさの木皿が三枚重なっていた。どれも濡れた粥が端に残っている。返却済みの赤線は三本。けれど、席札は一枚もない。


「ルカ、欄を増やして」


 ルカが小さな板を取り出し、床に置いた。


「本人着席前。本人二口未了。手拭い未到着……でいいですか」


「うん。皿音完了とは分ける」


 ミナは温め直し鍋の横に、古い手拭いを掛けた。濡れてはいない。拭いた跡もない。


「手が粥で冷たいままなら、食べたことにできません」


 テオは返却口の台へ腕を伸ばし、自分の肘を当てた。台は、彼の肘より高かった。痩せた子なら皿を置くために、つま先立ちになる。


「この高さだと、皿を置く音だけ先に帰る。人は、まだ席へ戻ってない」


 返却係が舌打ちした。


「そんな細かい欄を作ったら、昼の列が詰まる」


「列を詰めるために、食べていない子を返却済みにしない」


 俺は、北塔生活窓口の青い保留札を一枚、返却箱に結んだ。


「今日からここは、低い仮返し台を置きます。皿を返す前に、本人が座ったか、二口食べたか、手を拭いたかを確認する。皿が先に鳴った時は、未帰着皿です」


「未帰着……皿」


 名札のない子が、初めて顔を上げた。


 ニルが、自分の欠け匙を胸に押し当てたまま言った。


「名前、書いていいぞ。俺も昨日、書いた」


 子どもは迷った末に、ルカの板へ震える字で「ミト」と書いた。


 ミナが温め直した粥を小さな椀に戻す。テオが空箱を裏返し、低い台にした。俺はその上に、ミトの木皿を置く。


 ミトは腰を下ろした。


 一口目は、慌てて飲み込んだ。


 二口目で、肩が少し落ちた。


 返却箱の赤線は、青い札で覆われたままだ。


「皿だけ帰っても、人がまだなら、完了しません」


 ルカがその言葉を欄名にして、低い仮返し台の端に釘で留めた。


 その時、厨房奥から黒い配送籠が運び出された。


 籠の横には、もう別の札が貼られている。


 ――厨房出発済み。配達完了扱い。


 ニルが、小さく息をのんだ。


「殿下。あれ、夜番の分です。まだ誰も、受け取ってません」


 俺は、返却箱の青札を見てから、黒い籠へ目を向けた。


「じゃあ次は、籠が出たことと、人が食べて帰れることを分けよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ