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DM─マルファンクション  作者: 三郎忠
1/20

プロローグ


ヨーダ:

 レント、ノーマ、2人とも準備オケけ?


レント:

  お毛マル。ヨーダから2時方向距離約1km


ノーマ:

 お毛け、言うなしwww

  同じく。ヨーダから10時方向に1km着


 視界ビューの左上に表示されたエリアマップに青い光点が2つ。それぞれのHNと距離が表示されているのをチラリと確認する。マップ上で私の位置を表す緑色の光点を結ぶと二等辺三角形を逆向きにしたような形に配置している。


ヨーダ:

 よっしゃ!位置確認オケ、信号送る。受信後3秒でレントは西、ノーマは東に移動。速度は100kmでよろしこ。


レント:

 リョ!


ノーマ:

 アイアイ!


ヨーダ:

 ダンジョンコアの設定完了。階層は100階層で設定したよ。ダンジョンの入場口生成開始から最奥階層生成終了まで所要時間はシステムタイムで2400時間…リアルタイム換算すると80時間くらいだから…だいたい3日後くらいかな?


レント:

 ん〜、だいたい合ってるんちゃう?…せやけど今まで貯めてた"建設時短アイテム"使えば8時間まで短縮可能や♪


ノーマ:

 じゃあチャッチャと生成開始しちまおうぜ。学校行って夕飯食ってからまた集合すりゃ、だいたいの"枠"は出来てるんじゃね?細かい設定やら何やらしなきゃだし、こりゃ明日もオール確定みたいだな……ヨーダ?


ヨーダ:

 ……これでよし、と、お待た〜♪信号送ったお〜



 私達は学生最期のGWを仮想世界で思い切り楽しもうと毎日ゲームに精を出していた。今はその前の準備をしている最中だ。昨夜拠点にしている村を出発して森に入り、途中に湧き出るモンスターを討伐しながら進んできた。ようやく大森林の中心部に在る目的の湖がマップに表示された所だ。


 同じサーバー内に居るの他のプレイヤー達はGW中に行われるSVS(サーバーvs サーバー)戦争のための資源集めに奔走している事だろう。


 私のHNは『ヨーダ』 本名は衣世田真樹(いよたまき)。


 私はシステム画面を開いた。幼馴染3人でチーム《IRE》を結成してから6カ月、貯金していたお年玉やらバイト代を集めて1人5万円を出し合って課金した15万G(1ジェム=1円)でチーム購入した【SSRダンジョンコア[無限回廊]】をアイテムボックスから取り出す。

 私のアバターの手にはソフトボール大の金色に輝くダンジョンコアが握られていた。


レント:

 ヨーダ…お前のカンストした【投擲スキル】を信じとるからな。俺達の全財産を貴様に託したんや、ほんまに…ほんっまに頼むで!!!


ヨーダ:

 ん〜、女々しい!女々しい男よなぁw レントよ。 中等部門で全国準優勝したソフトボール部、元エースである私の"黄金の左腕"を信用して任せてちょぅよ♪


ノーマ:

 レントが女々しいのは禿が同意するレベルだなw だがインフィニットイーターの収納限界値を破るためにお前の希望で15万Gもするダンジョンコアを買ったんだからな?もし失敗しやがったら現実世界で性別女子に産まれてきた事を後悔させちゃるレベルだからな!…でゅふ♪でゅふフフフ…


レント:

 せやで? デュふふふふふ…


ヨーダ:

 うっひぁ〜…キモっ!!その笑い方止めぇ、二人とも!

 まぁ万に一つもミスはありえんが、その戯言自体は私を女子と認めている故、もたざる者が思わず溢した思春期拗らせ(欲求不満)全開リビドーの発露として許容するのも吝かではない…


レント:

 あ、ごめんな… 無いわwww


ノーマ:

 あ、うん。ごめんな… 言い過ぎたなwww


ヨーダ:

 おい!そこで草生やすなwww んで、謝んなっ!

 …まぁ冗談はこれくらいにして信号送るぞ!?

 are you Readyっ!?


レント:

 オケ


ノーマ:

 ん


ヨーダ:

 ちょw、ノリ悪いなぁ…



 今日、それを仮想フィールド内の『赫灼(かくしゃく)の大森林(だいしんりん)』の最深部に在る紅玉湖(レイクオブルビー)へ投げ込むため、それぞれのアバターで大森林を攻略に来ている。時刻はam6:00。

 実は昨夜20:00からぶっ続けでログインしているので少々ハイになっているかもしれない。昨年発売されたばかりの家庭用汎用ゲーム機でダウンロードをした。


 VRMMOゲーム《Free World》


 MMOSLG《フリーワールド》は自由度の高さが売りのVR(バーチャルリアリティ)ゲーム。運営側が予め用意したシナリオ(サーバー毎に異る)を攻略するのも良いし、シナリオをクリアしてから生産系を突き詰め伝説のアイテムを創作(クラフト)するのも自由だ。


 私達が登録した第38サーバーでのシナリオ自体は既に攻略済だ。 シナリオ最終盤で私達が討伐した魔王は今後、月一で出現するレイドボスとなる。レイドに参加すれば貢献度に応じて必要なアイテムを獲られるので、後発組もシナリオをクリアする事は可能になっている。


 シナリオ攻略後はプレイヤー各自が資源を集めて城(拠点)を造る事が出来るようなる。今後はシナリオの外で独自国家を築き、他プレイヤーと同盟を組んだりしてPVPが楽しめる。要はRPGとSLGの良いとこ取りをしてクラフト要素を加えた あざとさ満点のゲームである。


 そんな自由なゲームの中で私達幼馴染3人で結成したチーム『IRE』は最近サーバー内でダンジョンメイカーとして名を馳せていた。

 ゲーム中のフィールドに課金アイテムで"穴"を穿ちダンジョンを創る。 ダンジョン内のモンスターから獲られる様々な素材やアイテムは他プレイヤーの資源となる。


 私達はダンジョン内素材を餌に、シナリオクリアが目的のプレイヤーやシミュレーション要素を楽しむための築城に必要な資源採取目的で侵入するプレイヤー達を鏖殺する事に喜びを見出した。それが我々ダンジョンメイカーだ。


 ダンジョン内にいかに魅力的なアイテムやモンスターを配置出来るかが腕の見せ所。攻略難易度は高過ぎず、かと言って低過ぎても飽きられてしまう…そこそこ楽しませて素材も採取させながら、最終的に深層に引き入れたプレイヤーをキルして装備を奪うのが快感なにょよ〜♪


ヨーダ:

 うぉおおおっ燃えろ!我が内なる宇宙よ!


 私の声がマイクを通してチャットへ文字変換される。もちろん音声チャットも可能なのだが、聞き馴染んだ声がヘッドホンから聴こえては雰囲気が台無しになるので私達は文字変換チャットを採用していた。

 ゲームBGMもなかなかに秀逸なので汚い声を聞きたくないのも本音だったりするんだけどなw


レント:

 ゲーセンパチスロネタ止めぇやwww


ノーマ:

 それなw お!信号来た。レント、我らも出るぞ!


レント:

 おう!インフィニットイーターがコアを咥えるまでは絶対に討伐したらアカンで!? ええなっ、ヨーダ、ノーマ!


ノーマ:

 分かってるって♪ 出るぞーっ!

ヨーダ:

 わーっちょる。ひつこいぞ!


レント:

 よっしゃっ!


 先週幼馴染同士で金を出し合って課金購入した超高価(上から2番目に高額。ちなみに一番高いのは30万G)なダンジョンコアで仮想フィールドに穴を穿ち、連休前に新たなダンジョンを制作する予定だ。


 帰宅部で就職予定組な私達はGW初日を明日に控えても特に予定は無い。全サーバー対抗のPK(Player Kill)スコア上位に食い込めさえすれば賞金が出たりする。1位はなんと50万G!私達が目指すのはもちろん頂点!


ヨーダ:

 どぅおっせぇえい!!!



 そんな事を考えながら私は左手に握ったコントローラーから気合と共に【投擲】コマンドを入力する。 私のアバターが左手に握ったソフトボール大のダンジョンコアを得意のウ(・)イ(・)ン(・)ド(・)ミ(・)ル(・)投法で大きく腕を一回転させて投げた。投法はスキル設定の"アバターアクション"で私の動きをモーションキャプチャして登録した拘りアクションだったりするw


 Lv10【投擲スキル】により放たれたコアがマップ上でロックオンした標的に向かって木々の隙間を縫うように高らかに放物線を描いて空へ舞って行った。ちなみに投擲スキルの飛距離限界は1km。


 初期のレイドボスであるインフィニットイーターの胃袋は魔法鞄(マジックバッグ)の素材となる。収納限界は東京ドーム1個分(あくまでも仮想空間だけどねw)。 ゲーム開始時にアイテムボックス製作用の"胃袋の欠片"を集めるために用意されたイベントボスだったりする。


 一般的なダンジョンメイカーが使用するSRコアの階層は胃袋と同じ大きさで販売価格は5万G。 通常ダンジョンコアはフィールド内で鉱石などの発掘ポイント上に設置するのが常識とされているのだが(そうする事で発掘ポイントの資源を含んだダンジョンが生成されるから)、ダンジョンコアを展開する際に空間属性持ちのモンスターをダンジョン生成素材に含む事でダンジョン内のエリア拡張が可能になる。


 しかもインフィニットイーターをダンジョン内に取り込む事で"胃袋の欠片"も採取可能になるから、ダンジョン生成前から人気ダンジョンは確約されたも同然ってわけ。ウハウハじゃあwww


 インフィニットイーターの収納限界と同じサイズのダンジョンしか展開出来ないSRコアでは、単にモンスターの餌になってしまい、そのまま消化されて消滅してしまうため、イベントボスを取り込むにはどうしても今回のSSRダンジョンコア[無限回廊]が必須だったんだけど…この辺りソシャゲの闇深さを感じるわね…


 ちなみに更に上のUR(ウルトラレア)ダンジョンコア[夢幻回廊]は驚愕のお値段30万G!一つのサーバー毎に一つしか購入出来ない。

 しかもダンジョン[無限回廊]をレベルmaxにしてPKスコアも全サーバー(155サーバー✕(1000プレイヤー/1サーバー))でトップ10以内でないと買えない…

 購入条件が鬼畜すぎるwww もう笑うしかない…

 


レント:

 うぉおおおおおっ!走れっ、行け行け行けっ!


ノーマ:

 インフィニットイーターのマーカーが黄色から赤色の警戒色に変わったぞ。ヨーダも出たか?全員で同時に仕掛けるぞ!


ヨーダ:了解っ!もう走ってるw


 両手のコントローラーを左右同時に前へ倒し込むことで[疾駆]コマンドが入力される([疾駆]はスキルでは無く全プレイヤーの基本機能)、アバターが一瞬で100kmの全速力で駆け出したためスクリーン画面の景色が長く延びて夜の首都高を流れるテールランプの様に尾を引いて左右に流れて行くのをただただ見つめていた。 綺麗だなぁ… 1分弱続く光の彩宴にウットリしながらもエリアマップをチェックする事も忘れない私。エラい!


 クラフト職の"ダンジョンメイカー"に転職したのはシナリオクリア後だけどシナリオクリア時のクリア報酬として得た"強くてNG(ステータス継承)"により、私のキャラはレイド魔王討伐時のステータスをしっかり引き継いでいる。 私の前職は "罠師Lv99" 、レベルはカンストしてる。ステータスはこんな感じ。


名前:ヨーダ (Account:Maki Iyota)

種族:ハーフリング(♀)

職業:ダンジョンメイカー(継職:罠師Lv99)

 HP :1000(max!)

 MP :333

 STR :33(max!)

 DEF :72

 INT : 81

 DEX :99(max!)

 LUK :10

 【スキル】ダンジョンマスター

 【継承スキル】縄術(ロープワーク)Lv10 投擲Lv10 属性魔法(土)Lv10 ボマーLv10


 元々クラフト職の攻撃力(STR)は低く設定されているので、ハーフリングの私は物陰からチマチマと爆弾を投げて攻撃するスタイルだ。実に私向き♪


 土魔法の取り柄は落とし穴(ピットホール)を掘れる程度なので、私以外で土属性を選択したプレイヤーはかなり少ないと思われる。私はモンスターの首に縄を括りつけて落とし穴に落とし、落とし穴に爆弾を投擲して討伐する。ちなみにスキル【ボマー】は課金スキルで1万Gもしたよ。バイト代3日分なりorz…


 他の二人はスキル継承を放棄して種族進化を選択している。レントは種族〈影人(シャドウマン)〉、ノーマの種族は〈吸血鬼(ヴァンパイア)〉だ。私はハーフリングのままダンジョンメイカーへジョブチェン。

 ハーフリングはこのゲームの中ではドワーフ的な扱いになり土魔法に+補正がある。選択出来る初期種族にはファンタジーでお馴染みのエルフやドワーフは無かった。


 レントの種族 "影人"は"陰キャ"からの派生。ノーマの"吸血鬼"は"グール"からの派生種族だ。種族が陰キャってwww もちろん種族"陽キャ"も居るwww


 ネタ枠だったわりには派生先はなかなかに優秀だったから別に良いんだけど…普通は選ばないよねw

 複数の職業を積み重ねていく過程でゲーム内の種族が進化していく可能性は示唆されているので、いつか条件さえ満たせば種族進化先としてエルフやドワーフなんかも出てくるのかも…?


──ピコンッ!


 ヘッドホンの左側のスピーカーから信号音が鳴った。


ヨーダ:

 おっと、投げたダンジョンコアが放物線の頂点に達したみたい。どれどれ… 現在地上から1000m、ダンジョンコア起動っと… よし、後はインフィニットイーターがコアを咥えた瞬間に最大火力で爆破するよーっ!レント、ノーマ、おなしゃす♪


レント:

 しゃあっ!現着&スキル【影縛り】発動じゃあ!

 ぐぬぬぬ…ぬ、捕ったどーっ! ノーマ、頼む!


ノーマ:

 同じく着っ&りょ〜っかい!スキル【紅血(クリムゾン)操作(オペレーター)】紅玉(ルビー)の組成を調整するぞ…っと、オケ、湖の中のルビー全て液状化と同時に火属性を添加、成功した! ヨーダ、くれぐれもイーターがコアを咥えた直後にやってくれよな!?……呑…込まれ…前に………………た………


───《ノーマ死亡、ログアウトしました》


 種族ヴァンパイアの"紅血操作"は赤い色をした物なら全て液状化して属性付与出来る優れものなんだけど如何せんMP燃費が悪すぎる。案の定MP切れしたノーマが死亡判定を受けて強制ログアウトした。システムメッセージが流れる。


ヨーダ:

 はいはい分かってますよ〜♪アディオス、ノーマ。

 レントは乙(おつ)るまで"影縛り"維持だよっ!


レント:

 さらばや…ノーマ。 どうせこの後学校で会うんやけども(笑) それにしてもヨーダはん、自分、人使いが荒すぎひん?…そんなに旦那扱き使うてたら嫁の貰い手あらへんよ?お父ちゃん今から心配やでwww


ヨーダ:

 誰が"お父ちゃん"じゃボケw それにノーマは"旦那"じゃねーしwww アホレント乙。これでも喰らいなっ♪


レント:

 …へ?


 私はインフィニットイーターの大きな口にコアが呑み込まれていくのを見ながらニヤリと悪い顔(設定したw)でレントのアバターを見る。

 種族シャドウマンの"影縛り"は対象から10m以内でないと捕縛出来ないため、湖の畔に両足を浸して両手を前に突き出すレントの影人(アバター)は今行動不能状態。レントのアバターの顔がヒクッと引きつった。


 直後に私は右手で湖へ放った閃光弾にスキル【ボマー】による起爆コマンドを入力する。「はい。オトン退場なw」


───カッ! …ガカカカッ !!!


 私の【ボマー】で5倍補正され超強化された閃光弾のストロボ効果で湖に散らばる無数のルビーが一斉に紅く輝く。ノーマが液状化して付与した火属性流体ルビーが全て誘爆され湖全体がフラッシュした。

 世界を包むかのように巨大な紅い閃光が弾け、次の瞬間にはモニター全てが紅い閃光一色に染まっていた。



───ドドドドドドドド……ズドンッ!!!!!!



レント:

 ぎゃああぁあっ?! め、目があぁあっ!

 ちょ、おま、それは無い…や……………ろ………


───《レント死亡、ログアウトしました》


ヨーダ:

 ふふっ、いい夢みろよ?レントwww


 種族影人(シャドウマン)の弱点は強い光りに晒される事である。もちろん狙い通りwww

 後でログインし直したレントがチャットログを確認して悔しがる姿が目に浮かび、私はもう一度ニヤリと笑った。


───《インフィニットイーターが討伐されました》


 チャット欄にシステムメッセージ。一人フィールドに残った私は小さくガッツポーズをしながら、紅玉湖の水が干上がり徐々に巨大なクレーターへ変化していくのを確認した。




◆




──1時間後


「ふうぅ、これでオッケーかな?そろそろ支度するか…うっはぁ〜楽しみだな〜♪さて、学校行って寝なきゃ…」


 ノーマとレントがログアウトした後、私は湖の跡地のクレーターの最深部に降りた。中心部にはインフィニットイーター(見た目は巨大ナマズだ)が大口を開けたまま石化した姿のダンジョン入口が出来ている。 見た目は金色のナマズ… 縦10m 横幅は50mくらいは有りそう、かな?


 コアを起動した時の高さが1km。ダンジョンコア起動時の高低差がそのままダンジョンの深さになるため、そのまま深度1kmのダンジョンになるはずだ。100階層に設定したので、1000mが100分割される。床の厚みを考慮に入れても1フロアの高さはだいたい8m 〜 10mになる予定。広さに関しては後で確認するしかないわね。何せこんな高価なダンジョンコアを使用したのは初めてだしw


 巨大な口の隅っこに青白く光るパネルが形成されていたので、私はパネルにアバターの手を当てて【ダンジョンマスター】スキルを有効にした。パネルに表示されたカーソルに購入時に割り当てられた暗証番号を入力する。


 ダンジョンの概要を設定する画面が現れたのでレント達と予め決めておいた初期値を設定してエンターキーを押す。ダンジョンが形成を開始したのを確認してからログアウトする…

 

「学校は寝る所じゃないからね!?」


「ひゃあっ!!?

 …あ〜ビックリしたぁ…お母さん、部屋に入る時はノックしてって言ってるでしょう〜」


 ヘッドセットを外して目を開いた途端に、いきなり視界に飛び込んできたのは母のドアップ。母はそのまま私の顔を両手で挟み込む。


「何言ってるのっ!何回呼んでも降りてこないから、まだ寝てるのかと思って起こしに来たのよっ!さっさと朝飯食べちゃいなさいっ!この放蕩娘っっ!!!」


 ペチッと私の両頬を軽く叩いてから、腕組みして仁王立ちする母。


「へ〜い…」


 泣く子と母(オニババ)には勝てぬよ。私は潔く敗北を認めて肩をすくめながら母と階下に降りる事にした。階段を降りながら母にギロリと睨まれた… 怖や怖や…




◆




「おはよ〜…」


「「「おはよ〜♪」」」

「マキちゃん、おはようーッ! ねぇねぇ、マキちゃんは明日からの連休は何か予定有るの?もし無かったらで良いんだけどね、ちょっと都内まで一緒に遊びに行けないかな?」


 教室に着いて隣りの席で屯していたクラスメイトにまとめて挨拶すると、中心に居る隣席の萌(もえ)ちゃんが捲し立ててきた。萌ちゃんは中学校からの腐れ縁。高校から髪色をピンクのツインテールに変えてキャラ変した強者(チャレンジャー)だ。


「ふぇ? いや明日から…てか、今夜から寝る暇も無いほど忙しいから無理。都内までって何かイベントでもあるの?」


 萌ちゃんはティーン向けのファッション雑誌で読者モデルをしていて、都内に在る芸能事務所と契約しているらしい。時給は幾らくらい貰ってるのかしら…

 私は自分の鞄を机の横に引っ掛けながら席に着く。


「えぇーっ!! 今夜からって…ちょっと待って、ちょっと待って!それって彼氏とお泊りって事?だよねだよね?キャーッ、エチい〜♪」


 萌ちゃんはそう言いながら周囲を囲むクラスメイトに意味有りげに目線を配ると、屯していた他の三人も「「「キャー♪」」」と口元に手を当てて黄色い声を上げながら私を見ている。全員の視線が私の頭から爪先まで無遠慮に何度も往復している。はぁ〜面倒臭い…


「は、ははっ、違う違う。私みたいな巨(・)人(・)に彼氏なんていないってばw ゲームだよゲーム。ソシャゲのイベでさ、明日から忙しいんだよね…ごめんね」


 中学校時代に全力でソフトボールをしていた私の身長は中学卒業後、高校一年の時に一気に伸びた。今では運動部でも無いのに女だてらに178cmの高身長を誇る立派なウドの大木だ。中学最期の決勝戦で無理して投げたのが祟り左肩を壊して投げられなくなった。


 その私に追い討ちを架けるように伸びた身長は私の心をバキバキに折って止めを差してくれたよね。マジ、伸びるなら中学の時に伸びて欲しかった…


「え〜ゲームって… まだ連取(つなとり)くん達と遊んでるの?あ、幼馴染だったっけ… そっかぁ~…残念だけど仕方ないね〜…事務所から身長の高い女の子が居たら紹介するよう頼まれてるんだ〜。マキちゃんならスタイル良いし、ピッタリだと思ったんだけどな〜…」


「はは… 私なんて ただデカいだけで何の取柄も無い地味子だから無理だよ。ムリ無理… アハハ…」


 私は右手をヒラヒラと振りながら、左手で一限目の数Ⅱの教科書を机の上に乗せる。私達の通う高校は商業高校なので簿記の授業がメインで数学は選択制ではない。ちょうど私が机に教科書を乗せたタイミングで担任の数学教師が教室へ入ってきた。けっこうギリギリだったわね… セーフセーフ…


「…お〜い席着け〜、ホームルーム始めるぞ〜…」


───ガタ… ガタガタガタガタ…


 萌ちゃんの周りで屯(たむろ)っていた女子達が席に戻る背中を見ながら私は小さく溜息をつく。はぁ、面倒臭い…女子比率の高い私の通う商業高校はどうしても女子だけのクラスが出来てしまう。


 レント、ノーマも同じ学校に通ってはいるのだけど、奴ら幼馴染どもと顔を合わせるのは昼休みだ。私は開いた教科書を机に立てて机に肘を付き、早速寝る体勢に入った。明け放たれた窓から初夏の爽やかな風が前髪を柔らかく揺らすのを心地良く感じながら、私の意識はいつの間にか遠退いていた…




◆




───昼休み


 「あ、マキ!ごらぁーっ!貴さん、今朝のありゃ何ねっ!なんばしょっとや、ワシのアバターごと爆殺しよってからにっ!いてまうど、こら!」


 「あ、誠〜♪おはよう〜さん。うんうん、朝から訳わからないエセ関西弁全開だね。お(・)父(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)www」


 今、私は昼(・)休(・)み(・)、私達幼馴染三人しか所属していない[文化研究会]の部室に来て弁当箱を広げている。部室と言ったけど[文化研究会]は同好会だ。

 私、衣世田 真樹♀。HN"ヨーダ"

 今さっき部室に入ってきたのは連取 誠(つなとり まこと)♂。HN"レント" もう一人は遠藤 紀雅(えんどう のりまさ)♂。HN"ノーマ"


 私達三人から一文字ずつ取って名付けたのがチーム名の[IRE]になるんだけど、本当はイヨタ、ツナトリ、エンドウだとITEになるはずだったのに、誠の苗字がよく"レンタツ"や"レンリツ"と誤読されるのでマコト自身の提案で"R"になった。どうやらIREとは"怒り"を意味するらしい。いかにも思春期を拗らせた男子って感じよねwww 三人とも文化研究会の部員である。


 「エセ関西弁ちゃうわ!今のは広島弁じゃ、アホッ!だいたい5才から関東(こっち)に住んでんのに関西弁なんぞ覚えとるかっ!両親とも関東北部出身やし…」

 「アハハハハ、なら何故、関西弁の真似なんかしてんのさw 広島弁も怪しいしw 本当にマコトは意味分かんない(笑)」

 「…そりゃお前が……ああ、もうええわっ!それより今朝のアレや!ちゃんとダンジョンコアの設定はしたんやろな!?ああん?」


 ちょっとマコトが変な感じに私から目を逸らしたけど、たぶん幼い頃の事を思い出したのかな?まあ、私は大人なので突っ込みはしない… 代わりに親指を立てて片目を瞑る。


 「ふっ、誰に言ってんの?バッチリグゥーだよ、お父ちゃん♪」

 「誰がオトンや…あ、俺か… なんや"バッチリグゥー"て、それを言うならバッチグーやろ。ならちゃんと時短アイテムも使うたんやろな?そんなら…」


 「ん?…時短あ?………………あーーーっ!!!」


 「なっ、なになに?急に… まさか…え?嘘やん」

 「…………………忘れちゃた…て、テヘペロ♪」

 「はあぁああああああっ!?おま、それ、シャレならんぞ、ダンジョン仕上がる頃にはGW、終わってまうやんけ…」


───ガラッ


 誠が掌を顔に当てて天井を見上げたのと同時に社会科準備室(私達の部室)の扉が開く。"ノーマ"こと遠藤 紀雅だ。


 「ちーっす、って、どしたん、マコト?」


 ノリマサは購買で買ってきたカツサンドを長机の上に置きながらチューチューと紙パックの苺ミルクを飲んでいる。


 「おう、ノリ。マキの奴やりよったど。時短アイテム使うん忘れたらしいで?…こりゃあ今朝の冗談が本気になる案件やで!…でゅふフフフ」


 「ひっ!…ご、ごごご、ごめんて!許してっ!」


 私はマコトの気持ち悪い目線を避けるように椅子を引きながら身構える。こいつ良い年して平気で脇をくすぐってくるから油断ならないのだ…


 「はあ?マジかよ…こりゃお仕置きが必要だなぁ?マキちゃんよ〜…でゅふ、フフフ…な〜んてなwww」


 「なんや、ノリ。マキの事を許してやるん?」

 「いや、許さんよ?けど時短アイテムならログインし直してから俺が適用しといたよ。大サービスだからな、マキ?連休明けから一週間は俺達の弁当も作ってくる事。それでどうだ?マコト」

 「おー♪ええやん、それで行こ。にしても流石はノリやな、マキの抜作をよう分かっとるわwww」


 「うはあぁああああああっ助かったぁ~…

 ありがとう!ノリ。うんうん、私で良ければ二人のお弁当も作らせて頂きまする〜…本当、ごめんね〜」


 「もうええよ、次は気ぃ付けるんやで?」

 「マキだからな〜…次も何かやりそうw」


 「うぅっ… 気を付けます…」


 どうやら今日から無事にダンジョン制作に取り掛かれそうなので私達は安堵した… ノリマサの懸念はその日のうちに実現する。元々その日の午後に予定されていた、メールも来ていたらしい…



………

……

…



 その日、私だけがフリーワールド[[システムメンテナンス]のお知らせ]を読んでいなかった…




暇つぶしの手慰みです。お気に召したらコメント下さい(^^) 誤字脱字報告は有り難く頂戴します。批判や突っ込みは不要ですwww ご都合主義の行き当たりばったり小説なので、お嫌いな方はブラウザバック推奨しています。


( ^^) _U~~

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