第四十五話 三輪からのユラ
朝の準備体操も終え、
太陽が、頭上高く昇る頃。
名張の広場が騒がしくなった。
「届いたようじゃな……」
シラガが、環濠の橋へ視線がむけた。
荷を負った者、長物を肩に担ぐ者、
包みを抱えた女たち。
三輪からの支援の一団だった。
「……ぁ……」
イミコが、小さく声を漏らす。
一団の中心にいたのは、
上等な植物でつくられた布の服。
木の腕輪に、貝殻の首飾りをした女性。
見覚えのある娘だった。
「……あの子……」
「ああ、また会えたな」
三輪の神殿の客間で、
皆に水を運んできた侍女の一人。
娘は、まっすぐこちらを見て、
広場の中央へ進み出た。
「三輪連の由良にございます」
澄んだ声だった。
「支援の取りまとめを任されました。
しばらく、名張にてお世話になります」
村の空気が変わる。
「女が、まとめ役なのか……」
そんな言葉が、
村の、どこかから聞こえた。
* * *
彼女は、三輪の「連」と名乗った――
三輪の血筋に連なるような重い立場ではない。
けれど、三輪の手足として働くために育てられた人間か。
マヒトに近い……いや、もっと現場寄り……。
気が利く、だけでは済まされない。
場を回せるように教育を受けてきた人間だ。
* * *
ユラの年の頃は十代、なかばといったところ。
その後ろには男が十二、女が六。
合わせて十八の頭数となる。
穀の入った袋、布、道具、農具。
そして、生活に要るあれこれ。
「こんなに寄越してきやがったのか」
イワホコが、思わずといった顔で口を開いた。
「それだけ、三輪は、名張を、
大きく見ているということですね」
はたして敵か、味方か……。
俺達の監視という役割も込みでだが。
――――――――――
「荷は広場の端へ道を塞がぬように。
女手は、あちらへ……」
名張の村に到着してからの、
三輪の者たちの手際は、実に見事だった。
「農具は、まとめて下ろして、
勝手に分けないで……」
ユラの的確な指示に従い、
三輪側の者たちが流れるように動いていた。
誰も慌てず、誰も逆らわない。
名張の広場に贈物が運び込まれていくのに、
微塵の乱れもなかった。
「女だてらに、よく動かす」
タケが、腕を組んだまま鼻を鳴らした。
「そういう言い方すると、
また、女衆の皆さんに叩かれますよ」
俺の言葉に、タケは黙って肩をすくめた。
――――――――――
荷の整理が落ち着いた頃、
穢れから、土を作る場所へ案内した。
「これが、三輪で話した、土を肥やすものです」
「これが……」
不浄の場を前にして、
皆、少しだけ呼吸の仕方を変えていた。
「ただ捨てるのではなく、
積み、分けているのですね」
ユラは興味深げに穴の中を見下ろす。
「重ねて、寝かせて、土へ返すのです」
「これは、畑へ戻すまでに、
まだ、時を必要とするのですね……?」
「そうですね、今回の畑には間に合わないでしょう。
次の畑のときに期待ですね……」
ユラの目は、思った以上に早く動いていた。
「三輪で聞いた時より、
実物のほうが分かりやすいですね」
三輪の正堂にユラの姿は無かった。
となると、正堂に面した廊下側で聞いてたのだろうか。
彼女の立場は、また特殊な事情がありそうだ。
そして、はっきりしたことがある。
送り込まれてきたのは、
ただの人数合わせではない。
ユラだけではない――
そのまわりの者たちも、理を聞けば学び、
実物を見て測る素養があった。
――――――――――
あらかたを見てまわり、
名張の広場へ、戻ってきた。
そして、あたりを見渡すと、
村が狭く見えた。
「家も、領域も限界か、
少し広げなければいかんな……」
シラガが隣で呟いた。
「今日来た者たちの分は、
しばらく、三輪からの物で賄えますが、
その先を考えるとなると……」
今回で、村の頭数は百を超える。
小さな寒村の感覚では回らない人数である。
「……頑張らなきゃな」
誰に言うでもなく、俺は、独り言ちた。
名張の広場に吹く風は、
次の段階へ向いている気がした。




