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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:六章】名張の富国強兵

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第四十五話 三輪からのユラ

 朝の準備体操も終え、

 太陽が、頭上高く昇る頃。


 名張の広場が騒がしくなった。



「届いたようじゃな……」


 シラガが、環濠の橋へ視線がむけた。


 荷を負った者、長物を肩に担ぐ者、

 包みを抱えた女たち。


 三輪からの支援の一団だった。



「……ぁ……」


 イミコが、小さく声を漏らす。


 一団の中心にいたのは、

 上等な植物でつくられた布の服。


 木の腕輪に、貝殻の首飾りをした女性。

 見覚えのある娘だった。


「……あの子……」


「ああ、また会えたな」


 三輪の神殿の客間で、

 皆に水を運んできた侍女の一人。


 娘は、まっすぐこちらを見て、

 広場の中央へ進み出た。



三輪連みやのむらじ由良ゆらにございます」


 澄んだ声だった。


「支援の取りまとめを任されました。

 しばらく、名張にてお世話になります」


 村の空気が変わる。



「女が、まとめ役なのか……」


 そんな言葉が、

 村の、どこかから聞こえた。



 * * *


 彼女は、三輪の「むらじ」と名乗った――


 三輪の血筋に連なるような重い立場ではない。

 けれど、三輪の手足として働くために育てられた人間か。


 マヒトに近い……いや、もっと現場寄り……。


 気が利く、だけでは済まされない。

 場を回せるように教育を受けてきた人間だ。


 * * *



 ユラの年の頃は十代、なかばといったところ。


 その後ろには男が十二、女が六。

 合わせて十八の頭数となる。


 穀の入った袋、布、道具、農具。

 そして、生活に要るあれこれ。



「こんなに寄越してきやがったのか」


 イワホコが、思わずといった顔で口を開いた。


「それだけ、三輪は、名張を、

 大きく見ているということですね」


 はたして敵か、味方か……。

 俺達の監視という役割も込みでだが。



――――――――――


「荷は広場の端へ道を塞がぬように。

 女手は、あちらへ……」


 名張の村に到着してからの、

 三輪の者たちの手際は、実に見事だった。


「農具は、まとめて下ろして、

 勝手に分けないで……」


 ユラの的確な指示に従い、

 三輪側の者たちが流れるように動いていた。


 誰も慌てず、誰も逆らわない。


 名張の広場に贈物が運び込まれていくのに、

 微塵の乱れもなかった。



「女だてらに、よく動かす」


 タケが、腕を組んだまま鼻を鳴らした。


「そういう言い方すると、

 また、女衆の皆さんに叩かれますよ」


 俺の言葉に、タケは黙って肩をすくめた。



――――――――――


 荷の整理が落ち着いた頃、

 穢れから、土を作る場所へ案内した。


「これが、三輪で話した、土を肥やすものです」


「これが……」


 不浄の場を前にして、

 皆、少しだけ呼吸の仕方を変えていた。



「ただ捨てるのではなく、

 積み、分けているのですね」


 ユラは興味深げに穴の中を見下ろす。


「重ねて、寝かせて、土へ返すのです」


「これは、畑へ戻すまでに、

 まだ、時を必要とするのですね……?」


「そうですね、今回の畑には間に合わないでしょう。

 次の畑のときに期待ですね……」


 ユラの目は、思った以上に早く動いていた。


「三輪で聞いた時より、

 実物のほうが分かりやすいですね」


 三輪の正堂にユラの姿は無かった。

 となると、正堂に面した廊下側で聞いてたのだろうか。


 彼女の立場は、また特殊な事情がありそうだ。



 そして、はっきりしたことがある。


 送り込まれてきたのは、

 ただの人数合わせではない。


 ユラだけではない――


 そのまわりの者たちも、理を聞けば学び、

 実物を見て測る素養があった。



――――――――――


 あらかたを見てまわり、

 名張の広場へ、戻ってきた。


 そして、あたりを見渡すと、

 村が狭く見えた。



「家も、領域も限界か、

 少し広げなければいかんな……」


 シラガが隣で呟いた。


「今日来た者たちの分は、

 しばらく、三輪からの物で賄えますが、

 その先を考えるとなると……」


 今回で、村の頭数は百を超える。

 小さな寒村の感覚では回らない人数である。



「……頑張らなきゃな」


 誰に言うでもなく、俺は、独り言ちた。


 名張の広場に吹く風は、

 次の段階へ向いている気がした。


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