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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:春】三章「村の開拓編」

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第十二話 イミコ誕生

「今から、皆に……今日を教えようと思う」


 男たちは顔を見合わせる。

 誰もが、その意味を測りかねていた。



「ここに立てた若木は、太陽の光を浴びて、

 この位置まで影を伸ばしています」


 建てた若木から伸びる影の先端を指差す。

 そこには、ひとつの小石を置いてある。


「……それが、何だというのだ」


 イワホコが腕を組んだまま唸る。


「このまま、少しだけ、見ててください」



 それからしばらく。


 鳥の声、風の音だけが流れるなか、

 若木の影は、ゆっくり、小石の位置から離れていく。



「……ぁ」


 最初に声を上げたのはイミコだった。


「……にぃに……うごいた……!」


 イミコの声につられ、村人たちも地面を覗き込んだ。


「たしかに、先ほどとは違いますな……」


 シラガが皺だらけの目を細める。


「陽が空を巡るから、それに合わせて影も動きます」


「……それは、そう……ですな……」


 シラガは小さく頷く。

 それは、この当時の人たちにも当然の理だろう。



「若木の影が一周して同じ位置に戻る。

 このひと巡りを『一日』と呼ぶことにします」


「いち……にち……?」


 シラガは、なにかを考えこむように、

 影へ視線を落とした。


「陽が沈んで、また次の陽が昇ることなんて、

 そんなことは俺でも知ってるぞ」


 イワホコが胸を張る。


「ええ、体感的な『一日』は、

 この場の皆の中にもあると思います……」


 だが、大事なのは、ここから――



「影が元の場所に戻ってくる瞬間、

 その基準点を定めることに意味があります」


「……ん? そんな必要があるのか?」


 イワホコは眉をひそめていた。

 この時代の人間には普通の反応だろう。



「小石で区切りを定め、影の基準点を打つと、

 皆が、同じ刻の流れを見て動けるようになります」


 三刻、六刻、九刻、十二刻……。


 若木のまわりを四等分するように、

 俺は、小振りの石を、影の先に積み上げていく。



「……なるほどのう」


 シラガは、ゆっくりと頷いた。


「時の流れを共有することにより、

 無駄なく村全体が動ける……ということか……」


 シラガが感心したように息を吐く。


 これまで、ずっと集団を動かしてきた村の長。

 この場の誰よりも早く、その利便性に理解を進めていた。



「……ふむ」


 イワホコは、まだ、腕を組んだまま。


「よくは、わからんが……この影と石を見ていれば、

 ……陽の巡りがわかるのか……それは、まあ……面白い……」


 イワホコの歯切れの悪い言葉に、

 まわりに笑いが生まれ、場の緊張がほどけていった。



――――――――――


「にぃに……」


 イミコが、そっと俺の袖を引いた。


「きょう、って……なに……?」


「今日、か……」


 昨日でも、明日でもない、今の瞬間のこと。


 単語にすれば簡単なのに、

 いざ、言葉で説明しようとすると妙に難しい。



「そうだな、じゃあ……今日を誕生日にしよう」


「……たんじょう、び?」


 イミコは小首を傾げる。


「今日を、俺と、イミコが生まれた日にするんだ」


「うまれた……ひ……?」


 まだ、きょとんとした表情を浮かべていた。



「今は、よくわからなくていい」


 そう言って、俺は若木の杭の影を指差す。


「明日になれば、少しだけわかる……」


 そこで一拍。


「昨日があって、今日があって、明日がある。

 それを繰り返せば、今日ってものが解ってくるさ」



「……ぅーん……」


 イミコは一生懸命に考えながら。


「……じゃあ、きょうは……たいせつなひ……?」


「ああ、そうだ」


 俺の袖を引く、そのちいさな手を取った。


 本当の生まれた日は、わからない。

 祝ったことも、祝われたこともなかっただろう。


 だが、今日からは違う――



「今日が、俺たちの始まりの日……誕生日だ……」


「……わたし……きょう……うまれたの……?」


「ああ」


「にぃにと……いっしょ……?」


「一緒だ」


 その瞬間、イミコの顔から緊張がほぐれ――


「……ぅれしぃ……!」


 一面に花を咲かせるように笑った。


「わたし……きょう、うまれた……! にぃにと、おなじ……!」


 その声は、あたり一面に響き渡った。


 白い衣が朝日に透け、

 胸元の勾玉は輝きを増しているようにも見えた。



 そんな俺達の姿を、

 まわりの男衆たちは呆然と見つめている。


「たん、じょうび……なんの話だ……?」


「わからん……」


 古来から「誕生」を祝うことはしてきたはずだ。

 だが、まだ日の巡りを皆は知らない。


 誕生日の本質的な意味を、

 まだ、この場の誰も理解できていないだろう。


 それでも――


 小さな巫女が、新しい祝いの日を迎え、無邪気に笑っている。

 その光景は理屈を越えて人の胸に届くはずだ。



 シラガが、その場に膝をついた。


「これは……まこと、新しき日ですな」


 その一言に空気が変わる。

 ひとり、またひとりと、男たちが頭を下げていく。



「火の巫女様の……生まれの日……始まりの日、か……」


 イワホコだけは、立ったまま。

 だが、その顔に反発の意は見られない。


「……よくわからん。だが、悪くない」


 それで十分だった。



――――――――――


 再び、くいっと袖を引かれた。


「にぃにも……おたんじょうび、おめでとぅ……?」


 イミコが、覚えたての言葉を一生懸命に並べていた。

 その、たどたどしい一言に、胸が熱くなる。


「……ああ。イミコも、おめでとう」


「ぅん!」


 イミコは、満面の笑みで頷いた。


 その向こう側で。


 若木の影は、

 今も、時を刻み続けていた。


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